◆今日の一言
No.439(07/5/20)
『企業の価値っていったら、
新入社員が一年でどれだけ成長できるかでしょ』
(ブックオフ創業者・坂本孝)
毎週土曜早朝に開いているFUN Business Cafeで取り上げてきた本も、もうすぐ80冊に達します。
季節ごとにテーマを選び、3ヶ月おきに12~14冊の名著をピックアップして名場面を読み進めていくこの読書会、2007年4~6月のテーマは「組織と人間」、「経営と決断」で、そのテーマに合致する書籍を13冊選びました。
先週土曜は、FUNの部員なら毎週通っている黄色い看板のお店「ブックオフ」の創業者・坂本孝さんのインタビューを分野別・戦略別にまとめた『ブックオフの真実』(村野まさよし/日経BP社)を読みました。
本書では、「読み終わった本、お売り下さい」というキャッチに行き着くまでの戦略、お客さんを巻き込んだ営業戦略に行き着くまでの奮闘、驚異的な利益率と標準化された店舗運営を編み出すまでの過程など、前半部分にもユニークな着想が広く紹介されていますが、今回選んだのは人材育成を扱った部分でした。
いつもBCの本をFUNの運営と関連付けて読んでいる福岡女子大4年・T地さんも本書でブックオフの魅力を改めて感じたようで、学生時代に何度となく通ったお店のことを思い出しているようでした。
坂本社長は企業の価値がどこに表れるかを、株式の時価総額や本社ビルの豪華さ、知名度などではなく、「企業の価値っていったら、新入社員が一年でどれだけ成長できるかでしょ」と断言し、「世界一のバカ集団を作りたい」と言っています。
「あんちゃん」、「おばちゃん」が中心のブックオフでは、本に対する目利き能力や単品管理、マーチャンダイジングといった流通業の基本概念を全て否定し、顧客の視点で在庫管理を行っています。
出版業界と書店には、「書籍再販売価格維持制度」、つまり「再販制度」という一長一短の統制経済的措置が現存しており、書店の経営が前近代的であることをビジネスチャンスにした発想はどれも斬新です。
「再販制度」は今度出る僕の著書でもその功罪について取り扱っていますが、簡単に説明すると、「新刊書は全国どこでいつ買っても同じ値段で売る」という制度です。
この制度には、書籍という商品が持つ専門性から、知識の集積を適度なレベルで維持し、発刊元たる出版社の経営を保護するというメリットもあるのですが、出版業界に自由競争が働きにくくなる、というデメリットもあります。
さらに、販売方法は①買取と②委託の二種類があり、特に委託販売では、数ヶ月間書店に無料で設置してもらい、「売れなければ返品」という措置を取ることができます。
これは僕も前職の経済誌出版社で毎月「配本」を行い、ボストンバッグを抱えて福岡都市圏の32書店を回っていましたから、よく分かります。
僕の会社で販売していた雑誌は「780円」で、その雑誌を例えば「30冊」卸したとします。仕入れ値が「定価の4割」なら「312円」で30冊、つまり「9,360円」となるはずですが、そうはいかないのが書店です。
委託販売では、卸した時点では何の収益も生まれません。
それどころか、弱小出版社では、大手の書店に設置をお願いする時、「置かせていただけないでしょうか」と丁重に頼み、「平積み」、「面出し」、「棚差し」から選んでもらわないといけないのです。
当然、知名度の低い雑誌が平積みになることはなく、大手書店ではよくて棚差しでした。
ということで、某大手書店に来月の納品時に先月号の引き取りに行くと、「5冊しか売れなかったよ」と言われ、その時点で売上の「1,560円」が支払われます。
1ヶ月置いておいて、たったの1,500円程度。学生のバイト2時間くらいのお金です。しかも、残った25冊については何も支払われることなく、全てが過剰在庫として返品されます。
中には販売努力をやってくれるお店もありましたが、そんなのは例外で、個人経営のお店以外はただ棚に差すか数日間面出しにするかしてくれれば上出来で、中には「来月から半分でいい」、「3割で10冊ではどうか」などと言われ、悔しい思いをしたものでした。
しかし、このシステムは何も出版社にとってだけ不利なわけではありません。
「返品できる」とは、短期的に見れば経営リスクを軽減できるメリットばかりに思えますが、長期的に考えれば、「どうせ、売れなかったら返品すればいいんだから」と社員が考えるようになり、思考がマヒしていくという恐ろしいデメリットがあります。
「売れなかったら、自分たちの給料が下がる」というリスクをいつも意識しておいた方が、やはり健全な危機感が共有されるもので、普通の会社はみなそういう前提を当たり前としているわけですが、公務員と書店だけはこういうリスクに無縁です。
