◆今日の一言
No.449(07/6/23)

『昔話は最高の教科書だ』





日本人なら誰もが知る「桃太郎」。今日のFUNゼミ「起業塾」でも登場しましたね。



桃から生まれた桃太郎が、おじいさん、おばあさんに育てられて立派な青年となり、犬、猿、キジを引き連れて鬼ヶ島に乗り込んで鬼を退治し、村は平和になりました…。

という昔話です。



実に単純な話ですが、起業してから僕はたびたび、この桃太郎の話が持つ普遍的なメッセージを何度も、何通りも味わい、リーダーシップの教科書として位置付けてきました。

彦一さん、吉四六さん、わらしべ長者、打出の小槌…など、FUNの部員の方は、FUNの会計講座や金融講座、スピーチ講座などで、何度も昔話を例え話として聞いてきたことでしょう。

昔話は、優れた知恵を簡素にまとめた偉大な遺産なので、よく紹介しているのです。



桃太郎は、ビジネスに当てはめるなら、リーダーシップの優れた教材です。

「きびだんご」の用い方は業務提携の参考になるし、僕が特に好きなのは、桃太郎は何ら長所を持っていないところです。

桃太郎には、ただ「鬼ヶ島に行って鬼を退治し、村に平和をもたらす」というビジョンしかありません。資本金も、能力も、何もないのです。



しかし、桃太郎には、「村人を苦しめる鬼を退治すれば、きっと村は平和になり、みんなが安心して暮らせるようになる」という信念がありました。

桃太郎はこのプランを、育ててくれた恩人であるおじいさんとおばあさんに表明します。



すると、「それなら、これを使いなさい」と、腰にぶらさげるほどたくさんの「きびだんご」を作ってくれました。



きびだんごは、今で言うところの「資本金」です。

桃太郎がここで「おいしそうだなぁ、ラッキー!」と思って食べたらただのグルメ物語ですが、桃太郎の賢明な点は、このきびだんごが最も価値を発揮する利用方法を考えていたことです。

つまり、「自分で食べて自己満足」という浪費ではなく、「それを求める人に与え、力を借りる」という、投資を考えていたのです。



「鬼ヶ島に、鬼を退治しに行く」。

遠く、誰も知らず、皆が恐れるあの鬼ヶ島で、村をおびやかす鬼を退治するための戦いを挑む…。

壮大な事業です。



経験豊富なおじいさんとおばあさんは、その事業が困難で長期にわたるのを知っていたからこそ、ベンチャーキャピタルとして、最も役立つ経営資源を出資したのです。

鬼ヶ島は孤島で、鬼たちが連日見張りをしています。そこにのこのこと出向くようでは、退治する前から返り討ちに遭いかねません。

そこで、桃太郎は、空高く飛ぶことができ、遠くを見渡して正確な地理情報を収集することのできる仲間、つまり「キジ」と業務提携を行うことが必要だと考えました。



また、鬼ヶ島までの道中は時に暗く危険で、何が待ち受けているか分かりません。万が一鬼の待ち伏せに遭ったら、目標を達成する前に敗退してしまいかねません。

そこで、桃太郎は、自分の数倍良い鼻を持ち、遠くの物体の状況を正確に感知する能力を持った「犬」とも業務提携を行うことにしました。

そして、道中あれこれと作業を行い、道具を作ったり片付けたりする「キャンプ設営係」として、自分の数倍素早く動くことができ、抜群に器用な手先を持つ「猿」も提携パートナーに加えました。



飛ぶことも、遠くのにおいをかぎ分けることも、小道具を作ることもできない桃太郎でしたが、鬼ヶ島で鬼退治を行うためにはどういう能力が必要で、それは誰が持っているかは、ちゃんと知っていました。

そのため、桃太郎は、大切な資本金であるきびだんごを自分で食べてしまうことはせず、ぐっとこらえて節約し、自らが選んだ大切なパートナーである犬、猿、キジとの業務提携の報奨金として、「先に与えた」のでした。

各自が持つ長所を正確に見極め、仲間たちの能力を効果的に組み合わせることで、桃太郎は自分にない力を手に入れ、充実した戦力で鬼退治というベンチャービジネスに臨むことができたのです。



もし、桃太郎が「なぜ僕は鼻が利かないんだ!くそ~っ、犬になんて頼めるか!よし、じゃあ、自分で鼻を鍛えてやる!」などと考えたら、鼻を鍛えるのに一年近くかかり、その間に鬼はどんどん村に攻めてきたかもしれません。

桃太郎が「オールマイティ」に憧れ、プライドに邪魔されて、「この俺様が空を飛べないなんて許せない!」などと考え、空を飛ぶ練習を始めれば、こちらは一年どころか、五年くらいかかっていたことでしょう。

