★~『秋の特別連載』 第1回 ~
お盆休みを使って書き上げた社会人・内定者向けのエッセイから。
今日から約2週間ほどは、先日ご案内したように、
主に社会人、内定者の方を対象に、職業倫理や現代社会の
諸問題を考えるためのエッセイを連載形式で配信します。
日頃は「ですます調」ですが、本連載は「だ、である調」です。
では、どうぞよろしくお願いします。
小島尚貴
【連載】
貧乏神と厄病神 ― その正体
~若者、そして日本人を支配する職業観の構造~
【まえがき】
本連載は、福岡という一地方都市で、主に若年者の就業支援と中小企業の採用支援を行ってきた私が、平成十四年の独立起業から今年までの五年間、ある仮説に基づいて就職・転職の現場で集めてきた見聞を考察してきた記録である。
その仮説とは「若年者の職業観と社会主義、及び会計的視点の関係」とでも言うべきもので、時代錯誤もいいところだと思われるかもしれないが、学生や社会人、人事担当者、企業経営者に細々と所見を表明してきたところ、どの層からも大きな反響を得たため、こうして書籍化し、世に問いかけてみることにした。
私は地方の名もない高校を卒業し、大学を二年で中退して、それ以降わずか十年足らずの社会人経験を持つだけの一事業主に過ぎない。
しかし、人生で最初の仕事が海外勤務であったことや、二十二歳までに独学で四ヶ国語を身に付けたこと、帰国後に従事した仕事が経済誌の記者であったこと、また、二十六歳で独立して、創業のかたわら、ある学生サークルのお世話係も担当してきたことから、世間一般でまかり通っているものとは若干違う意見を持つ機会を得た。
加えて、家庭環境の影響により、幼少時から多くの古本に囲まれて過ごしてきたためか、何事も仮説を立てて文献を漁り、原因や解決策を考えるのがささやかな趣味と化しているため、社会人となってからは、担当分野である会計やセールス関連の実務書と、経済や経営、産業、社会、歴史の書籍を比較しながら読んできた。
私は大学のゼミなど経験したこともないため、仮説を立てて研究を行い、調査結果を検証するといった体系的な勉強をしたことはない。授業には全く満足できなかった大学生活であったが、ゼミだけには憧れていたため、記者、経営者としての八年間、ゼミの真似事のような作業を個人的に継続し、実践の場で課題を設定し、資料を調べては、また現場に戻る学びを繰り返してきた。
大学はやめても、ずっと研究するテーマの一つや二つくらいは持っておきたい、そういう素朴な信念から、酒や遊びを最低限に抑えて古本を買い続けてきた。
そして先頃、三十代に突入し、同じような作業でも十年近く継続し、その調査と実践の記録を冊子化してくると、それなりの熟練によって仮説の命中精度も高まり、方々から講演やコンサルティングを依頼されることも多くなった。
また、私が本業とする若年者の就業支援においては、いわゆるフリーター、ニートと呼ばれる若者ですら、就職が決まらない若者は一人もいない。就職させることなど簡単で、私の目指すところは仕事を愛し、仕事によって利他を通じて利己をなし、社会貢献と自己表現のよりレベルの高い調和を求めて学び続ける若者を育てることにあるので、特に職業観の形成、発展には力を入れてきた。
私は本連載を、若者だけでなく、企業の人事担当者や教育現場の方々、あるいは社会主義や戦後教育を研究されている方々を読者層と想定して書いてみた。というのは、この方面の方々から、より詳細な指摘や批判、忠告を仰ぎたいからである。
未熟者と言われるのは、元より承知である。しかし私は、日本を愛する一日本人として、八年に及ぶ個人的な研究を経た結果、職業教育や仕事における社会主義の破壊的影響について、誰かに知らせずにはおれないという気持ちを抑えがたくなった。本連載は観念の遊戯による創作ではなく、あくまで日々の実践の記録である。
平成十九年八月十五日 小島尚貴
【連載内容】
~以下の19エッセイのうち、本メルマガでは12回を連載します~
■第一章 会計と社会主義
一 頭脳のハイジャック
・はじめに
・社会主義大国・日本
二 矛盾に鈍感な人々
・会計的無知は社会主義的価値観を呼び込む
・社会主義は「矛盾に鈍感な人」の頭脳に浸透する
三 職業教育なき現代日本
・車の運転にはなぜ免許証が必要なのか
・職業教育不在の現代日本
■第二章 「勤勉」という名の無能
一 「働かざる者」とは誰か
・「働く」とは何か
・「毎日一生懸命」は時として「怠け者」の証拠
