★~『秋の特別連載』 第2回 ~

第一章 会計と社会主義 = 一 頭脳のハイジャック =
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第一章 会計と社会主義


一 頭脳のハイジャック


■はじめに
 社会主義とは、私有財産を否定し、生産手段を国有化する制度だとされている。社会主義者の目標は、ソ連が存在している間は計画経済や統制経済に基づく社会を築くことだったが、今では主に福祉国家の建設を目指す場合が多い。


しかし、こうした辞書的な説明だけでは、就職と社会主義にどういう関係があるか分かるはずもないので、本稿ではまず五つの分野に分け、若年者の職業観や日本人の仕事において、私が社会主義に由来すると感じている現象を挙げてみることにしたい。


私が「社会主義的」という意味は、経済制度のあり方やその範囲内で起こる経済現象だけを指して言うのではなく、かつて小泉信三博士がその本質を指摘したような「壮大なる嫉妬の体系」としての社会主義、という意味合いである。


そうした社会主義的価値観が十八歳から三十五歳までの若年者、つまり、私が仕事で主に関わり、また、私自身もその範囲にある年齢層において、特に職業観や職業選択の分野で顕著に見られるのではないか、という仮説が本書を貫くテーマである。


 本書で行う問題提起の中には、牽強付会に過ぎる仮説や分析もあるだろう。


しかし私は、就業支援の現場において、同一の問題に対し、心理学を基礎としたアプローチや、話題を就職だけに限定した表面的な「就職コンサルティング」を行った時よりも、社会主義的価値観の除去によって正しい会計的視点を提供し、財務諸表の知識を提供して若者が自らの頭で考えるようになった時の方が、より多くの問題が抜本的に解決されたという確信を、何度も感じてきた。


また、会計教育は就職・実務能力の向上に役立つばかりではなく、健全な愛国心の喚起にも貢献する。


 もし、読者の会社の若年者採用や人事研修において、本来は仕事という営みに対する認識錯誤からもたらされた問題の原因を「能力不足」に求めていたり、簡単な知識の提供で解決できる問題に多額の研修費用を投じたりしているのならば、私は迷わず、若者の頭に巣食う社会主義的価値観を観察してみることをおすすめしたい。


また、もし、新卒採用や中途採用で自社の広報や社員の動機付け、能率の停滞に悩んでいるなら、この場合も社会主義理論と若者の職業観の関係を点検してみてほしい。


次に掲げる言葉や現象のうち、実際に毎日見聞きしていること、あるいは思い当たるものがあれば、社会主義的価値観の研究と除去は、必ずや読者の会社の人材が持つ可能性の底上げに寄与するだろう。なぜなら、これらは私が実地で解決してきた問題だからである。


本書を読み終える頃には、次の発言の裏に潜む心理が読み取れるようになるはずである。すなわち、改善策も見えるようになっているということである。


■日本は社会主義大国
 ではここで、社会主義的価値観が顕在化していると思われる事例を五つの分野に分け、貧乏神と厄病神にとり憑かれた人々の言動を整理してみたい。


①社会主義的価値観を象徴する言葉
 マルクスやレーニンがその著作や講演において、繰り返し繰り返し労働者に吹き込んだ理念は、義務教育やマスコミを通じ、形を変えてわが国の若年者の頭脳に注入されている。わが国の人々の中には、言葉は悪いが、今もってマルクスやレーニンに頭脳をハイジャックされたままの人も多いと見受ける。


職業観の根本に次のような社会主義的な思想が根を下ろしている場合、派生的に様々なストレスや不満が生じてくるので、単純な言葉ではあるが、代表的なフレーズを押さえておきたい。


・「働かざる者、食うべからず」
・「体が資本」
・「血と汗と涙」
・「人は能力に応じて働き、必要に応じて与えられる」
・「給料を払ってくれるのは、会社である」


②人生観・職業観に潜む社会主義的価値観
 社会人なら誰しもが一度は感じたことがある気持ち、そして、耳を澄ませば今日も会社や居酒屋のどこかから聞こえてくるつぶやきにも、社会主義の理論と大いに関係あるものがある。


会社とはこういうものだ、仕事とはこういうものだと人々はじきに諦めるようになるが、それはその会社だから、あるいはその業界だから発生する不満だろうか。本当はもっと別のところに真の原因があるのではなかろうか。本書でじっくり検証してみたい。


