■「内定への一言」バックナンバー編
「資本金や売上より、お金の変身過程を見よう」
おはようございます。今日から、①Business Cafe、②FUNゼミ、③スピーチ塾、④近現代史勉強会の強行軍に突入する小島です。
自ら「学びたい」と集まる学生さんを前にしては、「昼寝」や「休憩」なんて、もったいなくてできませんね。有り難い限りです。
大学中退で、最終学歴は「天草自動車学校」の僕なのに、ありがたや、ありがたや…。
さて、皆さんは、こういう話をキャンパス内で聞いたことはありませんか?
「やっべぇ、オレ、4年なのにあと30単位あるぜ」
「まじ?そりゃきついね。就活とか卒論とか大丈夫?」
「分からん。けど、なんとかなるさ」
就活シーズンになると、もうじき4年生になる学生さんたちが、時々喫茶店などでこんな話をしています。
FUNの学生さんは、ほとんど3年で全部の単位を取り終えて、4年では卒論や取材、営業や会計の勉強に打ち込む人が多いので、サークル内ではあまり聞きませんが…。
それにしても、年間30単位などは大した量でもないのに、なぜきついのかと言えば、それは「4年生だから」。つまり、「残り時間が少ないから」ですよね。
もしこの学生さんが1年生なら、30単位などは別に気にする数字でもないでしょう。反対に、1年生のうちに「130単位」を取らないといけないとしたら、それは大変な苦行になるでしょう。
「期間に応じた配分で、適度なペースが決まる」というのは、勉強もスポーツも同じです。
実はこの鉄則、会計にも見事に当てはまっているのです。
企業会計の世界では、「資産」と「負債」の次に学ぶ初歩の初歩の概念として、「流動」と「固定」という考え方が登場します。
例えば…
「流動資産」⇒1年以内に現金化できる資産(預金、売掛金、手形など)
「固定資産」⇒現金化に1年以上かかる資産(土地、建物、有価証券など)
「流動負債」⇒1年以内に消滅させるべき債務(買掛金、短期借入金など)
「固定負債」⇒完済に1年以上を要する債務(長期借入金、社債など)
というふうに分類します。
貸借対照表の資産欄、負債欄ともに、装置産業や資源産業以外の業種であれば、その分類は「換金性の高いものから記載する」という「流動性配列」になっているのは、簿記を学んだ人ならご存知ですよね。
流動資産の一番上には、「現金」があります。なぜって、これこそ「換金」するもしないも、お金そのものだから。そして次には「預金」です。これは、「引き出す」という作業さえすれば、手元の現金になります。
時々、「要求払預金」みたいに難しそうな言葉で書いてありますが、要するに「引き出すぞ、と要求すれば引き出せる現金」のことです。
その下には、「売掛金」が来ます。これは、「売ったけど回収していないお金」のことで、適切な期限が来れば現金化される債権です。
その下あたりに来る「受取手形」は、売掛金よりやや回収サイトが長い債権のことですよね。
これらは、時間が経過して、所定の手続を取れば現金化され、今の一定の時期(当座の間)だけ「現金以外の形」に変身していることから、「当座資産」とも呼んでいます。
さらに下には、「商品」、「原料」、「材料」、「半製品」、「仕掛品」などの「棚卸資産」が来ます。「棚卸資産」と「当座資産」がどう違うかと言うと、「棚卸資産」は「現金化するために、販売行為が必要である」という条件が付くんでしたね。
例えば、ケーキ屋さんの「通販ケーキ」は、後払いであれば「売掛金」になりますが、「小麦粉」は待っておいてもお金にはならず、製造や加工を通じて商品に変え、販売することで現金に換えないといけないので、「棚卸資産」なわけです。
棚卸資産を総称して「在庫」とも言います。よく売れる商品の在庫は「宝の山」ですが、売行きが悪くて膨れ上がる「在庫」は正式には「過剰在庫」であり、人間に喩えれば「動脈硬化」のような病気と同じです。
そして、次に来るのが「固定資産」の欄です。こちらは、儲かって余った現金がさらに経営に役立つようにと、あるお金は「土地」に、あるお金は「建物」に、またあるお金は「株式」などに変身した後の姿です。
長期投資による将来的な還元、配当を見込んでいるため、最初はけっこうな負担がかかりますが、会社が所有権を持っている大切な資産として、設備投資は経営には大きな働きをします。
