◆「内定への一言」バックナンバー編
「世の中には、作る仕事と売る仕事しかない」
こんばんは。先ほど「福重の湯」から帰ってきた小島です。
あの辺に行くたびに思いますが、西区も随分発展したものです。
Y君、K君、また春頃に行きましょう。
さて最近は、諸般の事情から長く会っていなかった友人・知人と続々再会し、言葉にできないほどの感動を味わっています。
その中でも、僕の記者時代、大阪の不動産会社の業務の関係で福岡に転勤で来られたOさんとお話していると、今日も何度かタイムスリップしたような感覚になりました。
記者時代、それに続く創業準備、独立…Oさんにはどれだけお世話になったことか。35歳までのこの5年は、恩返しと友人の応援、そして可能性に溢れる学生さんの応援に全力を尽くそうと、改めて感じる日々です。
今や、学生サークルにしては不似合いなほど大きなサークルとなったFUNですが、もし僕の代わりに全幅の信頼を託して「顧問」を任せられる社会人を選べと言われたら、間違いなくOさんを選びたいほどです。
これから社会人となられる皆さんには、おいおい僕の素晴らしい友人もどんどんご紹介していきたいと考えているので、その時は楽しくお話しましょう。
それはそうと、本メルマガは「内定への一言」というタイトルなので、今日はそれらしく、就活の話題を取り上げることにしますね。
毎年就活の時期になると出てくる悩み、というか僕のところに寄せられる相談の中でもトップクラスに多いものといえば、「業界を広げるべきか、狭めるべきか、どちらがよいのか」というものです。
僕は人によっていくらか説明にも変化を付けますが、大体は「広げまくって狭めるのがいい」と言うことにしています。
最初から狭いよりも、多い選択肢を統一させていく過程で決断力が鍛えられ、多くの要望を一つの対象に込めることができるからです。
事実、この世には「メーカー」と「商社」の二つの仕事しかありません。言うなれば、仕事には「作る」と「売る」しか存在しない、ということです。
消費者の視点が抜けきれない学生さんは、「でも、銀行があるじゃないですか」、「不動産会社もありますよ」、「僕の好きなヤマダ電機はどうなんですか」と言うかもしれません。
しかしそれらも、収益構造と問題解決手法を会計的に見れば、「お金の商社」、「土地・建物の商社」、「家電製品の商社」です。
売っている商品が違えば業界も違う、と思いたがるのは「消費者の視点」であって、ビジネスの仕組みが同じであれば同業種と考えるのが「経営者の視点」だとも言えるでしょう。
来週から始まる『FUN業界ゼミ』では、このような「業界横断的」な会計センスを養い、皆さんの志望動機を内定するまでも、してからも消えないように磨き上げていく勉強をしていく予定です。
そして、もう一つの目的は、「調べ損」という損な考えを捨てることです。
例えば「銀行」を志望していた学生さんが、色々と仕事を調べていくうちに、「商社の仕事が面白い」と感じたとしましょう。
しかしその時期は、就活を「始めた」と自覚した時期から、既に3ヶ月ほど経過した頃だったとします。
「今までずっと銀行一本で来たのに、今さら志望業種を変えたら、銀行を目指して頑張ってきた時間がもったいない。
さらに言えば、商社に寄り道したとして、もしやっぱり銀行の方がいいと思った時、商社を調べるのに使った時間ももったいないと思うだろう。そう考えると、やっぱり時間のムダは避けたいから、自分は銀行一本でいこう」
そう考えたこの学生さんは、「商社」という言葉を聞くたび、心のどこかで「いいな」とか「聞いとこう」と思ったりもしましたが、そんな心の声を振り切るように、銀行の研究に熱中しました。
しかし1ヵ月後。やはり業界研究の精度が鈍ったのか、目指していた銀行の選考にことごとく落ち、持ち球が少なくなってきました。
そこで再び現れたのが、「商社」の影でした。
「やっぱり商社がいい…!」
そう思った学生さんは、銀行や金融を忘れ、遅ればせながら商社を第一志望に定め、焦りと不安の中で再スタートを切りました…。
しかし、やはりそちらの準備も不足していたのか、商社の選考でも望み通りの結果は得られず、最後は「どこでもいいや」みたいな気持ちになってしまいました。おしまい。
