◆「内定への一言」バックナンバー編
「時差は金なり」
こんばんは。昨日のFUNゼミで『タイムマネジメント塾』が終わり、司会を担当してくれた九大2年・T君のまとめの言葉に、優しい配慮を感じて感激した小島です。
年を経るごとに、サークル全体の一体感や一人一人の優しさが際立つようになり、なんと有り難い場にいられるのだろうかと喜ばずにはいられません。
先輩たちが築いてきてくれた伝統の上に成り立つ信頼、活気、活動内容を、より良い形で受け継ぎ、誰が来ても「そうなりたかった自分」に気付くきっかけが溢れたサークルであり続けたいものです。
また、一般には公開していないものの、FUNで特に大事にしている「近現代史勉強会」の参加者がここに来て増加し、思い切って全内容をリニューアルして、最初から丁寧に再開することにしました。
それで、先ほどまで約2日かけて資料を整理し、それぞれの名著の扱う箇所や関連を考えながらまとめた結果…。
回数 ⇒全24回(2007年8月終了)
冊数 ⇒52冊
印刷ページ数 ⇒2,288ページ(1,144面)
レジュメ枚数 ⇒約270ページ
という数字が。
本当なら、実際にその一次史料なり文献を購入して丹念にやっていきたいのですが、52冊の購入総額は定価で115,400円。とても、学生さんが一括で買えるような金額ではありません。
ちなみに、アマゾンの相場だと30万円を超え、しかも、もはや日本に存在しない絶版書も多数含まれるため、あえてハイライトだけを印刷し、半年に渡って丹念に読み進めることにしました。
こんな貴重な資料を20代で300冊以上集めた若者は、日本で僕を含めて、おそらく5人と存在しないだろうという自信のあるセレクションです。
Business cafeと近現代史勉強会だけは「コピー代」だけの勉強会なので、「私も日本の歴史を学んで自分に誇りを持ちたい!」という部員・OBの方は、水曜までにご連絡下さいね。おそらく、二度とコピーしたくないような分量でしょうから。
全部読まれた方は、きっと、『金持ち父さん貧乏父さん』や『人生を変える80対20の法則』などが、「ももたろう」のように簡単すぎて内容が浅すぎるくらいに思えるでしょう。
近現代史勉強会のテーマは「証拠なくして憶断せず」。どんな意見も、当事者の一次史料を読み込み、責任を持って思考・発言していくのは、学ぶ者の基本的態度です。
さて、今日は偶然夜に大月さんとベローチェで会い、「商社の仕事」について話しました。
「学生は商社って言ったら、英語しゃべって国際空港で電話してるカッコいい仕事、って思ってますけど、実際どうなんですか?」
…「英語だけしゃべれても、招き猫並みの役にしか立たない」というのが正直な答えです。
以前、大月さんがブックオフで見つけて「めちゃ楽しかった!」と言っていた『時差は金なり』(三菱商事広報室/サイマル出版会※絶版)を、ちょうど僕も数ヶ月前に買ったので、先ほどざっと読んでみました。
僕は「商社を受けたい」という学生さんには、毎年『問屋と商社が復活する日』(松岡昌宏/日経BP社)と『個人商社』(西山満/KKベストセラーズ)を紹介していますが、これもオススメに加えるべき名著だと感じました。
だって、今も変わらぬ商社の実態が、ありのままの現実に即して書かれてあるからです。
会計的視点や現場の実際の業務では『問屋と~』や『個人商社』が詳しいですが、商社の果たす経済的貢献、他業種への貢献では非常によくまとめられている本です。
絶版で手に入らないのが惜しいですが、もし「読みたい」という方がおられたら、いつでも貸しますので、遠慮なく言って下さいね。
僕がいたミニ貿易会社では、天下の三菱のようなスケールの仕事はやりませんでしたが、木材を始めとする建材の輸出を行い、マレー半島を駆け巡ったのは、今につながる人生最高の日々の一つです。
「商社=英語」というイメージが学生さんの中には強いようですが、実際はどうなんでしょうか。
答えは、「そんなの当たり前」です。