・会計的無知は「体験万能」の唯物主義を呼び覚ます
・大学生でも理解できる「本当の仕事」の話
二 会社は給料を払わない
・給料の流れを知らない人は、無意味な努力に熱中する
・義務教育によって頭脳に注入される
・社会主義的労働倫理
・「教育」という名の調教
・社会主義的価値観が引き起こす集団自殺
・「入社」しても「仕事」をしていない人もいる
・会計教育は最高の福利厚生
三 一日は二十四時間ではない
・ファミコンの思い出
・テレビゲームから見える「時間運用」の仕組み
・時間は平等ではなく、いつも不平等
・時間の使い方が下手な人は社会主義になびきやすい
・要領の悪さを嫉妬でごまかす人々
・ボランティアと社会主義
・若者の愛国心は会計センスから生まれる
・小さくても深いきっかけが若者の視野を広げる
四 カンニングとリーダーシップ
・「桃太郎」は短所のかたまり
・学校のテストと社会のテストの差
・仕事の結果はカンニングの能力で決まる
・答え方を記憶するより、問い方を練習せよ
・「無」こそ最高のリーダーシップ
五 オンとオフ
・若者の間に毎年流行する思考形式
・できる若者とできない若者の「オフ」のとらえ方
・オンとオフを分けたがる人の生活は「全部オフ」
・休むのがもったいないと思える仕事とは
・会計を学べば余計なストレスは消える
■第三章 若者の群集心理と現代の社会主義
一 思考停止の「就活ごっこ」
・自分のやっていることが分からない学生たち
・ただの「手続き」を「活動」と呼ぶ就職ジャーナリズム
・すぐ役立つ対策は、すぐに役立たなくなる対策だ
・「ごっこ遊び」を打破するには
二 「やりたいこと」という呪縛
・相手不在、自己満足の職業観
・経営者は「やりたいこと」より「必要なこと」を考える
・若者は迎合ではなく本質的な感動を求めている
・自己優先の思想で迷い続ける若者たち
・「やりたいこと」は現代に甦った「若者版・社会主義」
・「得る」以前に「与える」という前提こそ大切に
・才能とは「やりたいことを見つける力」ではなく「やっていることを好きになる力」
三 就職と「唯物論」
・「商品」で会社や仕事を選ぶ若者たち
・「コト」に着目すれば頭が働き始める
・文芸批評と企業研究の共通点
・モノが心に影響を与えるのか、心がモノに影響を与えるのか
・「向き合う」より「同じ方向を向く」就職活動を
四 退化論
・「自分探し」と「本当の自分」
・耳障りの良さに潜む社会主義の誘惑
・進化論的発想は若者の現実認識をねじ曲げる
・祖先を「猿」と信じた者は猿に近づく
五 「過去」からの難民
・「怠慢の正当化」はこうして行われる
・仕事と勉強の価値を比べる必要はあるのか
・学生に「今しか遊べない」と言うのは無能な社会人だけ
・できる社会人は「学生」という身分を尊重する
・学生は社会人より厳しい環境の中にいる
・怠慢の結果はどこまでいっても怠慢
・人は逆境ではなく順境で挫折する
・共産主義者の記念日
・社会主義は労働を軽視する思想
六 マスコミと社会主義
・テレビがない家
・洗脳されやすい若者と大衆
・レーニンの宣伝・煽動戦略と現代のマスコミ
・分裂と宣伝への警戒を説いたインドの判事の言葉
・素朴に考えれば、おかしいことはすぐ見える
■第四章 仕事と言葉
一 情報の「味覚障害」
・名を正す
・よく使う言葉の裏に潜む社会主義的言語認識
・言葉をよく考えない人ほど、社会主義の魔術にかかる
・奈良時代の「脱税僧侶」と現代の教育
・素朴な再定義の実践事例
・正確な定義は精神に健康をもたらす
・偽物が溢れる現代だからこそ、本物を待望する若者たち
二 就職にも「素読」を
・「素読」の方法と意義とは
・「しごとはきつい」という素読
・素朴な定義の反復が自信を生み出す
・社員教育における素読の効果
三 わらしべ貧者
・昔話の威力
・投資と投機の本質的な区分とは
・若者の価値観に根強く潜む投機的視点
・負債運用に励む「わらしべ貧者」
四 書店雑感
・少年時代の本の思い出
・「読む」から「作り、売る」立場へ
・商業の「当たり前」が欠落した業界
・統制経済型ビジネスモデルがアイデアを枯渇させる
・クローズキャンパス
・保護者からの評判が悪い大学とは
五 「考える」ということ
・「標準化」という思想
・「考える」にもレベルがある
・現代の若者と江戸時代の農民はどちらが「考えている」か
・考える人の悩みと考えない人の悩み
・派遣労働と社会主義的労働の共通点
・社会主義的労働倫理は人と会社を不幸にする