といったようなパターンで、まるで第一志望の大学に落ちた学生のように、「オレは本当は銀行志望だったんだ」、「私は本当は商社で働いているはずだった」とか言う社会人も、けっこういます。
僕はこういう人を見るたび、「会計を知らない人って、こんなことで悩むんだ」と感じます。
というか、「こんなことを損だと考えるんだ」と思います。
はっきり言って、一業種だけの研究で終わる業種研究など、研究と呼ぶには余りに程遠いものです。
本気で一つの業種を研究すれば、誰であれ、最低20くらいの業種との関わりが描けねば、それは間違った業種研究です。
それに、「銀行」を志望業種にした人は、同時に商社でも働きたいと思うようでなければ、銀行の本質は全く見ていないとも言えるでしょう。
銀行とは、世の中で余っているお金を集めて「過剰在庫」を装置化し、その融通の仲介人の役割を果たしている仕事です。
つまり、「お金を買って、お金を売っている仕事」です。
お金自体を商品にしているから、銀行が「商社」であることが分かりにくいのかもしれませんが、やっていることは100%商社と同じです。
片や、学生さんがイメージする「商社」といったら、「カバン持って外国の空港で国際電話」みたいな、前近代的なイメージです。
しかし、そんな華やかそうな仕事は、商社の仕事の1,000分の1くらいでしかなく、他は地道な与信審査や書類作成、品質管理、債権管理や営業です。
また、商社であれば必ず「掛」で売買をしますが、この機能は実質的には「融資」と同じ役割を果たしていて、商社が果たす銀行機能を「商社金融」とも呼ぶのは、商学部の人であればご存知かもしれません。
となれば、銀行と商社の何が違うかと言うと、貸すものが「カネ」か「モノ」のどちらであるか、というだけです。
貢献面で分類すれば、銀行は流動負債か固定負債の調整を担当し、商社は当座資産と棚卸資産の流動化を支援しているだけの違いです。
やっていることは、「資金需要への対応」と「時差の調整」であり、銀行と商社の仕事は全く同じです。
それが同じだと思えないのは、「ビジネス」として見ず、銀行と言えば「七三分け」、「地場企業」、「手堅い」、「安全」といった雑音を情報だと勘違いし、商社と言えば「海外」、「アタッシェケース」、「携帯電話」、「英語」のような雑音を情報と思い込んでいるからです。
そういうのは「雑音」と言って悪ければ、「表層的な煙幕」とでも言えます。収益を生み出す本業からすれば、通信環境や語学力などは、部分的な要素、末梢的な要因に過ぎないものです。
そういうものは、あるに越したことはなく、もちろんさらに「七三分け」であれば安心感も喚起できるかもしれませんが、「社会のどんな問題を、どう解決しているか」という核心の理解がなければ、本当に心底同意できる志望動機は持ちようがありません。
そして、「問題解決手法」を会計的に理解できれば、志望業界は続々と増えてしまうものなのです。
ですから僕は、就活を始めた頃は、色々な業界が等しく「面白い」と思えねば、危ないと思います。
その増え方が「福利厚生」とか「離職率が低い」などというどうでもいい理由であれば問題ですが、純粋に仕事が面白いという理由で志望業種が増えるのは、至って健全です。
「選択肢が増えるのが危ない」というのは、学生には「対象を分散させると割ける時間が減り、集中も浅くなる」という社会主義的な発想が強いからです。
そのように、「数ヶ月間も第一志望にしていた業種を別の業種に変えると、損なのではないか」と思うのは、「投下時間の長さ」が価値尺度だと思っているからでしょう。
そういうのは「労働価値説」といって、学校の先生が大好きなマルクスやレーニンが100年以上も前に提唱した、既に破綻した理論です。
「制作費100億」とか「構想5年」と言われただけで「いい映画やん」と思う人たちは、思考構造的に、核兵器を持った将軍様のいる国の人たちと同質の発想をしているわけですね。
しかし「価値」は、常に時間節約やスピード化から生まれます。「時間をかけて価値が上がるのは、骨董品とウィスキーしかないぞ」というのは、『ビジネス塾』の「減価償却」の回でも説明した通りです。
銀行を3ヶ月調べたからといって、それを別の業界に変更するのに後ろ髪を引かれる思いをするのは、人情としても分かります。