ということで、再販制度や委託販売制度は、その功罪を経営者だけではなくスタッフもきちんと理解・共有しておかねば、自らの首を絞める規制となりかねません。
本や出版文化を健全な範囲で保護するはずだった制度が自分たちの仕事を阻害しては逆効果です。
こういう「エアポケット」があると、それを狙うベンチャー企業が必ずと言っていいほど登場してきます。ベンチャーという狼にとって、のんびりと経営する「羊の群れ」ほど狙いやすい敵はいないからです。
そこに現れたブックオフの坂本社長は…
「書店の社員は経営比率なんて知らない」
「新刊書店と同じことだけは絶対にやらない」
「お客さんの視点で買いやすいお店を作る」
と断言し、その通りの店作りを実現して、全国で支持を集めてきました。
「出版社の人間が、ブックオフのせいで本が売れなくなったというのは筋違い」と言い、そんなのは「回転寿司のせいで寿司が売れなくなったと言っているようなものだ」と言います。
そのブックオフはアルバイト店員をフル活用し、部下の前で体を張れる店長、部下のために泣ける社員、頭より先に体を動かして仕事の何たるかを教えられる社員を育てるのが最も大切だと考えています。
マクドナルドやマツキヨに学んだ経営ノウハウをふんだんに取り入れ、誰がどんな状態で入社しても最高の状態で働けるよう業務を徹底して標準化し、最も効率の高いマニュアルを凝縮したのがブックオフの経営だというわけです。
「マニュアル」と聞くと即、「非人間的だ」という人もいますが、それは見当違いで、よく練られたマニュアルは、その型にはまることもなかなか大変で、非人間的だというのは、そのマニュアルに心がこもっていないことを言うのではないでしょうか。
会社が長年の経験を重ねて積み上げたノウハウの集大成であれば、社員もそれをきちんと守ってから創意工夫を考えるべきで、まずは徹底して型にはまることも大切です。
坂本社長は「レジの人間が一番売れ筋情報を把握している」という流通業界の常識を否定し、最も売れ筋商品をおさえ、商品動向や顧客動向を把握しているのは、売り場の最前線で「棚入れ」をやっている社員だと言います。
新刊書店では返品しやすいように「出版社別」で並べているだけの商品を、見つけやすく買いやすいように陳列し、何が動き、何が動かなかったかを捉え、「在庫が生まれる前に売り切る」という徹底したスピード化を実現するには、現場で棚入れを行うスタッフの努力が欠かせません。
ブックオフでは、一年以内に大切な仕事を順番に経験できるようにプログラムされ、「学生でも店長ができる」というほど多忙でやりがいのある仕事を任せている、というのです。
ということで、最近では早稲田、慶応の学生がブックオフに新卒採用で応募して入社し、このような店舗運営のノウハウを学んで、起業に備えるという事例も増えてきたということです。
今どき、「大企業に入社して守ってもらおう」という発想の学生も多い中、「伸びきった有名大企業」よりも「社員の力でどんどん伸びていくベンチャー」に入社し、将来の可能性にかける学生もいるなんて、頼もしい話です。
そうやって新人がどんどん成長していくと、先輩社員が「このままではいけない!」と焦り始め、会社やお店に良い活気が生まれ、全体の底上げにつながっていく、というのが坂本社長の考えです。
普通は「リーダーが率先垂範する」という組織運営が重視されますが、ブックオフでは「新人が育って上を突き上げる」という方針を重視しており、その哲学の集大成が「企業価値は入社一年目の社員がどれだけ育つかで計れ」という考えに結実したのでしょう。
FUNもまた、入部数週間の部員でもどんどん大役を任され、入部時期や学年、経験によらず、自ら責任を取るのであれば、何にでも挑戦できる風土が根付いています。
先輩も就活や卒論で数週間休んでいると、知らない間に入部していた後輩が立派な発表を行い、読ませる記事を書き上げるのを見て、「これじゃ自分も抜かれる」と努力し始め、先輩からでも後輩からでも成長のきっかけや刺激が訪れるサークルです。
「サークルの価値は、新入部員が一年でどれだけ成長できるかにかかっている」と考え、そういう仕組みを作り上げて卒業した創設者・安田君の先見性に改めて感心するばかりです。
三年生の皆さんも、会社を選ぶ時は研修制度や福利厚生、勤務条件ばかりでなく、本気の社員がどれだけいるか、新人がどれだけ育つか、新人がどれだけ真剣に働いているかを観察してはいかがでしょうか。
また、育つ組織の活気を感じたい方は、「一年中いつでも見学OK」のFUNに来られてはいかがでしょうか。
「自分のすごさにびっくり!」という日々が始まりますよ。
今日もお読みいただき、ありがとうございます。
ただ今、教育・学校部門107位、就職・アルバイト部門67位です。
参考になった方は応援クリックお願い致します(^^)/