◆今日の一言
No.454(07/7/23)

『売却目的の株式購入は、投資ではなく投機である』





夏の前期試験が終わる頃になると、「そろそろ今年も始まるなぁ」と思います。

金鳥の夏、じゃなくて「会計の夏」。

今年で5年目を迎えたFUNでは、毎年夏休みには経済、金融、会計関連の講座を開いていて、夏にレベルアップしたいと望む多くの学生さんたちが参加しています。



世間では、「今年の就職戦線は、売り手市場だ」と言っているようです。

それを、できない学生は「そっか、じゃあ、採用枠が多くて学生に有利なんだな」と捉えます。

一方、できる学生は、「そっか、じゃあ、人気企業の選考はもっと厳しくなるってことだな」と捉えます。



景気が良くても悪くても、できない人はいつもできず、できる人はいつもできるのが、こういう捉え方一つで分かりますよね。好景気も不景気も、まずは自分の頭脳の中から発生するものです。

「募集定員に満たなくても、能力がない学生を採用するつもりはない」

こう答えた会社は、上場企業中、実に7割に上るということです。社会情勢を「自分の願望」と照らし合わせて捉えるか、それとも「将来の自分」や「周囲の動き」を捉えるか…。それがセンスというものです。



さて、センスといえば、会計センスを持っているかいないかは、就職のみならず、入社、営業、独立にも多大な影響を及ぼすほか、生活や人生にも決定的な影響を与えます。

そのセンスを垣間見るのに、「株式投資」は役立つ材料です。



株式投資。

かっこいいです。なんだか、それをやっているというだけで「お金持ち」のにおいがするし、一度はやってみたいような、でも怖いような、そんな思いにさせてくれる言葉です。

今は、ネットでもできるし、会社によっては一定額まで売買手数料が無料だし、少ない額でも24時間できるし…

ということで、「やりやすそう!」と思って、ネットで株を始める人も増えているようです。



しかし、このような行為が「投資じゃない」としたら、一体、どうすればいいんでしょうか。

やりやすくなったのと、儲けやすくなったのでは、全く別のことです。新卒採用が増えても、できない学生は受からないのと同じです。

客観情勢の整備、緩和は、難易度の低下を意味するというわけではありません。



株式投資には、二つの儲け方があります。

一つは、「A:安く買って高く売る」という方法で、売却益を見込むやり方です。

もう一つは、「B:長期保有で定期的に配当収入を獲得し、息長く資産を育てる」というやり方です。



経営的には、余剰資金を何らかの資産に投じているわけですから、AもBも「投資」と呼んで差し支えありませんが、会計的には、投資と呼べるのはBです。

機に乗じて安く買い、高くなった隙を見計らって差額を得る、つまり物件(この場合は株式)そのものを売ってしまうのでは、「投機」と呼んだ方が適切でしょう。

こういうのは「資産収入」ではなく、ただ、町の八百屋さんが野菜を安く仕入れて売っているのと何ら変わりません。



だって、短期売却目的の株式投資は、資産収入の資産収入たるゆえん、「資産が自分の分身となって時間を空けてくれる」というメリットを享受できていないからです。

野菜が金融商品に変わったから「投資」と呼べるわけでもなく、販売で差額収入を得る点では全く同じです。

それを、携帯やPCでパチパチ取引をしているからといって、「オレ、投資やってるんだ」と言うのは、会計が分からない人間の発想だということです。



投資とは、別に金融商品を買うことを意味するのではなく、資産を買って時間の生産性を上げる行為を言うのです。

24時間売買できるばかりに、いつも株価が気になってたまらず、10万円以下なら手数料無料だと何回も売ったり買ったりするような、「信じられない株」を買う行為の、どこが「投資」なのでしょうか。

本当の投資とは、調べまくって購入し、「5年間は株価を気にしなくても大丈夫」というくらいほれ込んだ銘柄を買う行為です。買った後に疑わしくなる株を買うな、ということです。



そういう「自称・投資家」が、24時間いつでも売買相談をしてきては、証券会社の皆さんも、たまったものじゃないでしょう。そういう人たちは投資金額も少ないので、「オンライン化」してしまった方がお得です。

手数料くらい、いくらか下げても十分釣りあうでしょうから。

そして、なりたくてたまらない「投資家」の称号をタダでプレゼントしてあげればよいでしょう。本当は「家」とは、「それを職業とする人」に付ける呼称なので、オンライン投資家は「投資者」に過ぎないのですが…。



貸借対照表が読める人にはお分かりでしょうが、売却目的で買った資産と、長期保有による設置・稼動によって間接的に経営に貢献させる目的で買った資産は、別勘定に計上されるものです。



