◆今日の一言
No.445(07/6/11)

『不可能を可能にするのは、発明と練習である』(小泉信三)





毎年、連休明けはFUNの見学者が多くなる時期ですが、今年は毎週の見学者の数が並じゃありません…。

先週はついに「立ち見」どころか「床に座ったまま参加」の人も現れ、初めて来た人には、ちょっと異様な光景でした。

連休前後の「FUNコンサートツアー」、5月からの公開講座、mixi、口コミ、forFUN、「業界ゼミ」の書籍化などなど、FUNを知るきっかけも増えたためなのでしょうが、それにしてもすごい入部ラッシュです。

土曜は佐賀新聞から取材があり、この様子は今週金曜日の「福岡特集」に掲載されるそうですから、佐賀にお住まいの方は、ぜひご覧下さいね。



さて、FUNもここまで知名度が上がって規模が拡大すると、必然的に体系的な活動が求められるようになりますが、そういう中で理想の教育環境を考えるたび、お手本としたい教育者がいます。

本メルマガではたびたびご紹介してきた小泉信三さんです。

小泉信三さんといえば、戦前、戦後の混乱期に慶應義塾大学の塾長を務め、皇太子殿下の教育係も担当し、マルクス経済学の理論的批判や福沢諭吉の研究で日本の学問史にその名を残す偉大な学者・教育者です。



小泉博士は福沢諭吉の門下生だった父を幼い頃に亡くし、7歳まで福沢諭吉に育てられ、慶応大学で福田徳三教授に経済学を学んで、卒業後はドイツ、イギリスに留学し、帰国後はおびただしい著作を執筆します。

周囲から大きな期待を受けた息子・信吉を戦争で亡くした悲しみの記録は「海軍主計大尉・小泉信吉」に書かれており、ご自身も東京大空襲で顔面と上半身に重度のヤケドを負ってしまいました。

学問とスポーツを両立させる慶応大学の気風を作り上げた学者の、威風堂々たる品格は、ヤケド後も失われることはなく、小泉博士は一層精力的に戦後日本の再建に力を入れ、社会主義批判の代表作を次々に発刊していきます。

家族を次々に亡くす悲しみは続き、博士は最愛のお孫さんも、2歳で失ってしまいます。この悲しみから、死の直前、カトリックに改宗した過程は、遺作である「国家の死亡」(フェイス出版)に収められています。



小泉博士の代表作であり、戦後の慶応大学経済学部の伝統に少なからず寄与した「共産主義批判の常識」、「私とマルクシズム」、「マルクス死後五十年」、「平生の心がけ」などは、既にFUN Business CafeやFUN近現代
史勉強会でも扱いました。

福田恒存さんにしろ、小林秀雄さんにしろ、江藤淳さんにしろ、下村湖人さんにしろ、内村鑑三さんにしろ、FUNでは主に戦前から活躍した作家や学者、戦後にもその伝統を受け継いだ学者の著作を主に紹介してきました。

それは、文章や知識はもちろん、生き方が立派な人の作品を読むことが、学生時代のかけがえのない財産になるからです。



「説得力」とは、戦後は知識やレトリック、あるいは外国語の引用やディベート技術で作れるものだと錯覚されがちですが、これは誤った皮相な見解でしょう。

説得力とは、反論を許さない人格的なすごみのことです。それは理屈や知識ではなく、言行一致の生き方から生まれるもの。

FUNで選ぶ本の作者は、みな、そのような生き方を言葉に変えてきた人たちです。



「君たちは、それでいいのか」。

こんな単純な言葉でも、それを発する人が全身から発する気迫や品格を備えていれば、それを聞いた若者は、自然と生活態度や将来像を根底から見直し、自分の怠慢を恥じ、人が変わったような努力を始めるでしょう。

反対に、こう言う大人に気迫や品格が備わっていなければ、若者はただちに矛盾を見抜き、「あんたに言われたくねぇ」と反発します。



僕の学生時代は、学生が寝ていても怒らず、「学生は寝るものだ」と決め付けて無気力な授業を繰り返す教授も多々いました。要するに、なめられているのです。

予習の段階から生徒の意欲を自発的に集中させ、「あの先生の授業は一言も聞き逃したくない。体全体で受け止めたい」と思わせるような気迫を感じさせる教師は、今、大学にどれくらいいるでしょうか。

若者の心の底から、「私は、私が今、私であることがたまらなく幸せだ」と思わせられる教師が、どれくらいいるでしょうか。若者は知識や単位以上に、そういう本気になれる場を求めているわけだから、それに答えられない大人は、若者に道を語る資格はないと言えます。



だから、戦前に活躍した大学者や大作家の作品に触れる早朝読書会や、人生を傾けた大作を残した学者の著作を読む歴史勉強会に、イマドキの学生が進んで参加するのでしょう。

そういうFUNの教育環境の中でも、特に先ほど挙げた学者や作家は人気があるものだし、小泉信三さんの作品も毎回人気があります。

中でも、特に『平生の心がけ』(講談社学術文庫)は人気があるものでした。



最近入部した西南法4のN君は、小泉博士の作品をブックオフで探したそうですが、ブックオフの利用者には小泉作品を読むような人は少ないため、大名の入江書店や六本松の葦書房、大橋の大橋文庫あたりで探すのをおすすめします。

「平生の心がけ」は、新刊でも売っていますから、ジュンク堂や丸善で探してもよいでしょう。

(ちなみに、ジュンク堂3階の57番棚、「企業読物・業界研究」のコーナーには、僕の本も置いてありますよ。女子大のIさん、ありがとうございます)



「平生の心がけ」の前半には、「練習」というエッセイがあります。この項と「信なき者は去る」の項を去年のBusiness Cafeで扱い、いずれもさわやかな感動を得たことを覚えている人も多
いでしょう。

人類は歴史が始まって以来、多くの不可能を可能にしてきたが、そのいずれもが「発明」と「練習」によってなされたものである、というエッセイです。

世に存在しないものを想像し、実現させる発明と、発明したものを手に入れ、モノにするために行う練習こそは、人類の最も偉大な行為であることが分かる名エッセイです。



この項は短いエッセイですが、それでも、読めば、成功者とは非凡な才能を持つ人ではなく、非凡な努力を続けた人のことだということがよく分かるでしょう。

成功者とは、普通の人が成功だと思うことですら、まだ成功だと思わず、次々に当たり前のレベルを上げ続ける人だと分かるでしょう。

世の多くの人は成功の反対語を「失敗」だと勘違いしていますが、成功の本当の反対語は「中断」だということもよく分かるでしょう。

本作は博士の専門とは違う分野で書かれた若者向けの人生論で、コーヒーブレークを利用して綴られたような軽快なエッセイでもありますが、日本人のダンディズムと品格が行間に表れており、読んでいてさわやかな気持ちになります。



学生の皆さんは、今、卒業や入社に向けて、どのような発明を行っているでしょうか。



また、その発明を現実のものとするために、どのような練習を行っているでしょうか。





きつくなってからが、練習です。

苦しくなってからが、就活です。

伸び悩んでからが、仕事です。



挫折や悩みとは、今の自分と未来の自分が起こす摩擦に過ぎず、そこに成長のポイントがあるので、中断したり撤退してはもったいないもの。

一歩高みを目指すうえで、「平生の心がけ」は良い指針になるでしょう。学生時代にぜひ読んでおきたい一冊です。


今日もお読みいただき、ありがとうございます。

ただ今、教育・学校部門166位、就職・アルバイト部門97位です。

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