僕は大学1年の夏に英検準1級に合格し、夏にはついでに韓国語もマスターしましたが、実際に20歳でマレーシアの貿易会社に入社してみて、会計や貿易実務が分からなければ、招き猫並みにしか役立たないと思い、必死で英文会計や関税、為替、国際政治を学んだ記憶があります。
例えば、僕がいた会社は「ラワン」という木材を扱っていました。これは、フィリピンのミンダナオ島が世界的生産地になっていますが、ブラジルでも採れる木です。
柱や梁には適していませんが、装飾用に不可欠の建材で、加工しやすく湿気に強いため、湿度の高い日本ではよく使用されている木材の一つです。
それを「買いたい」という日本の会社はいくつもあるわけですが、なにせ日本企業は品質基準や価格基準が厳しいので、その「安定供給先」を見つけるためにマレー半島を奔走するのが、僕の仕事でした。
さっき「奔走」と書きましたが、それは本当に奔走だったからそう書いたのです。ただ、ラワンが生えている土地ならいくらでもあります。しかし、それを「安定供給」できるかどうかとなると話は別。
契約形態や船積みまでのプロセス、インボイス(仕入れ書/納品書)の作成やレター・オブ・クレジット(信用状)の作成が実に煩雑です。
最年少の僕は、クアラルンプールの中心部にある三菱銀行で小切手チェックの業務もしましたから、「一つの木材を売るのに、ここまで色々なことを考えないといけないのか」と勉強になったのを覚えています。
例えば、マレーシアの北端に位置し、タイと国境を接する最少の州・プルリス州に「良い木材」を探しに行ったとすると、「日本人と商売したい」という人はマレー人、中国人を問わず大勢いるわけですから、まず納品条件についての交渉になります。
だいたい、最初の交渉で半分はアウトです。
「その時だけは売れる」と言っても、「今後も同価格帯で売れるか」となると、「それはできない」となるからです。
検品して概要を本社にファックスし、取引条件を代理で何度も交渉して、仮に「ゴーサイン」が出たとしましょう。
これでめでたく「商談成立」というわけではないのです。
受け渡しの日のリンギット(マレーシアの通貨)と外貨の為替レートはいつの時点のものを適用するのか、商品の損害保険はどうするのか、船積み運賃はどちらがどう負担するのか、シンガポールを経由するのか、クラン港から直送するのか…
などなど、実に膨大な条件をクリアしなければいけないのですから。
僕のいた会社は、シンガポールのエージェント(代理店)を通して日本に輸出し、親会社は岐阜県の建設会社でしたから、名古屋港着で運賃や保険を計算するわけです。
ですから、その時の円・ドル相場やシンガポールドルの相場もチェックしないといけないし、マレーシアのような途上国の通貨は強い通貨に戻す時に手数料が高いため、取引先ならいくらか有利になる「Maybank」というマレーシア最大の銀行で為替作業を行っていました。
学生の時は「1ドル○円」というニュースを聞いても、国際経済学科で習った知識以上の想像は持つことさえなかったのですが、いざ外国で働いてみて、為替、金利、先物市場の動向がいかに大切か、痛いほど分かりました。
僕のいた会社は単品買い付け商社でしたから、そこまで複雑な手続はありませんでしたが、『時差は金なり』に書かれているアフリカ、南米などの素材調達業務になると、政変や選挙、天候など、膨大な条件から最高のタイミングを見計らって「売り」と「買い」のサインを出さねばなりません。
同書には、古い商社関係の本にはお決まりのフレーズである「日本で最高・最多の情報を持っているのは、外務省ではなく総合商社だ」という言葉が書いてありますが、まさにその通り。
私見ですが、海外支援や途上国支援の仕事を希望している方は、もし希望業務が純粋に政治的なものでなければ、商社か金融機関で働くことをオススメします。公務員とはスピードや質、責任感が断然違うからです。
僕は97年の「アジア通貨危機」をクアラルンプールで経験しましたが、その日は朝から会社が異様な雰囲気に包まれました。
まず、早朝に「号外ファックス」が20枚ほど届いたので、「よくある営業ファックスか?人の会社の紙、無駄使いさせやがって」と思っていたら…。
「タイ政府、バーツ切り下げ容認」とあるではありませんか!
