◆今日の一言
No.428(07/4/19)
『人材育成は自転車の練習と同じだ』
今月から新事業所「mai place」を立ち上げたFUN卒業生の大月舞さん。独立してからは今まで以上の気迫を感じ、今後が楽しみです。
今では、入部当初の大月さんがそうであったように、納得できる未来に妥協したくない学生や若者を応援するキャリアコンサルタントとして、日々挑戦を繰り返す毎日。
相方の前迫さんも心強いパートナーで、web制作や法人営業の計画も作っており、これからどんな活躍を見せてくれるのでしょうか。
昨日は大月さんと、「やる気を失った若者を勇気付ける接し方」について話し、僕が今まで就業支援業務をやってきて、特に大切にしてきた姿勢を説明しました。
というのも、昨日学生さんから取材を受け、特にわが家の母親の教育方針についての質問が多く出たため、人を育てる姿勢を思い出したのです。
僕の父親は僕が小さい頃に亡くなったので、母の教育方針というのは、父と作り上げたものだと言うことができます。父がよく口にしていた方針というのは、「子育ては自転車の練習のようにせよ」だったそうです。
自転車は、長崎県民の方々以外はほとんど経験があるように、子供の頃に乗り始めた時は、何度も何度も転んだことでしょう。
息子が自転車に乗ると、後部座席をお父さんがしっかりと支えます。
そして、「さあ、こいでみろ」。
息子は、「ええ?まだ、できないよ」と答えます。
父は息子に優しく笑いかけ、「お父さんがいるから大丈夫だ」と言います。
父の表情に勇気をもらった息子は、しっかりと前を向き、そして、右足に力を入れてペダルを踏みました。
スーッ…。
自転車が少しだけ前に進んだ瞬間、息子はいきなりバランスを崩し、慌てて左足を地面につこうとしましたが、足が地につくすぐ前に、自転車は安定しました。
お父さんが気付いて支えてくれたからでした。
「右側のペダルをこいだら、同時に左の準備もするんだぞ。さあ、もう一回やってみよう」
「でも、また倒れそうになったら…」
「お父さんがいるから大丈夫だ」
「うん、やってみるね」
息子は再度前を向き、少しずつペダルを回しました。自転車はさっきより早く進み始め、10メートルくらい進んだところで止まりました。
「どうしたんだ?うまくやれてたのに」
「スピードが出てきて、怖くなったよ」
「そういう時は、ブレーキを使いながら、スピードを落としたらいいんだ。さあ、もう一回やってみよう」
「あんなスピードで転んだら痛そうだよ」
「お父さんがいるから、大丈夫だ」
少しずつ乗り方を覚えていった息子は、カーブや坂の乗り方も練習し、お父さんはそれに合わせて自転車を支えながら走り、二人三脚の練習の成果も少しずつ出てきました。
「よし、じゃあ、今から100メートル走るぞ」
「ええ?そんなの、まだできないよ」
「お父さんがいるから大丈夫だ」
息子は緊張した表情でハンドルを握り、不安なのか、何度か後ろを振り返りました。そこには、父が優しい笑顔で後部座席を支えていました。
息子は前を向き、さっきよりは少し速いスピードでこぎ始めます。
「お父さん、これくらいでいいかな?」
「…ああ、いいぞ」と、父が走りながら、息を切らせて答えました。
息子は自信を得て、さらにスピードを上げました。
「お父さん、これでいいかな?」
「ああ、上手だ。本当に上手だ」
その声は、さっきより少し遠くから響いてくるようでしたが、息子は前方に集中し、一心不乱にペダルをこぎ続けました。
自転車は徐々にスピードを上げていきます。カーブもうまく曲がれ、ブレーキの使い方も上手になってきました。
さあ、残りはあと半分。
「お父さん、これでいいかな?」
「…」
「お父さん!」
「…」
返事がありません。
不安に思った息子が恐る恐る、自転車をこぎながら後ろを見ると…。
なんと、いつの間にか一人で自転車を運転しているではありませんか。
父は、コースの半分を迎える直前に息子の能力を信頼して、「本当に上手だ」と言って手を離し、あとは遠ざかっていく息子の勇姿を眺めていたのでした。
息子は無事、父が決めたゴールまで、転ぶことなくたどり着くことに成功しました。
途中からは突然一人になっていたため、もしかして転ぶかもしれないという不安もありましたが、お父さんに教えてもらったことを何度も何度も思い出しながら、必死にゴールを目指した結果でした。
その結果は、数時間前の自分には、到底信じられないほどすごいものでした。
ほどなく、父が息子のところにやってきました。
「お父さん、ひどいよ。いきなりいなくなるなんて」
「何だって?おまえの運転が上手で自転車が速いから、お父さんもついていけなくなったんだ」
息子は不機嫌そうに、「じゃあ、速いって言ってくれればよかったのに。もし転んでたら、どうなってたと思う?」と言いました。
「お父さんは、おまえならきっとできると思っていたぞ。お父さんは自転車を支えてはいなかったけど、おまえの心の中にはいただろう?だったら、どっちでも同じじゃないか」
「変なの」。息子は不思議そうに言いました。
「おまえの運転は本当に上手だった。おまえは天才だ。こんなに上手に乗れる子は、街にいないぞ。今日から自信を持って乗りなさい」
「うん。お父さん、ありがとう」