しかし、「他の業種の魅力が見えてきた」というその事実こそ、銀行をよく理解したという証拠でもある、という事実を忘れてはなりません。
最初は「銀行=カネ貸し」としか思っていなかった学生さんが、よく調べるうちに「債権管理」という仕事に興味を持ったとしましょう。
その「債権管理」を調べているうちに、「債権を管理すると安全な成長企業のデータが揃って、コンサルティングもできるのか」と思い、次は取引先に繁盛のアドバイスを行う「コンサルティング」に興味を持ったとします。
「情報提供でお客様が喜ぶなんて、銀行の仕事はお金を貸すだけじゃないんだ」と思った学生さんは、ここで「自分がやりたいのは、こういう経営相談だ!」と思ったとしましょう。
そこから見えてきた新たな世界は、「コンサル会社」でした。資金を融通するというより、資金調達の仲介をしつつも、情報や人脈を仲介したり、ビジネスモデルを一緒に考えたりする仕事です。
この学生さんが「そうだ、自分のやりたい仕事はこれなんだ!」と思ったのなら、銀行に投じた時間は「損」だと言えるでしょうか。
損どころか「得」ですよね。だって、以前に志望していた業界よりももっと深い動機で別の業界を認識し、より本質的な喜びを将来の夢の果実として描いているからです。
こういう現象を、学生さんは「志望業界が変わった」という言い方をしますが、僕はこの言い回しは、非常に表面的で、何ら本質を説明していないと思います。
なぜ「志望動機が成長した」と言わないのでしょうか。
行く業種じゃなく、動機が大事で、動機こそが結果を決めるのに。
もちろん、この学生さんが「コンサル会社」に決めたといっても、もっと勉強していけば、再び細分化された分野に興味を持って、リースや不動産、広告、運輸、ITなどに興味を持つ可能性は十分あります。
なぜそのように興味が移動するかといえば、それらは全て「商社」だからです。会計的に同質の仕組みを持っている業種間では、バーター(交換的移動)が起こりやすいものです。
そういう学生さんを見ると、他の学生は「おまえ、また志望業界変えて大丈夫?」と心配するかもしれませんが、会計的に正確な理解をしておけば、業界を変えた「新参者」であれ、他の「先輩」よりも理解が深い、ということだって十分ありうるのです。
ですから、学生さんが言う「志望業界の変更」などは、単に「扱う商品」から見た上での「浮気」であって、我々経営者の視点で言えば、別に何も変更されてはおらず、それどころか「深化」とも呼べるもので、非常に好ましい決断です。
つまり…。
学生 僕、志望業界を銀行から不動産に変えたんです。友達は不動産会社から広告代理店に変えたそうです。
社長 そっか、同じ業界か。よく勉強したね。
学生 え、何が同じなんですか?
社長 銀行は余ったお金、不動産は余った土地を運用しているし、不動産は所有する土地の活用者を募集し、広告代理店は所有する紙や電波の活用者を募集しているから、全く同じだよ。
学生 そっか。なるほど!
ということです。
学生さんは「不動産⇒広告」、「通信⇒商社」などといった変更をさも大決断のように捉えますが、それは表面的な見方をしているから、そう思うに過ぎません。
会計的に仕事を理解すれば、どの仕事も楽しく思えてきて、西南法3・K谷さんのように、「毎週志望業界が変わってしまう」というようになってよいのです。
それらの動機は、いずれ最も深い部分で同意できる理想の下に統一され、その仕事は、今まで自分が保有してきた全ての動機を含んでいるとも言えるでしょう。
だから毎年、「どんどん広げて、そこから狭めよう」と言っているのです。
中には元から一つに決めていて、「私は銀行しか受けません」という人もいますが、そういう人も一度は広げることをお奨めします。自分が受ける業界しか知らないなんて、「何も知らない」のと同じだからです。
せめて、競合関係にある業界や取引関係、補完関係、提携関係にある業界くらいは調べておかねば、本当に相手を動かす志望動機など作りようがないでしょう。
ということで、「志望業界がどんどん増えて、これでいいのか不安だ」という学生さんは、そういう不安は健全な不安ですから、その「広がり方」に着目して、どんどんいろんな業種を調べてみましょう。
1~2ヶ月もすれば、「自分が本当に大事にしたいこと」が、ある日ふっと理解できますよ。