隣国タイの通貨が、当時、固定相場制でドルペッグし、実体経済とかけ離れた物価水準で金利動向が不安定だ、というニュースは、その数週間前から報道されていました。
当時は、マレーシアの威信をかけた「セパン国際空港」の建設工事のため、日本から大成建設の社員が大挙してマレーシアに押し寄せ、ツインタワーで大林組、流通支援でイオンが集中的に訪れ、在留日本人が1万人を超えた時期でもあったのです。
僕は赴任者の中では当然最年少で、ジャパンクラブなどで、「バーツが危ないらしい」という話は時々耳にしていました。
また、僕のいた会社は「学習塾」の事業部も持っていたため、大成建設やイオン、松下電器、大林組、三菱商事の社員の子供たち、いわゆる帰国子女の子供たちと会う機会もありました。
そこで、子供たちが口々に「最近、お父さんの帰りが遅い」と言い、自宅の連絡が付くまで塾で待機、という珍しい時期が数日間あったのです。
果たして、夏に「切り下げ」のニュースが来ました。それも、何の予告もなく。
バーツは、たった一週間で実に40%も暴落しました。「暴落」というより、変動相場制への移行によって「実態」が現れたといった方が適当かもしれません。
とにかく、あの「出かける時は忘れずに」といえば「トイレ」のことだと言われるくらい渋滞のひどいバンコク市内から、「ガソリンが輸入できない」ということで一気に車が消えたのですから、いかに為替ショックが痛烈な打撃だったか、よく分かるというものです。
タイ政府は外貨を投じてバーツを買い支えましたが、一度暴落した相場を、途上国一国の為替介入で安定させられるわけもありません。
かくして、「見栄っ張りの借金大国」である韓国、インドネシア同様、タイを含めたこの三国は「IMF(国際通貨基金)」の管理下に強制的に移行させられ、「経済植民地」となったわけでした。
「自分の国のお金で貿易できない」というくらい通貨の信用が下がり、手持ちの外貨が減ったわけですから、先進国が「通貨変動保険」のように拠出金を出し合っているIMFの支援を受け入れたわけです。
最大の支援国はもちろん日本でしたから、その年の韓国では、大統領が夏でも全く「戦争に対する謝罪」を求めなかったのも印象的です。
僕はその数ヵ月後に韓国に行きましたが、あの陽気で強がりの韓国人が、「わが国はもうダメだ」、「日本に感謝しないといけない」などと言っていて、「政治の態度は、やっぱり小手先のパフォーマンスだったんだなぁ」と感じたのを覚えています。
日本最大の企業・トヨタは、為替相場が1円変動し、「1ドル100円」から「1ドル99円」になると、なんと「500億円」の損失を受けるそうです。
これが、たった1週間で4割下落し、「1ドル60円」になったら、なんと「2兆円」の損失です。
業界ゼミでもお話したように、「自動車1台」を作るには、3万点の部品が必要です。仮にトヨタの収益が4割下がって、2兆円もの「受け取れたはずのお金」が消し飛んでしまえば、その2兆円によって生活している産業とその家族は、職を失って路頭に迷うでしょう。
2兆円といえば、福岡市の予算の約2倍ですから、140万人の福岡市民のうち、100万人近くが頑張って収めた税金の2年分が、たった1週間で消し飛んだことになります。
都合、「200万人」に相当する労働力で生み出した「税収」が消滅するわけですから、その産業に与える影響たるや、「激甚」という言葉で表せるようなものではありません。
「500億の損失」でも、普通の自治体が軽く吹き飛ぶ規模ですから、2兆円の損失は、数発の核爆弾を連続投下されたのに等しい打撃を与えるのです。人は死にませんが、町と産業、暮らしは壊滅状態になります。
以上は分かりやすく「福岡市」で例えてみましたが、そのような為替の打撃が、東南アジアの途上国一国を襲ったらどうなるか。
「町から車が消える」
「数十万人規模のデモが頻発する」
「共産ゲリラが跋扈する」
「食べ物を求めて犯罪が起きる」
といった現象が、国内のあちこちで起こることになるのです。僕は戦時中の「2・26事件」や「5・15事件」を経験したことはもちろんなく、本で知るのみでしたが、「世界恐慌の時は、こんな感じだったんだろうなあ」と思いました。