このように、貸借対照表の資産欄では、お客様から頂いた大切なお金が、最もふさわしい働きをするように、常に「自己最適化」を繰り返し、何度も変身を繰り返しているわけです。
皆さんも、生活が苦しくなって財布の中が寒くなってくると、もしかしたら家具などを売るかもしれません。
「家具=固定資産」と考えれば、家具は家具としての機能を果たすより、「現金」となって生活に貢献してくれた方がよいと判断されたため、「流動化した」ことになるでしょう。
つまり、これは「資産の流動化」を行った、ということに当たります。
企業経営でも、不況の時は日経の一面に「進む資産の流動化」、「設備投資頭打ち、流動化どこまで」などといった見出しが躍りますが、基本は「家具の処分」と何ら変わりません。
先行きや手元資金に不安があれば、換金できるものは経営に支障を来たさない範囲で現金化しておきたくなるのは、人の世の常です。
反対に、景気が上向きでどんどん現金が入ってくる時は、土地や金融商品などに投資して「お金に働いてもらおう」という心理が出てきます。バブルの時期には魚屋さんがビルを建てたりしたそうですから、それも「資産の固定化」です。
では、「負債(義務財産)」はどうでしょうか。
負債は「他人資本」という借金が主体ですから、当然、景気の変動によって資産とは逆の働きをします。
景気が上向きの時は、売上に頼るより、他人のお金を借りてでも工場や商品を作ってバンバン売った方が良い時もありますから、「短期借入金」や「手形」も割合発行します。
どんどんお金が入ってくるからには、「すぐに返せる」とお互いが思ってしまうからです。
しかし、景気が悪くなって資金繰りが大変になってくると、負債は一転して固定化を目指します。資産とは逆の動きですよね。
例えば、銀行から「1年で返す予定で1億円」借りていたのを、「利息を2%増やすので3年にしてほしい」などといって「長期化」をお願いすることなどがあります。
1年以内に1億円を返す負担が、もしかしてその企業を倒産に追い込んでしまうかもしれないと判断すれば、銀行は金利を上げて、その「固定化」を承諾するかもしれません。
先頃、ソフトバンクが「リファイナンス完了」というニュースがありましたが、これは「借り換え」ということで、要するに金利負担が重い債務を先に返済して、もう少し返済期間が緩やかな種類の負債に乗り換えた、ということです。
冒頭に「1年で130単位」という話を出しましたが、これを「流動的な学習負債」と考えれば、「4年にしてくれ」と思うのが「固定化」を望むということです。
返済、消滅させるべき作業量に対して、明らかに時間が短いと思われる場合は、負債は長期化し、利息負担は重くなるのが常識です。
時々、中古車の代金を1年で払えずに「3年」とか「5年」のローンで買ったという兄ちゃんを見かけますが、会計の分かる人から見れば、このような人は何をやっているのか理解に苦しむばかりです。
ということで、「業界研究」とか「企業研究」とか言って、資本金や売上高、業界内順位など、誰が見ても分かるような数字を見ただけで何かを研究したつもりになっている学生さんもいますが、本当に大事なのは「お金の変身過程」を見ることです。
どのお金がどう変身し、どういう働きをしたかを知ることで、その会社の戦略や性格が見えてくるのです。就活ではレベルの高い会計は不要ですが、せめて簿記の基本くらいは知っておかないと、入社してからは恥をかくでしょう。
「誰が見ても同じもの」は、情報ではなく「お知らせ」に過ぎません。情報収集をしたいなら、何よりも「知識」を身につけましょう。
誰が見ても同じものを、人とは違う解釈を行うことでチャンスと選択肢に変えるのが、本物の知識です。
だから、本当に勉強していれば、就活は楽しくなければおかしく、「楽しくない就活」は間違いです。だって、「成長が伴っていない」というサインか、「自分の課題だけを解消したがっている」という証拠だから。
会計の知識は皆さんに、今まで描けなかったような巨大なチャンスと可能性を提示してくれることでしょう。他のどの対策にもまして、今こそやっておきたい勉強です。