こうして息子は、憧れの自転車に一人で乗る力を手に入れ、それからは、自分の行きたい友達の家や遊び場に、早く行けるようになったのでした。
…こうして子供の頃を思い出しながら、書きながら、涙が出てきそうです。わが家は小さな「教室」で、家にあった道具や乗り物、おもちゃ、楽器などの使い方を覚えたのは、全てこういう父の優しさがあったからです。
最初は、とても楽しそうに見せてくれ、ちょっとやってみてくれる。
「やらせて」と言うと、やり方を教えてくれ、試させてくれる。
料理でも楽器でもおもちゃでも、最初は恐ろしく下手なのに、それでも父の第一声はほとんど…
「お父さんのいないところで練習したのか?」ととぼけたり、
「本当に初めてか?」と驚いてみせたり、
「おまえは天才だ」と喜んだり、
…というものでした。
子供でも明らかに下手だと分かる出来具合でさえ、父に「天才だ」とか言われると、つい、もっとそう言ってほしくて頑張ってしまいました。
父は飽きもせず、子供の下手な楽器や遊びを見つめ続けてくれ、「やっぱり天才だ」、「今度競争しよう」、「お父さんが初めてやった頃よりずっと上手だ」と、次々と新たな褒め言葉を繰り出してきます。
すっかりその気にさせられた僕は、いつしか父の術中にはまり、父のいない時でも、自分で読書をしたり、おもちゃを作ったり、ピアノを弾いたりするようになったのでした。
後部座席を支えてくれていた父は、いつの間にかいなくなり、後で会ってみると、「おまえは天才だ。お父さんにはもう、教えることはない」とかとぼけながら、ニコニコ笑っているのでした。
10歳にも満たない少年の僕に、このような父の態度がどれだけ心強く、有り難かったことか。どれほどその存在を誇りに思い、いつも頼りにしていたことか。
「すぐやる。そして、基本を何度でも繰り返し、モノにするまで絶対に諦めない。自分ができるようになったことは、惜しみなく人に分け与える」。
この習慣と心構えのおかげで、これまでの人生で一体どれだけの貴重な能力や経験を手に入れることができたか。
今に続くこの習慣を子供の僕にしっかりと叩き込み、人生の後部座席を支えてくれていた父は、僕が13歳の頃、二度と戻ってこないところに行ってしまいました。
「取り掛かったことを中途半端で辞めたら、父はどれだけ寂しそうな顔をするだろうか」
「この能力を身に付けたら、父はどれだけ喜んでくれるだろうか」
31歳になった今でも、僕が何か新しいことに取り組む時の初心は、子供の頃と何ら変わりません。人生という自転車をいつしか一人で運転できるようになったのも、全ては父と母のおかげです。
昨日の取材のこともあって、個人的な回想が長くなってしまいましたが、今、若者の就職、再就職、転職をお手伝いする仕事やサークルのお手伝いをさせてもらっていて、僕がいつも心の中に描いているのは…
「この学生は、財務諸表という自転車を、今どれくらい乗りこなせているだろうか?」
「そろそろ、面接も一人で乗りこなせるようになったな」
「業界研究というハイテク自転車も、ずいぶんうまく乗れるようになったじゃないか」
といったことばかりです。
「本当に初めて会計の勉強するの?すごくセンスあるよ」
「最近まで別の業界を希望してたのに、すぐに新しい業界の本質をとらえるなんて、すごい。すごすぎる。社長が泣いて喜ぶよ」
「面接に自信がないとか言ってたのに、全然心配ないね。さっきの○○っていう着眼点はすごくいいから、もっと調べると絶対内定できるよ」
親が親なら、子も子です。乗り物は「自転車」と「仕事」という違いはありますが、やっていることは全く変わりません。今でも幼い頃に身につけた習慣で働いている僕は、今後も同じような態度で働くでしょう。
大月さんと前迫さんもまた、自転車の訓練の達人になる要素を十二分に秘めています。それは、二人とも就活という自転車で「転んだ痛さ」、「乗れた嬉しさ」、「どこが曲がり角か」、「どこの坂が大変か」を身をもって味わってきたからです。
アドバイスが必要なら最大限の努力を尽くし、見守るだけで良いなら、じっと見守る。
そしていつしか、「自分を信じてくれている」という事実に自信を持った若者は、自力でゴールにたどり着くことができるのです。
子育て、就職支援、人材育成、独立起業も、全てはこのような態度で若者と接するのが良いと僕は思っています。つまり…
①助力が必要なうちは、全力で応援する
②自力でできるポイントを見定めて、信じて任せる
③できた後は恩を着せず、自力でできた根拠を示す
④放っておいても一人で頑張るような動機付けをして、去る
ということです。
何かを始める時は誰かの力が必要であっても、何かを成し遂げる時は、やはり自分が本気でないと達成できません。そして、一人でできたという実感が、自信と希望を育てます。
今日の内容は、田舎の子供の家庭教育の回想ですが、簡単・無料で効果絶大なので、もし周囲に応援してあげたい人がいたら、一度、試してみられてはいかがでしょうか。
きっと、相手に感謝されると思いますよ。
今日もお読みいただき、ありがとうございます。
ただ今、教育・学校部門42位、就職・アルバイト部門19位です。
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