■「内定への一言」バックナンバー編
「より高く、美しいものへの一触は、
それより低く一通りのものでは満足せしめなくなるものである」
(倉田百三)
昨日は第③回「ブックオフツアー」でした。西南、女子大、九産、福大、九大、久留米大、筑女の皆さん総勢15人で、雨の中「お宝」を求め、主に南区を中心に古本巡りの旅を楽しみました。
あんな人数で行くと、どのコーナーに行っても学生さんがいて、僕は「一日ブックコンサルタント」になり、自分のはなんと、6冊しか買いませんでした。でも、学生さんはお目当ての本がたくさん買えたようで、その満足な様子に、嬉しい思いで帰れました。
その前、朝のBusiness Cafeでは、27冊目の本として「読書と人生」(河合栄治郎・編/社会思想社/1952)を読みました。
これは、戦前の学生たちに熱狂的な支持を受けた「本の選び方」、「買い方」、「読み方」を解説した本です。
当時第一級とされた各界の学者、教育者が、「青年時代に良書と出会ってほしい」との愛情を込め、学生に向けて書いたエッセイ集で、先日亡くなられた関嘉彦さんも、河合教授の門下生として著名な方でした。
この本の中で、僕が学生時代に大変影響を受けた作家が、「いかに書を読むべきか」というタイトルで文章を書いています。
というか、一読してその人の文章があったから、迷わず買ったわけですが、あいかわらず優れた洞察力と、深い愛情に貫かれた文章でした。その方は、「出家とその弟子」を書いた、倉田百三(ひゃくぞう)さんです。
時々、学生さんから、「小島さんは恋愛小説とか読まないんですか?」とか、「文学は読まないんですか?」と質問されます。文学は好きですが、恋愛小説に関しては、今は「読みませんねぇ」と答えるしかありません。
全く読まないからです。それどころか、この15年、恋愛をテーマとした日本語ポップスすら、全く聴きません。「出家とその弟子」、「メナムの残照」(トムヤンティ/角川文庫)などを読んでからは、日本のポップスの歌詞などは、どうも空疎で軽すぎて、聴くに堪えないからです。
「出家とその弟子」は、「個人への愛と集団への愛は両立するか」を主題に書いた戯曲で、親鸞が主人公となっています。
親鸞と弟子・唯円のやりとりを中心に、百三が経験した人生の苦悩を、ここまで深い悩みが人生にあるのだろうかと思うほど、圧倒的な筆力で描ききった短い劇です。
学生時代に驚いたことは、百三がこの歴史に残る戯曲を書いたのが、わずか25歳の頃だった、という事実です。
僕はここに書かれているような苦悩も恋愛も、おそらく経験することはないだろうなと思いましたが、百三のもう一冊の代表的作品である「愛と認識との出発」にしても、彼が大病を患った時に書かれています。
戦前の作家の略歴を見ると、必ず青年時代に「肺炎」、「結核」、「カリエス」などといった病気が登場します。これらは、戦後作家の略歴に登場する「ガン」、「胃潰瘍」、「腰痛」とは違った原因の病気であることが不思議です。
なぜかと言えば、戦前の作家が罹患し、時には命を落とす原因となった病気は、「運命的」とも言うべきか、自分の生活には原因がない難病です。
反して、戦後作家がかかった病気は、荒れた生活や食べすぎ、偏食が理由の病気ばかり。だから作品が空虚で、長く繰り返して読むに堪えないのかもしれません。
倉田百三さんにしても、山本七平さんにしても、運命がもたらした勉強や苦難に耐えた方は、皆宗教的な視点を持ち、戦後作家にはない深く優しい洞察力をたたえた文章を書くようになります。
「出家とその弟子」も、百三が命を落とすほどの病気で生死の境をさまよい、真言宗の教えに惹かれた時期に書かれています。
彼は病床でキリスト教にも興味を持ち、そのため、本作品は、日本と西洋の伝統的価値観に対する洞察も垣間見られ、凡百の恋愛文学とは全く違う深みを持っています。
だから、昨日のBusiness Cafeで紹介したのは、百三の後に「いかに書を読むべきか」を書いた、三木清さんの文章でした。百三の文章でも良かったのですが、後半部分が宗教的な導きになっているので、ブックオフツアーの前に読むには、ちょっと深すぎると思ったからです。
その百三が、学生に対して書いている言葉が、「より高く、美しいものへの一触は、それより低く一通りのものでは満足せしめなくなるものである」という一言です。
これだけは、昨日学生さんに紹介しました。青年時代に深く美しい感動を味わえば、それ以下の感動では満足しなくなる。だから、青年時代に書物を通じて深い悩みや感動を共有できない人生は、不幸である、と。
就職でも、「仕事」というものに、「どうせしないといけないものだ」、「生活のためには仕方がない」、「理想や夢とは関係ない」という共産主義者のような定義を持っていれば、その人の社会人生活は、病人のように空虚で辛いものになるでしょう。
しかし、創業者や偉人の本を読んで、仕事が持つ本質、社会への貢献度、人生に及ぼす素晴らしい影響を知れば、その学生さんの仕事と人生は、優しく美しいものとなるでしょう。
だって、「学生時代に味わった感動をもたらさない仕事」では、満足しなくなるからです。
社会人生活をスタートした卒業生の方から、「社会人の意識が低くて嫌になる」、「FUNと比べて仕事が楽しくない」という声を聞きました。
僕も海外勤務から帰った頃は、日本人はなんと奴隷的な価値観で働いているのかと感じ、それが契機となって、今は職業設計を支援する仕事をし、その傍ら、学生さんのお手伝いもしています。
卒業生の皆さんも、FUNで出会った本を、先輩に紹介してみてはどうでしょうか。「ありがとう」と言ってもらえるはずですよ。
元気が有り余って眠れない夜、そのやる気を受け止めてもらうのに、良書ほど素晴らしい仲間はいません。自分が到達できる最高の感動を求め、良い本との出会いを生きる糧に変えていきましょう。
今日もお読みいただき、ありがとうございます。
ただ今、教育・学校部門43位、就職・アルバイト部門27位です。
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