◆「内定への一言」バックナンバー編

「悪い黒字あれば、良い赤字あり」





こんばんは。自称『ブックオフ大濠店(非実在)・店長』の小島です。業界ゼミのレジュメ作成で各業種の名著を100冊要約し、残るは約80冊になりました。

内定なんてレベルの低い目標は目指さず、「期待の新卒即戦力」を実現できる会計的視点から全業種・職種を見ていくので、今後も楽しみにしておいて下さいね。

毎年のことですが、僕は必ず、事前に宣言して結果を出してみせます。一人として見捨てず、最後の一人まで変わらぬ姿勢で応援する覚悟です。結果が出ない努力など、最初からやる意味もありません。



さて、僕は今でも毎日のように赤坂近辺を徘徊していますが、ベローチェに行くと、ここ最近は必ずと言っていいほど会うのが、春からメガバンクに入る福大4年・I君です。

福大で精力的に活躍しながらも、2年生の時からFUNの勉強会にはよく参加してくれており、I君ももう就職かと思うと時間の流れを感じずにはいられません。

そんなI君から昨日、「利益の仕組み」を詳しく知りたい、というご要望を頂きました。どの利益をどう考えるかは、銀行の与信業務に絶対不可欠な視点なので、今日は「利益の物語」についてご説明します。

企業財務や経営力を見るのに、①貸借対照表、②損益計算書、③キャッシュフロー計算書の3つの書類を組み合わせるのは、学生の方であれば、誰でも知っている常識でしょう。

というか、それくらい商業高校の高校生でも知ってますよね。

そのうち、貸借対照表が「経営活動によって築いた財産状況」を表すのに対し、損益計算書は「費用と収益の配分状態」を表します。

分かりやすく言えば、貸借対照表は「体型」を表し、損益計算書は「運動能力」を表すと考えればよく、両者は相互に補完しあって企業の姿を鮮明に映し出します。

損益計算書の役割は、主に「その会社の儲ける力」を知ることで、総売上から総費用を段階的に差し引き、属性別のいろいろな利益を確定させながら、費用と収益の配分を知ることができます。

その「色々な利益」とは、上から…

①売上高総利益(粗利)
②営業利益
③経常利益
④(間接的に)特別利益
⑤税引き前利益
⑥税引き後当期利益

となっています。


最も初歩の利益を「売上高総利益」と言うのは、この利益はそれ以降に算定される②~⑥の「全ての利益」を含んでいるので、「総」利益と呼んでいるわけです。

例えば、「ジョージアの缶コーヒー」は、コンビニでは「120円」で売られていますが、その「製造原価(豆、水など)」はたったの「4円」です。ちなみに、缶が「5円」。

缶コーヒーは、工場を旅立った瞬間は、実に「9円」の色が付いた水でしかないわけです。

ですから、この値段を売値の「120円」から差し引けば、「120-9=111円」となります。よって、缶コーヒーの「売上高総利益」は「111円」ということになります。

さてさて、「9円の商品を120円で売るなんて、ぼろ儲けじゃないか。いいなあ」と言う学生さんが過去実際にいたので、ここからが本番です。

「売上高総利益」というのは、前述のようにそれ以降の全ての利益を含んでいる、「粗っぽい利益」でしかありません。つまり、「おおよその利益」を掴む意味合いしかないのです。

この数字は、製造業であれば「製造原価」、サービス業であれば「仕入れ根」を引いただけの「唯物的な利益」に過ぎません。ただ、「モノ」として見た時の直接経費を差し引いたに過ぎないのです。


皆さんはなぜ、缶コーヒーの存在を知っているのでしょうか?

皆さんはなぜ、数あるコーヒーから「ジョージア」を選んだのでしょうか?

皆さんはなぜ、コンビニでコーヒーが買えるのでしょうか?

皆さんはなぜ、冷えたままのコーヒーが買えるのでしょうか?

それは、「広告」によって存在を知らされ、「商社」によって他社製品以上の魅力を発見され、「物流」によって製造地から販売地に移送され、「保存」によってすぐ飲める状態で準備されていたからですよね。

これらのプロセスには、全て「人件費」、「車両費」、「通信費」、「燃料費」、「倉庫代」、「代理店手数料」、「広告宣伝費」、「小売利益」などが含まれています。

このように、そのモノ自体の直接的な製造・仕入れに関わった「直接費」ではなく、輸送や保管など、販売までのプロセスで要した間接的な費用を「間接費」と呼んでいます。

よって、これらの「費用」は、関わった全ての業者さんにとっては「売上」なので、売値からそれだけの「間接費」を差し引かねばなりません。

例えば、「120円」から…

①製造原価の「9円」を引いて、残りは「111円」
②港の倉庫に輸送する送料「10円」を引いて、残りは「101円」
③倉庫に保管しておく「缶の家賃5円」を引いて、残りは「96円」
④芸能人を使った「広告宣伝費20円」を引いて、残りは「76円」
⑤販路を作る商社の「コンサル料10円」を引いて、残りは「66円」
⑥商社の倉庫からお店に輸送する「送料5円」を引いて、残りは「61円」
⑦コンビニの諸経費「30円」を引いて、残りは「31円」

