■「内定への一言」バックナンバー編


「初心者とは、初心を忘れない者のことである




皆さんは、ワタミフードサービスの創業者・渡邊美樹さんの奮闘を描いた小説「青年社長」(高杉良・講談社文庫)を読んだことはありますか。僕は随分前に高杉作品に凝り、その中でもかなり読みやすくて熱くなれる小説だったので、FUNに来て最初の年、まだ三年生だった今のOB世代(大月さんたち)に「読んだ方がいいぞ」と勧めました。


以来、FUNでは「就活中にこの本を読んで救われた」という学生さんもぽつぽついます。



本書の始まりは、渡邊さんが明治大学を卒業して起業を決意し、独立資金を貯めるべく佐川急便のドライバーになった場面から始まるのは、読んだ方は知っているでしょう。


佐川急便の運転手と言えば。僕の高校の同級生の最も多い就職先の一つだったので、その実態はよく聞いてきました。


・給料が一部上場企業の新入社員の二倍

・三歩以上の距離は歩いてはいけない

・エレベーター、エスカレーターは使用禁止

・冬でも半袖以外は着用不可


くらいは誰でも知っています。そして、面接では「おまえ、借金いくらあるんだ?」と聞かれることもあるそうです。大抵の社会人はこんな質問に慣れておらず、学生が面接で聞かれるようなありきたりの質問しか経験がありませんから、「え?もしかして、たくさんあるって言ったら不採用かな」と不安になり、「えっと七、八十万くらいだったかも」と答えるそうですが、なんと、佐川急便では「そんくらいの借金じゃウチの仕事は耐えられんぞ。七、八百万くらいある奴もいっぱいいる。それに、独立したい奴、親がガンの奴、会社を倒産させた元社長そんな奴らがガンガン稼いでいるぞ」と言われた知人もいます。


完全実力主義で業務は請負制ですから、あの仕事は「佐川急便」という看板を借りた「個人フランチャイズ」とも言える優れた仕組みです。その佐川急便に、大卒の渡邊さんが入社したところから、「青年社長」の物語が始まります。



「おい、大卒!」、「そんなことも知らんのか、大卒!」、「それくらいもできないのか、大卒!」と、入社した渡邊さんの名前は、その経歴の珍しさをそのまま呼称にした「大卒」でした。


営業の世界には「逆差別」と呼ばれる現象が時々見られ、知識や理論には詳しいのに、実際の現場の仕事をやらせると全くうだつがあがらない大卒社員は、失敗や挫折に慣れて打たれ強い高卒、中卒社員から「バカ」、「無能」、「さっさと帰れ」という罵声を浴びせられることもあります。


「現場を知らない頭でっかち人間」と「実力はあるが口の悪い人間」が一緒の職場にいて、ケンカしない方がおかしいというもので、渡邊さんはここで悔しさに耐え、「自分の店を持つ!」という夢を貫いてのし上がっていくわけですが、続きは本でどうぞ。



さて、同じような境遇にいて、全く違った結果になるケースは人生のたくさんの場面でよく見られることですが、何が成否を分けるかと言えば、それはやはり「目標への執着心」です。



夢とともに始めた行動なら、最初は誰もが希望を持っています。希望は決意によって支えられ、「まじめにコツコツ頑張るぞ!」、「毎日○○を続けるぞ!」、「○○だけは絶対に達成するぞ!」という具体的な言葉で表現されることもあります。


これが「初心」です。



全ての現実は、ただ初心を試すためにのみ起こります。


その意味で言えば、何かを決意し、あるいは夢見てある行動を始めた時は、心的状態においては、その人は既に「目標を達成している」と呼んでいい状態なのです。あとは、お金や経験、知識、実績、信用など、具体的な要素が足りないだけ。「心構えだけは足りている」という条件さえクリアしておけば、どんな夢も驚くほど叶ってしまうものです。