そうなれば、おじいさんはとても「山で芝刈り」をやってる場合じゃなくなるし、おばあさんも「川で洗濯」をやってる場合じゃありません。



全ての長所を自分で保有しようと考え、自分より優れた人の存在や能力を認めずに一人で何でもやろうとする人こそ、本当の「怠け者」であることを、桃太郎はよく知っていました。

仲間がいるのに頼ろうとせず、人に頼むことを屈辱と考えて自分で全てをやろうとするのは、「サッカーで相手ディフェンダー5人に囲まれても、パスを出そうとしない選手」のようなものだと考えていました。

あるいは、野球の試合で、たった一人で全部の守備位置を守ろうとするようなものだと考えていました。



桃太郎は、「四番バッターばかり集めたチームは弱体化する」、「スター選手ばかり集めたサッカーチームは衰退する」ということや、「長所ばかりの人間は慢心と多忙で自滅する」、「人に出番を譲れない人こそ最も無能である」という事実をよく理解していた、賢明な実業家でもありました。

「万能の人間は、無能と紙一重である」ことを、桃太郎はよく知っていました。

桃太郎は、自分の仕事が「明確なビジョンを描き、部下の能力を正しく配置してやる気を引き出し、貢献を素直に認めていくこと」だとわきまえていました。



桃太郎は、「鬼退治」という問題解決が自己顕示欲から生まれたプランではなく、村の人々が喜ぶ「社会貢献」の側面を持つプランだと理解していました。

ならば、大切なのは「時間と労力を節約し、素早く、確実に目標を達成すること」です。



賢明な桃太郎は決してこの初心を忘れず、自分に足りない要素を素直に自覚して、それを補完できる能力を持った仲間を集めてチームを組織し、きびだんごを用いてM&Aを行ったのでした。



桃太郎は、与えられた期限と自分が使える資源を正確に認識していたからこそ、自分の短所によって他人の長所を呼び込み、自分が持てる以上の実力を保有する組織を作ることができたのです。

出資された「きびだんご」は犬、猿、キジという有能なパートナーに転化し、スタッフの能力は当初の期待通り時間を節約し、桃太郎は自分がやるべきことに集中することで、適材適所の人員配置が完成しました。

この組織力の前に、腕力だけが頼みの鬼は敗れ、ついに、村に平和が訪れたのでした。





「桃太郎」は幼稚園児でも理解できる単純な話ですが、こう考えてくると、なんと普遍的で本質的な経営手法、リーダーシップ、投資方法を教えてくれることでしょうか。

わが国には、このようにシンプルで誰もが理解できる昔話が無数にあり、そのいずれも、人間の本質をシンボル化した単純な物語の構成を採っており、その教えるところは偉大なメッセージを含んでいます。

きっと、わが国の先人たちは、人の世を生き抜く上で本当に大切なことを子供の頃から覚えられるように、「昔話」という形で大切に守り伝えてきてくれたのでしょう。なんと有り難いことでしょうか。



ということで、僕はいつか、「ビジネス昔話」のような本を書いてみたいと、最近はひそかに考えています。

もしくは、FUNゼミでいつか「昔話塾」でも開いて、代表的な昔話が持つ威力を味わう勉強をしてもいいな、と思っています。



昔話を「文学」と見なす人はいないかもしれませんが、文学の力は普通の人が考える以上にずっとずっと大きなものです。

「文学は社会で役に立たない」とか言う人もいますが、文学、つまり思想や哲学を必要とせず、場当たり的対処で生活を送り、物語にもならないような人生を送る人が役に立たないだけのことです。

それを「文学は役に立たない」などというのは見当違いで、文学は「王者の学問」であるがゆえに、器の小さな人間は学ばなくても生きていけます。



文学作品のような偉大で価値ある人生を送りたいと願う人には、文学はありとあらゆる大切なメッセージを届けてくれる、人生最高の同伴者の一人になることでしょう。

文学に感動を求めず、文学から得た感動を人生に生かさずに生きれば、その人生もまた、何の文学にもならないような、味気ない、単なる時間の経過でしかないでしょう。

目先の問題に対処するノウハウ本や実務書も結構ですが、時には壮大な視野と長期的な視点を鍛え、深い人間心理を教えてくれる文学作品を読みふけるのもいいでしょう。



僕は高校時代にドストエフスキー、ゲーテ、ジッドなどにはまり、夢中で耽読していましたが、その時は正確に理解できなかったことがある日突然発酵し、貴重な気付きをもたらしてくれる経験は何度もありました。

最近は、もっぱら昔話によって、25年近く埋め込まれていた「アイデアの時限爆弾」が破裂するような感覚を味わっています。

皆さんも、読み方次第で何通りもの解釈ができ、読むたびに発見がある名作を読んでみてはいかがでしょうか。



以上、今日のFUNゼミでの「起業塾⑥」の復習も踏まえ、昔話の偉大さについて、ちょっと考えてみました。


今日もお読みいただき、ありがとうございます。

ただ今、教育・学校部門202位、就職・アルバイト部門128位です。

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