だとすれば、②~⑦までの「間接費80円」を差し引いて残ったのは、⑦の段階の「31円」です。



この「31円から」…

①飲料メーカーの人件費「10円」を引いて、残りは「21円」
②飲料メーカーの家賃・光熱費「5円」を引いて、残りは「16円」
③飲料メーカーの研究開発費「3円」を引いて、残りは「13円」
④飲料メーカーの設備費「3円」を引いて、残りは「10円」

ということで、社内の間接費までを全て差し引いて残った「10円」が、この会社の「営業利益」です。

これは、会計的に見れば「120円の収益を回収するために、110円の費用を投資した」と言うことができます。

こうして、全ての段階でかかった「間接費」を差し引くことで、その会社の「純粋な営業活動」によって生まれる収益が分かるわけです。

営業利益は、後に続く「経常利益」と同等に重視される指標です。なぜなら、「本業の儲ける力」を表すから。投資家も銀行もこれを重視するのは、いくらお金を預けても、貸しても、この力が低ければ「運用力なし」という意味だからです。


そのように大事な「営業利益」ですが、これはあくまで「営業」によって生まれた利益を表すもので、さらに会社全体が行う「経営」という活動から見れば、営業は一つの「部分」に過ぎません。

この会社が仮に銀行から借入を行っていたり、あるいは余剰資金を資産運用に回していたりすれば、借入金の利息や運用資産の配当収益など、「本業とは別の場所」でいくらかのお金の動きがあるでしょう。

営業が「商材を提供して代価を回収する」という会社の中核的な役割を果たすなら、経営はそれを包含する形で「企業を存続・発展させる」というより大局的な視点から行う活動です。


「営業で成功しても、経営で成功する確率は1割程度」なのは、営業と経営では、考えることの視野も計画の長さも、深さも関連性も、段違いに経営の方が広く大きいからです。

営業マンは資金繰りや社員教育、商品開発、人事管理、税務対策、事業承継、決算対策など、何一つ考える必要なく「営業活動」に没頭しておけばそれでいいのですが、経営者はそうはいきません。

業界や社会、時代の流れや変化を広く、かつ深く見通し、数年後の計画のために「今」を過ごさねばならず、よって、決断の重要さもインパクトも営業マンとは比較になりません。


ですから、仮に「営業利益」が10円上がったとしても、それから「借入金の利息」の3円を差し引くことになれば、利益の額は「7円」になってしまいます。

つまり、営業利益が「営業活動の利益」なら、経常利益は「経営活動全般の利益」を意味するわけで、財産状態や資産活用状況が良ければ、営業利益を超えることもあるし、いくらヒット商品が生まれても、経営のツケが残っていれば、営業利益を下回ることもあるわけです。

その意味では、営業利益の観察も大事ですが、経常利益はより広く長期的な投資判断、融資判断をするために、欠かせない指標だと言えるでしょう。

さて、中には営業利益で「そこそこの利益」を出しても、経常利益で赤字に転落し、「これはやばい」と感じる社長さんもいます。

そこで、株式や債券などの保有資産を売却したり、あるいは社用地は会社名義の不動産物件を決算直前に売却して、「特別利益」という名の「臨時収入」を作ることがあります。

この利益、名前だけは「特別」とゴージャス感が漂っていますが、それは単に「営業や経営の本質とは関係ない」という意味であり、仮にそれを「利益」と呼んでいても、別にいつも良い意味を持っているわけではありません。

固定資産の評価額が下がったり、保有資産の額面価値が下がったりすれば、経常利益で黒字でも、「特別損失」によって赤字に転落することがあります。

ですから、本当に大事なのは「経常利益」までの利益です。仮に経常利益が赤字でも、直前の「資産売却」などのアクロバットに頼らず、「これがわが社の現状なんだ」と冷静に事実を受け止める会社もあります。

また、営業利益が赤字なのは嫌だと、資産売却や直前工作によって「黒字」を装う会社もあります。

学生さんも、「黒か赤か」を神経過敏ではないかと思うほど気にする割には、「悪い黒」と「良い赤」があるのを全く知らないようです。

よって、そういう人は極めて表面的な判断で、ただ知名度や業界内順位だけを見て会社を選ぶ傾向がありますが、これなどは「スーツはきれいで、下着は3日間同じ」という見かけに騙されるのと同じです。