幸い、僕の貯金は変動に強い香港ドル、米ドル、ドイツマルクなどで持っていましたから、目減りするどころか、再両替で「うそ?」というくらい増えましたが、為替相場とは恐ろしいものだと思いました。
たった一つの「木材輸出」という仕事でも、取引先の信用状況や供給体制、商品の品質や基本価格、損害保険や先物取引、為替対策や船積みの準備など、色々な作業を経て初めて「行ってらっしゃい」となるわけです。
「英語をしゃべれる」など、こんな海外貿易の現場では「だから何?」と言われるだけで別に何のニュースにもならず、海外には皆さんより年下で3~5ヶ国語を操る華僑やインド人がゴロゴロいます。
やはり、会計や貿易実務を学び、信用できる取引先を見つける営業力、幅広い動向を頭に入れて動ける経済知識があってこそ、初めて語学の出番があるというわけです。
つまるところ、商社は「情報」を売る仕事です。何がどうなった時に売れば一番儲かるか、損する時はどういう時なのか、取扱商品を通じて当事国と日本を同時に豊かにするためには、どういう契約で信用を構築していくか…考えるのはそんなことばかりです。
僕は20歳だったので、もちろん大掛かりな商談の決定は行いませんでしたが、それでも社長や取引先、提携先の人などが、忙しく為替をチェックしたり、法律や税制、国際情勢、他国商品の市況などを調べているのを見て、「なんと複雑な仕事なのか」と感じずにはいられませんでした。
国内の商社なら、これほど複雑な仕事はしなくてもいいでしょうが、そういう過去の体験を振り返るほど、『時差は金なり』というタイトルは、実に商社の仕事の本質を言い当てた言葉だと思います。
もちろん、商社では基礎的な研修もやりますが、「英語がしゃべれて海外に行ける」くらいの甘えた動機なら、やめておいた方がいいでしょう。そんな仕事は、年に1回もありません。
そもそも、なぜ「英語で海外」だとカッコいいのか、それ自体理解に苦しみます。それなら、旅行にでも行っておけばいいのに。
商社の仕事は「英語をしゃべる」ではなく「英語でしゃべる」という性質のものです。大げさでなく、より大事なのは会計や貿易知識です。それがなければ「招き猫」か「番犬」というのは、本当です。
本当に商社で通用したいなら、語学と会計を徹底して学び、金融知識と歴史、文化、経済に強くなるのがオススメです。
これは自慢でも何でもなく、FUNで教えている「ビジネス塾」、「マネー塾」、「業界ゼミ」、「営業塾」などは、僕の20代の集大成として、最も大事で使える知識を体系的にまとめたものですから、本気で実力を付けたい方は、ぜひ購入されることを「押し売り」のつもりでオススメします。
併せて、業界ゼミの「金融編①・②」を入手すれば、銀行・証券はおろか、先物や損保、リース、VCなどの目に見えない機能が理解できるでしょう。
そもそも、僕は19歳で中退して以来、現場で徹底して知識を身に付けてきた人間ですから、「本当に使える能力と知識」には詳しいのです。「内定するかどうか」など、そんなのは楽勝すぎて、問題ではありません。
だって、僕は「ウチに来てくれ!」と誘われたことしかないからです。
FUNで学んだ先輩、就活コースで学び続けた先輩がどのような会社に内定したかを見れば、勉強内容も想像できるでしょう。
知識もまさに「時差は金なり」。
「数ヶ月先に学べばいいや」と思っていた金融知識を今学べば、合同説明会や企業研究、面接で圧倒的な差がつくでしょう。その結果開く初任給や生涯賃金の差は、数百万円、数千万円にもなります。
その「リスクヘッジ」を数千円でカバーできるFUNの勉強って、本当にお得だと思いますよ。僕って、なんて気前がいいんでしょう…。
とにかく、FUNの教材を買うかどうかは営業っぽいのでもう書きませんが、『時差は金なり』、『問屋と商社が復活する日』だけは、ぜひ読みましょう。それから、業界ゼミの『商社編』にも参加するとよいでしょう。
実感、体感できる「知識による時差」を楽しみましょう。
差は、つけられるものではなく、つけるものです。