つまり…

「A:短期間での売却益(販売収入)を狙って購入した株式=棚卸資産」

「B:長期保有の配当益(資産収入)を狙って購入した株式=固定資産」

です。



これは、

「A:ビルを建てたいという人のためにビルを作って売る=建設会社」

「B:ビルを保有して、長期的に家賃収入で儲ける=不動産会社」

の違いくらい違うといってもいいし、



「A:大衆が500円で買うコンテンツを集めて雑誌を作って売る=出版社」

「B:大衆が集まる雑誌に広告を取り次いで手数料で稼ぐ=広告代理店」

の差といってもいいほどの違いです。



ですから、「株価が上がれば差額は儲かるが、売ったらそれっきり」という「投機」と、「株式の保有によって間接的な権利収入を生み出し、十分に元を取って、本当にいらなくなったと思ったら、売却する」というのが「投資」です。

僕の周りにも、「働きたくない」という理由だけでネット証券会社に口座を作り、毎日パチパチ携帯を見ている人がいますが、「そんなに値段が気になるなら、最初から調べておけ」と言いたくなります。



「時間的自由が欲しい」と言って始めたはずなのに、気付けば余計忙しくなっている…。



しかも、儲けても「利回り10%」程度で喜んでいる…。



そんなの、事業だったら儲けにもなりません。

「500万円の資本金」で起こした事業で、翌年の売上が「550万円(利回り10%)」だったら、それは、上手な経営、つまり資産運用とは言えないでしょう。

ビジネスが株式になったからといって、本質的に「一定額の資本」を運用していることに変わりはないのですから、根本的にどういう資源を節約し、何がどう運用されているかを知っておくことは、本当に大事です。



「する投資より、させる投資の方が儲かる」とは、マネー塾の第⑨回で教えることで、僕がやっているのは、この「させる投資」です。みんなが買いたくなるアイデアを打ち出して、他人のお金を集めた方が、何かとお得です。

みんな、財務諸表もまともに読めず、仕訳はできるようでも、経営はできないようなので、投資じゃないものを投資と読んでいて、本当に幸せそうだなぁと感じます。

いつも「値上がり株の見抜き方」とか「チェック項目」ばかり気にして、マクロの指標や人口構造、産業構造の変化はほとんど見ません。事件くらいで株価が変動する銘柄を買って、何が投資なのか…。



会計には、報告資料作成のために正確さが求められる「財務会計(制度会計)」と、新商品企画やビジネスチャンスの分析に用いる「管理会計(経営会計)」があります。

簿記を学んで財務会計にそこそこ詳しい人はいますが、数字は正確でも、明日の数字を作ることは苦手です。「先週の株価」を小数点以下まで言える大学教授が、「来週の株価は?」と聞かれたら沈黙するのと同じです。

そういう中途半端な会計では、会計本来の使い道を実現することは難しいのではないでしょうか。ですから、簿記を学んだのに、投機と投資の区別も分からないのかもしれません。



こういうことは、大学の勉強にも言えるのではないでしょうか。

自分が「法律を学ぶ!」と決めたら、何が何でも法律を学び尽くし、法律から派生して経済、金融、社会問題、環境問題、経済思想、人間性など、ありとあらゆる分野に興味をもって関連付けてみることです。

つまり、「知識の配当を得る」というのが、本来の学問の姿勢です。

専攻はどの分野であれ、学問とは他の学問領域との関連性を見抜き、どこからでも物事の本質に到達するような行き方をするのが理想的でしょう。



凡人が関係ないと見過ごすことに積極的に関係を見出すのが知性です。

異質の事柄に本質的な関係を見抜くのが知力です。

学生時代は、このような知力を見抜く期間ですが、皆さんの勉強はいかがでしょうか。すぐに「関係ない」と切り捨てるような、冷たく未開な知性を育ててはいないでしょうか。



頭が悪い人を一言で定義すれば、「すぐに関係ないと言う人」と言えるでしょう。つまり、持っている知識から展開が生まれない、という人です。

要するに、その知識を、表面的に関係ありそうな範囲でのみ「売却」してしまい、継続性や発展性がない、ということです。知識の資産収入が生まれないため、発想力や忍耐力が生まれず、矛盾に気付きにくくなる、ということです。

賢明な学生の皆さん、夏はぜひ、一つのことを徹底して極め、そこから人生や仕事の本質に到達するチャレンジをしてみてはいかがでしょうか。

今日もお読みいただき、ありがとうございます。

ただ今、教育・学校部門279位、就職・アルバイト部門185位です。

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