ほんと、会計を知らない人は、ただ「感覚」で動いているだけで、自分の頭で物事を考えることができないんだなぁ、と毎年思わずにはいられません。ま、それは大半の社会人も同じですが。

入社した会社が入社1年目に倒産して、「ひどい」、「聞いてない」とか言う若者もいますが、それも自己責任のうちです。かわいそうですが、自分の不勉強を嘆くほかありません。

会社が倒産しても、本人が倒産しなければいいではありませんか。従業員には、何の経営責任もないんですから。

「資本金の額」とか、「売上高」だけを見て「いい会社」だとか言うのは、ほとんど常軌を逸した不可解な判断です。

そういう人は、「頼朝が鎌倉幕府を作ったのは何年?」といった性質の質問にはスマートに答えるのでしょうが、「頼朝はなぜ、あれほどの劣勢からたった20年で将軍になれたのか?」と聞かれれば、答えられないでしょう。

同様に、「この会社の売上高はいくらか?」には答えられても、「この会社が、1億円の資本金を5年で10億円にできたのはなぜか?」には答えられないでしょう。

見るのはただ、「図体のでかさ」とか「知名度」だけ。要するに「奴隷」ですね、これは。

この「特別利益」に関しては、既に去年の夏に開催し、現在『マネー塾』に次いで通販の注文が多い『ビジネス塾』でもお話したとおり、人間心理にも深く関わった性質を持っています。

ある学生が、試験の直前になってバタバタと勉強を始め、「いざという時の行動力は負けません!」などと言っていたとすれば、経営者には、それは「私はいざという時にならなければ行動しない愚か者です!どうか私を不採用にして下さい!」としか聞こえません。

会計を知る人と知らない人では、最初から「埋められない差」が存在しており、会計を知らない人は、どれだけ努力しても、数字を読める人には勝てません。

ですから、仮に試験の成績が「10教科中5教科がA。しかしギリギリ」という人よりは、「10教科中3教科がAだが、長期計画で毎学期向上中」という人の方が、長期的に見ては「買い注文」、つまり「採用!」のゴーサインが得られます。

ですから、「特別」などという響きの良い言葉に惑わされず、ビジネス塾でもお話したとおり、「数字が語る物語」の読み方を知って、冷静に判断せねばなりません。

さて、経常利益に特別利益、あるいは特別損失を加減すると、「税引き前利益」が算出されます。

この段階の利益からは、国や自治体などが、「法人税、事業税、住民税」の「法人三税」を課税し、その税率は自治体や事業規模によって若干差はあるものの、大体「4割」と思って差し支えありません。

つまり、コーヒーの会社が「100万円」の税引き前利益を残せば、「約40万円」が税金として差し引かれ、残りの「60万円」が「税引き後当期利益」となるわけです。

理屈の上では、ここから「役員報酬」、「配当」、「内部留保」を積み立てるわけですから、経営陣は良い経営をすればサラリーマンの数十倍儲けることもできるし、経営状態が悪化すれば責任を取らねばなりません。

また、配当が実現できねば株主から批判されることもあり、この状態を「無配」と呼んでいます。経営者が回避したい結果の一つです。

そこから株主に説明し、必死の努力で経営状態を改善して、再度配当が行えるようになることを「復配」といいます。創業者の伝記を読むと、「オイルショックの経営危機を脱し、復配にこぎつけた時は本当に安心した」などと書いてありますが、あのことです。

ということで、ざっと売上高総利益、営業利益、経常利益、特別利益、税引き前利益、税引き後当期利益について見てきましたが、皆さんはどの利益に興味を持ちましたか?

各段階の利益は、その算出過程と数字だけで十分な「物語」を持っており、前後の利益との関係や変動過程を見ることで、社長の苦悩や感動を想像することもできます。

単に、学科的知識で区分するのではなく、そこに人間性を介在させて想像し、「自分なら、この段階の利益をどう上げるか?」と当事者意識を持って考えるのが、本当の業界研究だと言えるでしょう。

以上、『ビジネス塾』でご説明した内容に比べれば、分量は100分の1にも及びませんが、利益の仕組みと性質を知るだけでも、随分就活は楽しくなることでしょう。

「内定」なんて、所詮「自分の課題」を解決するだけの作業に過ぎません。大事なのは「社会や会社の問題」を解決すること。

あなたが相手に興味を持てば持つほど、相手もあなたに興味を持つようになるでしょう。

そのために、会社が提供している重要情報である「利益」に着目し、それをメッセージツールとして分析して、今後の会社説明会での話題にするのも、また面白い試みです。