その時に定めた志望業界が過去の志望業界と同じでも、それはもう、「別の仕事」でしょう。だって、より多くの選択肢の吟味を経て到達した答えなのですから。
就活に「調べ損」なんて、一つも存在しないのです。最も損なのは、「損だ」とすぐに決め付ける、その浅ましい考え方です。
「ここは志望と違う」というのは、「次に進める」という点では純然たる成功なのですが、長期的視点がない人は、それを「失敗」と呼んで、新しい選択肢を歓迎しなくなるでしょう。
これこそ、最も大きなリスクです。
ということで、「この業界では○○ができるか?」というYes/No型の問いではなく、「この業界で○○をするには、どうしたらよいか?」というオープン型の問いを発するように心掛けましょう。
そういう癖を付けて会社を見れば、今は無理だと思うことでも、入社後にどのような努力をすれば実現できるか、その糸口が見つかり、余計な不安を取り去ることができるでしょう。
そして、「滑り止め」とか「保険」のようなケチな発想を捨てることです。
そんな失礼でもったいない動機で会社を見ていると、そのうち、滑り止めにすら行けないようになるものです。
どんな業種でも、見るときは「俺の第一志望だ!」、「私はここで働く!」という気持ちで望み、その仕事が最も深い感動を生み出す瞬間を探るようにしましょう。
そうすれば、「別に関係ない」と思っていた業界からでも、素敵な情報が得られるでしょう。そもそも、「関係ない」という心の口ぐせほど、自分の選択肢を狭め、不幸を招来する考え方です。
関係がないと思われるところに接点を見つけ、「もしや?」と関連付ける想像力こそ、就活の何よりの武器です。
僕は、そのために最も良い武器が、会計センスを身に付け、創業物語を知ることだと信じています。
別に、学生さんに合った業界を紹介してあげようとか、学生に分かりやすいように、甘く噛み砕いて情報を提供しようなどとは、全く考えていません。
そういうのは、自分でやってこそ自信になるからです。僕の役割は、実力が付く訓練を一緒に行うことであって、就○課のように、実力が低いままでも受かる手助けをすることではありません。
それより僕が提供したいのは「想像力」、「集中力」、「決断力」です。
頭が混乱している人の口ぐせが「情報が氾濫している」であるように、テーマを持ってない人、将来像を決めていない人の目には、情報は常に膨大にあるように見えるものです。
そうだからと、「もっといい情報探さなきゃ」などとあちこちのサイトに登録し、数日空けてPCを開くと、届いていた膨大なメールにやる気を失い、「どうでもいっか」となるのでは、何をやっているか分かりません。
だからFUNでは、3年前から…
「雑多な情報から宝を見つける想像力」
「曖昧な状態のお知らせから情報を見抜く集中力」
「異なった選択肢の本質を見抜いて統合する決断力」
を重視しているのです。
「違う」を「同じ」にできる見方ができれば、情報の氾濫や一方的な飛来に焦る必要もありませんからね。
だから、頭を柔らかくしたければ、以下のような数式を解くことです。
①人材派遣会社と倉庫会社は、○○という点で同じ仕事だ。
②ブックオフは○○が上手なので倉庫とレジの役割しか果たしていない。
③広告代理店と先物取引会社を足すと、○○というビジネスが生まれる。
④ネットカフェとコンテナハウスは○○という収益方法が同じだ。
というようなものです。僕の頭の中には、ここ何年も、このような式が無限に展開され、将来やりたい事業のアイデアが既に50個以上も生まれました。
…と、湯冷めもあってやや話題が間延びしましたが、今日の結論は、
①志望業界はどんどん増やそう。そして、共通点を探して統合しよう。
②共通点を探したら、自分の性格的傾向と照合してみよう。
③今果たせない条件は、入社後に果たせるものだと受け止めよう。
④会計を学び、お金の流れや問題解決手法から仕事を観察しよう。
ということです。
「幸せな悩み」と「健全な混乱」を経て、皆様の想像力、集中力、決断力が高まっていくよう、今後はそういう話題を増やしていくので、どうぞお楽しみに。
今しっかり悩んだ人には、将来もれなく「同じことで時間を浪費しない」というプレゼントがついてきますよ。
ついでに、来週火曜から始まる『FUN業界ゼミ』も、どうぞよろしくお願いします。