・一生懸命頑張っているのに、なぜ給料を上げてくれないのか
・なぜ、自分より汗をかいていない人の方が給料が高いのか
・会社は給料を出し惜しみしているんじゃないか
・仕事は嫌なものだが、生活上、やむをえないものだ
・やりたいことができるのは、社会の一握りの人だけだ
・フリーターになって、時間的自由を確保したい
・人生の至上目標は夢、愛、幸せである
・金持ちからいっぱい税金を取って貧しい人に分け与えろ
・金持ちは悪いことをしないとなれない
・金持ちはケチで強欲で争いが好きである
・社会に出たら遊べない(学生時代しか遊べない)と考える
・安っぽい自己啓発や占いが好き


③学生の就職活動における社会主義的心理現象
 学業を終える年齢が近付くほど、「働きたくない」と考える若者が増えていくわが国の教育とは、一体いかなる目的に沿って行われているのか。個性と独自性をどの世代よりも求めたがる若者の価値観が、意に反して他の世代以上に画一的で消極的であることは皮肉な現実である。


若者の間では当たり前で誰も疑わず、若者同士の間でこれらの現象が問題視されることはまずないが、論理的に考えると矛盾が溢れている思考形式や発言を抽出してみる。


・「仕事=自分がやりたいこと」と考える
・「やりたいこと」を思考の前提にする
・「やりたいこと」が見つからないと努力しない
・「本当の自分」という概念にこだわる
・「自分探し」という言葉に振り回される
・大衆の意見や噂に左右されやすい

・二者択一で考える
・専攻と職業の関連付けが表面的である
・仕事や会社のとらえ方が唯物的である
・「就職活動」と「就職手続き」の区別が分からない
・働きたいという気持ちになれない
・業界や会社、仕事の見方が分からない

・勤務条件や福利厚生ばかり気にする
・センチメンタルで浮動的な要因ばかりにこだわる
・就職活動をできるだけ遅く始めたがる
・就職活動をできるだけ早く終えたがる
・就職の際は、性格や習慣より要領や話題が大事だと考える


④若年者の労働意欲について
 近年は若年者の労働倫理や早期離職問題、あるいはフリーター、ニートの大量発生が社会問題化しているが、これらも若者だからという理由で片付けるのではなく、社会主義との関連性において考察した方が本質を突き止めやすい。


次の現象の中には、経営者や人事担当者が悩み、目下対策に頭を抱えている問題もあるのではないだろうか。


・すぐに会社を辞める
・給料をもらった分、あるいはそれ以下しか働かない
・労働意欲が低く、自発的学習を行わない
・上司や同僚に悩みやアイデアを打ち明けない
・オンとオフを必要以上に分けたがる
・管理職は何もしていないと思っている
・成功者に嫉妬し、仲間外れにする

・無意味に時間を引き延ばして残業手当を欲しがる
・責任のある仕事に就きたがらない
・昇給を求める動機が精神論的である
・合理的な経済観念が存在しない
・お客(取引先)の仕事を表面的にしか観察しない
・情報とは何であるかを理解していない


⑤社員の行動特性における社会主義的現象
 社会主義的価値観は、末端の新人の仕事にも悪影響を与えるが、その悪影響がさらに拡散して深刻な被害をもたらすのは、その価値観の保有者が上司となって権限を行使する時である。社会主義は、仕事から喜びと成長の機会を奪う思想だ。


次の現象は個人的性格に由来するものもあるだろうが、社会主義的価値観ときわめて親和性が高い現象であるため、特に事例として紹介しておく。本書を読むことで、上司の理不尽な説教に必要とあらば合理的な反論を行い、説明を通じて調和を図れるようにもなるだろう。


・営業で、気合いや付き合いといった学習不能な要素にこだわる
・自分はお金のために働いているんじゃないと言いたがる
・仕事のストレスを酒や遊びで解消しようとする
・業務の課題に対して、短期的・散発的対策で立ち向かおうとする

・部下に対し、「できるのは自分だけか」などと言う
・自分は良い仕事を取りたがり、部下には悪い仕事を押し付けようとする
・忙しいことをもって「自分は頑張っている」と思いこむ
・強い者に弱く、弱い者に強い


 以上が、推測ではなく実践の中から抽出した、社会主義的価値観の除去によって解決可能な不満、問題である。


私には、「少子高齢化」という言葉は日本人の可能性を冒涜する言葉のように聞こえる。頭数の不足は、国民が本気になれば、生産性とアイデアで補うことができると本気で考えている。そして、向上心や努力を形に変えるには、会計教育が絶対に必要だ。


私が「社会のお荷物」と言われるフリーターやニートの就業支援事業をやっているのは、これらの人々が希望を取り戻すソフトを作れれば、誰にでも通用する商品が作れるようになるからであり、仕事のかたわら学生サークルを応援しているのは、知識や経験がない若者たちに本質を伝える説明能力を磨きたいからである。


私がどういう着眼点から課題を設定し、問題を解決したかについては、具体的事例と推測した原因、実践した対策を添えて詳述する。



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