◆「内定への一言」バックナンバー編

「非・不・未・無」





こんばんは。最近は連日、リニューアル版の『近現代史勉強会』の資料整理&コピーで、今日も「電話帳1冊分」の原版を延々と装丁してきた小島です。あと2回この作業を終えれば、晴れてレジュメが完成…

こんな作業も、学生さんの「学びたい!」という気持ちを思うと、疲れないのが不思議です。さらに、先週からは「たけのこの里」のストラップがお守りのように気分を和ませてくれ、ちょっと楽しい気分です。

九産大・大学院のTさんから頂いたプレゼントで、僕には似合わないほどかわいいものの、いざ付けてみると、僕ももう少し雑貨やファッションに興味を持った方がいいかも…と感じました。

Tさん、どうもありがとうございます。



さて、そろそろ合同説明会も本格的にスタートしたようで、実際に憧れの業界の説明を聞いた方や、あるいは説明会で志望業界を探し回った学生さんから、「やりたいことが見つからない」とか「やりたいことがありすぎて絞れない」という話を聞くようになりました。

企業経営に関する情報は、就職を考えるまでは接する機会が少ないので、学生さんは情報がない時は「何をしていいか分からない」と言うのに、情報が増えてくると「情報が多すぎて分からない」と言い、「結局どっちなんだ?」と感じることもあります。

こういう場合に役立つのが、業界ゼミ・職種編の「マーケティング」の回で説明した「ネガティブ・アプローチ」という考え方です。



商品企画やマーケティングは「制約」との戦いなので、「作りたい商品」や「やりたいこと」を考えようにも、すぐに「予算」、「期限」、「提携体制」、「販売体制」、「営業力」、「広告費」などの要件に縛られ、自由な発想を阻害されることも少なくありません。

「やりたいこと」を決めるのに悩んでいるのは、別に学生さんだけじゃないのです。やりたいことがあっても、何からどう手を付けてよいか分からず、時間の経過に不安を覚えるのは、社会人も一緒です。

ですが、社会人は実際に働いて、わずかばかり「経験」という資産を持っているため、学生さんとはちょっと違った考え方をする人もいます。

その中でも、「発想スピード」、「決定力」、「目標へのアプローチ」の質を高めるために利用する考え方が、「ネガティブ・アプローチ」というものです。

それは具体的にどんなものかというと、簡単です。「影」を先に突き止めて、光の当たる部分をあぶり出していく、という「通常とは逆の考え方」のことです。

例えば、「やりたいこと」が見つからなかったり、多すぎて決められなかったりする時は、先に「やりたくないこと」を考えるのが、ネガティブ・アプローチ的な発想です。

商品開発でも、「前例に囚われない自由な発想」とは、口で言うのは簡単でも実際にそれを実践するのは非常に困難です。

ですから、「直接お客さんに聞いてみよう!」と思い立って、いざお客さんや町の人々に、「何が欲しいですか?」、「こんな商品があったらいいな、と思うアイデアを教えて下さい」などと聞いてみると…


不思議なことに、人は「自由に考えて下さい」、「何でもいいので教えて下さい」と言われると、余計答えにくくなるもので、「さぁ…何でしょうね」、「いきなり言われても分かりません」といった答えが返ってきます。

中には、日頃から考えていることを土台にいくらか具体的な答えを返してくれる人もいますが、そういう人は稀です。

「何が欲しいか」と聞かれて、とっさに思いつくことができない。

思いついたとしても、果たしてそれが「本当に欲しいものなのか」は分からない。

…こういう心理状態は、学生さんであれ社会人の皆さんであれ、等しく経験してきたことでしょう。


ということで、マーケティングや商品開発アンケートの際は、俗に言う「非・不・未・無」を聞いていく、という手法を取るケースが見られます。

お分かりのように、これらは何かを否定する時に付く漢字で、要するに、その後に続く言葉に対して何らかのネガティブな印象か実感を抱いている、ということです。

例えば、「非常識」なら「その内容は選択肢の外」ということが、「不満」なら「ストレス」の原因が、「未熟」なら「経験の少なさ」が、「無理」なら「当事者意識の少なさ」などを類推しやすくなりますよね。

特に、「なんかムカつくこと教えて」、「毎日何にストレス感じる?」、「できればやりたくないことって何?」などと、「不満」を土台に質問をすると、さっきは「何がやりたいか分からない」と答えた人も、案外答えやすくなるものです。

それは、人は基本的に「怠け者」であり、心の中で描いている自分と現在の自分のギャップを認めるのが嫌で、人知れず「あれがああなってくれれば」、「これがこうならいいのに」という潜在心理から発想を行う傾向が強いからです。


そういう潜在心理がいいか悪いかということではなく、人間は常に現状に不満を感じており、「それとどう向き合うか」が意思決定に影響を及ぼしているのです。

ビジネスの世界に「快・不快の法則」と呼ばれるルールがあるように、人は満足を感じるような商品よりも、先に不満を感じる要因を除去してくれそうな商品を買いたがるもの。

「何が欲しいか」、「何をやりたいか」は分からなくても、「何がいらないか」、「何をやりたくないか」なら、ぐっと考えやすくなる、というわけですね。

もし起業したい方、新商品を考えたい方がいたら、「非・不・未・無」が付く言葉を世間から取材して、逆のアプローチで「光」の所在地を探してみてはいかがでしょうか。

また、この考え方は当然、就活にも応用できます。

「何がやりたいか」は分からなくても、「こういう生き方はしたくない」、「こういう仕事はしたくない」、「こういう働き方はしたくない」という未来像なら、ある程度描きやすくなるでしょう。