ということは?私たちは通常、夢や目標とは行動や挑戦、継続を積み重ねた「最後」に叶うものだと思っていますが、実はそうじゃないわけです。夢や目標は、「最初の時点で、もう叶っている」のであって、あとはその心持ちから来る行動を力強く続けるだけでいい、ということです。



しかし、日々起こる現実が、その心構えに様々な攻撃を仕掛けてきます。嫌なことや未経験のこと、膨大な作業、単調な反復作業、遠い目標、近い課題。夢があり、前に進もうとするほど、毎日毎日が問題との格闘です。


そして、多くの人が「初心」を忘れていきます。つまり、「夢の自分=本当の自分」という自己認識を、自ら「今の自分=本当の自分」という自己認識にすりかえてしまうのです。このように、心構えが「三流」になり下がり、適当な理由をつけては、「夢の実現はが不可能だ」と自分で証明し始めたら、もう終わりです。あとは定年まで単調作業を繰り返すしかありません。


こうして、夢はそこに変わらずあったにも拘わらず、その人が逃げたばかりに、その夢は過去の一時期の憧れとして思い出になってしまうわけなんですね。



物事に慣れないうちは、「初心者」と呼ばれます。自分でもそう思うでしょう。往々にして、この言葉は「知識や技術が未熟で、平均的な結果も出せない」ような人間に対して「学割」を利かせるような意味で使われます。


言う方は多少優位に立ち、言われる方は「まだ初心者だから」という甘えを持つこともあります。


新入社員も、入社三ヶ月ほどは全てを大目に見られていても、そのうち「いつまでも初心者であってはいかんぞ」と厳しく見られるようになります。これも、確かに真実です。


しかし、「初心者」という言葉は、もう一つの意味でも解釈できます。それは「初心を忘れない者」という意味で、こっちの場合の初心者は、「いつまでも初心者でなければならない」という条件が付きます。


スポーツでも仕事でも、習い事でも勉強でも、もしずっと初心者でいられたら、その人が最強です。初心である「絶対にやる」という心構えを保つ限り、その人は必ず目標を達成してしまうからです。



「大学生活の初心者」である一年生を見て、FUNの四年生の中には「自分の方が負けているんじゃないか」と反省する人もいます。「君たちは大学をよく知らんからな」という、酔っ払いオヤジのようなことは言いません。


堂々と正論を述べ、てきぱきと行動する後輩たちの姿は、四年生にとって別に目新しいものではないのですが、「昔、自分にもそういう時期があった」と初心を思い出させてくれるような刺激があるから、自発的な反省を迫られ、そういう可能性をリアルタイムで持っている後輩たちを、全力で応援したくなってしまいます。



行動というのは、達成した人も偉大ですが、初心を持って過程を着実に歩んでいる人も偉大です。決意をスムーズに行動に移し、反省と改善を繰り返して前進している人は、どんな組織でも自然な尊敬を集め、リーダーになります。


そういう若者を前にしては、怠慢が習慣化した中高年は文句を言えません。それくらい、「初心者」は強いのです。ですから、初心者であることを恥じる必要はありません


今、あなたは「就職活動の初心者」でしょう。あるいは、数ヶ月したら「社会人の初心者」になるでしょう。それは未熟だという意味でもありますが、同時に一番強い状態でもあります。


まだ、事が始まらないうちに、最高の習慣を作ってしまいましょう。あなたはそれを、内定まで続けることになるのですから。悪い習慣、つまり「間違った初心」から始まっては、結果は推して知るべし。


いつでも初心によって行動を客観視し、達成への熱意を遠慮しない人間になれば、その初心があなたを夢に運んでくれますよ。僕も十九歳から夢を変えず、自分を変えてきたので、「初心者が最強」だと、控えめながら自信を持って断言できます。


大きく力強く卒業後の自分を描き、その初心を何があっても信じましょう。夢はどこにも行きませんよ。あなたが無視するまでは