■「内定への一言」バックナンバー編


「土俵が小さくてこそ、相撲の技も磨かれる」(清水幾太郎)




清水幾太郎さんといえば、若き日にドイツ語、フランス語、ロシア語、英語を極め、学生時代から西洋の哲学書の書評を新聞に書くアルバイトをし、壮年を迎えてからは安保問題を含む数多くの社会問題で、大宅壮一氏と並び戦後の論壇をリードした学者です。



その名論卓説は、学術界でも周囲の十~二十年先を行っており、学習院大学で教鞭を執るかたわら、飾りのない文章と他に並ぶ者のない語学力で彩られた論説で、常に時代をリードしました。



既に東大の学生時代から、「私が既に読んだ原書を、教授が読んでおられないこともある」と言うほどの博識ぶりを示していた氏が、後に教壇に立ち、教え子達に表現や論説の極意を伝授しようという思いで書いた本が『論文の書き方』(岩波新書・一九五九)です。


清水氏が学生に「一○○○字でレポートを書いてきなさい」と言うと、後日、学生の反応は二つに分かれたそうです


一つは、「こんな難しい本は初めて読みました」と苦労を吐露する学生。


もう一つは、「一○○○字で書けなんて無茶です。字数がもっと多ければなんとかなるのに」と、自分の力不足を認めない学生。



後者の学生に向かって、清水氏が第一章で語っている言葉が、今日の一言です。


「字数が多ければその分よく書けるとは、見当違いも甚だしい。土俵が小さくてこそ、相撲の技も磨かれるように、字数の制約を受けてこそ、文章技術や思考も研ぎ澄まされるのだ」と。

仮に、土俵が半径十メートルだったら、決まり手は「ラリアット」とか「タックル」になるかもしれません。それはもう、相撲ではありません。



相撲の土俵が、実際は半径何メートルかは知りませんが、テレビで見ても分かるあの狭い土俵で、身長二メートル、体重一五○キロといった巨体の男たちが、一切の言い訳を捨ててぶつかり合うのが大相撲の魅力です。



勝負は一瞬で、利用できる空間もわずか。その極限状態の中、一瞬の想像と判断で、相手の勢いを我が勢いに転じさせ、小さな力士が大きな力士を投げ打つこともあります。地味に見える大相撲が、スピード、パワー、技、スリルにおいて、他の格闘技には見られない迫力や魅力を持ち、何百年も多くの観衆を興奮させているのは、瞬間にかける表現の美しさがあるからでしょう。



そんな相撲で負け、「土俵がもう少し広かったら何とかなるのに」

と言っている力士がいたら、あなたはどう思いますか?考えるまでもありませんね。



就活が始まり、進み、佳境を迎えてくると、「エントリーシートの字数が多ければいいのに」、「面接の時間が長ければいいのに」、「グループディスカッションの時間が長ければいいのに」と言う学生が出てきます。



きっと、日頃から「試験勉強の時間が長ければいいのに」、「夏休みが長ければいいのに」、「大学生活があと一年あればいいのに」と言い続け、「今」への集中を怠ってきたんでしょう。



四十字では「短すぎ!」と怒り、八○○字だと「長すぎ!」と言うだけのことで、時間や空間が増えたところで、結果は余計みじめになるだけです。つまり、スペースではなく自分が問題。


さて、皆さんは、この限られた学生時代や就活で、どんな技を磨いていますか?毎週の就活コースも、今週で五回目を迎えました。毎回、インストラクターの大月舞さんが、四十分という限られた時間で「合格エントリーシート解説」をやってくれていますが、たった四十分のために、どれだけの時間を準備に当てているかを知っている僕は、毎回本当に立派だと思います。



さらに、終わった後も実際の講義以上の時間をかけ、反省と改善のためにノートにメモを取り続けています。「講義を六十分にできませんか」とか、「内容を減らせませんか」などといった弱音は、一度も聞いたことはありません。



毎回テーマを決めて臨み、それを達成しようと頑張り、そして新たに発見した改善点や達成を客観的に見つめ、毎回毎回、着実に成長しています。毎回学生さんとお話しし、成長を見るのも大きな楽しみですが、大月さんの成長を見るのも、大きな楽しみです。



エントリーシートや仕事への心掛けは、こんな姿勢で頑張る先輩にこそ、学ぶべきですね。



今日は、バレー部から参加しているK君(先輩)とN君(後輩)のやり取りも聞け、楽しい時間を過ごせました。バレーボールでも、「チームにあと二人いればいいのに」とか「ボールが二つあればいいのに」と言っていたら、それは試合にならないはず。



スポーツに熱中することが大学生活で損だとか、時間の負担を強いられると敬遠する学生が

増えてきているそうですが、二人のバレーボールへの愛情を聞き、本当に立派だと感心しました。毎日毎日鍛え上げてきた技を、ぜひ明日からの試合でも、就活でも、思う存分発揮してほしいと願うばかりです。

さて、今週土曜のBusiness Cafeでは、「絶版論文」第④回のテーマ図書として、清水幾太郎さんの「論文の書き方」を読みます。僕の父が清水ゼミで学んだため、なんだか感慨深いものがありますが、そういう個人的感慨は抜きにして、文章表現の厳しさと楽しさを、心行くまで学生さんと語り合うのが、三日前の今日から楽しみです。



今日もお読みいただき、ありがとうございます。

ただ今、教育・学校部門43位、就職・アルバイト部門27位です。

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