社会経験のない学生さんでも、街中の人々の姿や家族の話、あるいは近所で見てきた人、話に聞いた人、知人、友人、そのまた友人、マスメディア…などの様々な情報を蓄積しているはずなので、誰しも「非・不・未・無」的な未来像を描くことはできるはずです。

例えば僕が学生の時は、中退したので2年の前期までしか通いませんでしたが、「これだけは嫌だ」という未来像はありました。いくつか挙げてみると…

①人に給料を決定される働き方は嫌だ
②後になって浪費した時間を悔やむ生き方は嫌だ
③世の中に自分の貢献の跡を残さずに死ぬのは嫌だ
④時間的に拘束される仕事は嫌だ

という「望遠鏡」的な未来像がありました。


さらに、そのような未来像だけでは焦点が絞り込めないため、それらをさらに細分化していくと…

①定時に出社し、定時に帰って、給料日だけを待つ人生は嫌だ
②何の為に今を生きているか、自覚しないままに生きるのは嫌だ
③誰でもできて、時代との合作に終わって消えるだけの仕事は嫌だ
④時間とお金の自由を持てず、いつも夢を折りたたむ人生は嫌だ

といった感じにフォーカスされました。



ここらで一転、「ポジティブ」に視点を変え、「じゃあ、おれは一体、何がしたいのか?」と考えてみると…

①時間的自由を土台に働き、収入に上限がない仕事
②大きく長期的な夢を描き、壮大な目標に向かって日々を歩む生き方
③自分にしかできず、自分が死んだ跡も良い影響を残せる仕事
④時間とお金の自由を手に入れ、夢を拡大し続ける生き方

といった、やや具体的な「将来像の判断基準」が出てきました。


さらに、今度はその「ポジティブ・アプローチ」を細分化して「やりたいことのために、やるべきことは何か?」を考えていくと…

①大事業家や資産家は、若い頃に知識・信用・人脈に投資している
②将来創設したい「通信社」の経営の基礎をなす能力を身につける
③人が「やりたいこと」を基準にするなら、オレは「やるべきこと」を基準に20代の仕事を選ぼう
④若いうちに貯金と失敗と勉強を重ね、将来の苦労を先取りしよう

という要素が見えてきました。



そこからさらに割り出した「行くべき会社」の基準は…

①小さくて、
②無名で、
③経営が不安定

な会社でした。



僕は「30歳で人の世話にならない生き方を手に入れる」、つまり「自分の会社を作る」というビジョンだけは決めていたので、社長になるくらいなら、倒産寸前の会社の再建や、暗い組織を明るくするくらいのパワーがないとダメだろうと考え、将来から逆算した仕事を選んだわけです。

ですから、最初の仕事は「無理やろ」、「できるのか?」と言われた海外勤務でした。

帰国後は、赤字まみれのベンチャー出版社に入り、記者と営業企画を担当して、7ヶ月連続トップ営業マンを達成しました。

とにかく、大学中退以来、「昼寝」などというものをしたことがないくらい、土日はもちろん、平日深夜まで働き、大学を辞めた分、知的投資と人脈にはありったけの金をつぎ込みました。

そうして、予定より4年早く、26歳の時に300万円の資本金を貯め、独立したわけです。

やっと、自分の中での将来設計の目盛りが「マイナス」から「ゼロ」に転じた時でした。



まあ、その後は語りつくせないくらい色々な経験をして今に至るわけですが、「ネガティブ・アプローチ」は僕の意思決定スピードを速め、早期着手と長期継続を行ううえで、何度も役に立ってきた考え方の一つであるのは間違いありません。

先に「受け入れたくない未来」を考えれば、それがカウンター的なモチベーションとなって、自分の推進力にもなります。

30歳を迎えて、上司から期待されず、同僚から当てにされず、後輩から尊敬されないような生き方は嫌だったし、金銭的にも感情的にも人に依存して愚痴ばかり言う大人にだけはなりたくありませんでした。

ネガティブ・アプローチは「やりたくないこと」を決めるだけですから、その反動で見えてきた選択肢が果たして「本当にやりたいこと」であるかは、また次の問題になりますが、「当たらずとも外れず」くらいの役割は果たすので、時間とエネルギーを節約・集中するのに随分役立ちます。

ということで、「やりたいことが見つからない」と言っている3年生の皆さんは、先に「やりたくないこと」、「なりたくない自分」、「受け入れたくない未来」を決めて、思考の前提を整えてみてはどうでしょうか?

きっと、「やりたいこと」に近付くまでの距離が縮まると思いますよ。

ただし、ここで注意すべきは、ちょっとでも「やりたくないことに近い要素があった」からと、すぐにその選択肢に見切りを付けてしまわないことです。

「やりたくないこと」は、将来そうなりたくないから決めるのであって、会社探しの際に判断基準にすべき性質のものではありません。

「やるかどうか」は、じっくりと話を聞き、研究した後で判断してもよいもので、ネガティブ・アプローチは、「選択肢を減らすため」の考え方ではないことに注意しましょうね。


ということで、今日は「意思決定」の照準を絞り、「将来を見通すための望遠鏡」のズームを合わせるために役立つ、実社会の一つの考え方をご紹介しました。

役に立ったという方は、遠慮せず周りの友達や後輩に教えてあげましょうね。

そして、一緒に「やりたいこと」を育てていきましょう。