■「内定への一言」バックナンバー編
「新商品は金持ちから流行させろ」(藤田田)
そろそろ、就活や経営に関連する内容に戻していかないと…と思いながら、今日はほとんど『胡蝶の夢』(司馬遼太郎/新潮文庫)を読んでいました。本作品を読み返すのは、かれこれ、何年ぶりでしょうか…。
『胡蝶の夢』は、悪魔のような記憶力を持つ島倉伊之助を主人公に、日本における語学の歴史を綴った小説で、江戸や佐渡、長崎を舞台に蘭学に思いをかけた男たちの挑戦の物語です。
「ズーフ・ハルマ」を作ったヘンドリック・ズーフのエピソードや、勝海舟の師・永井尚志の奮闘なども扱われ、海軍創設や経済システムの側面史を知る上でも貴重な作品です。大月さん、ぜひ読んでみて下さいね。
さて、今、FUNでは「ビジネス塾」と題して、前半では財務諸表の読み方、後半では業界・企業分析を学んでいます。前半はもう終わり、今週の第⑥回は「設備投資、減価償却、在庫調整を学ぼう」がテーマです。
前半の学生さんの反応を総合すると、「キャンペーンは敗者の戦略」という指摘が特に印象に残ったようで、棚卸資産や流動負債の観点から「値引きの恐ろしさ」を知って以降、町を見る目も変わったようです。
別に、値引きをやっている会社やお店が全部悪いということではないのですが、しなくてよければ、しない方がいいことです。ということで、今回は「値引き」を流行の視点から考えてみましょう。
FUNではおよそ10人ほどが所有している、絶版の伝説的ロングセラー『ユダヤの商法』(藤田田/KKベストセラーズ)は、300刷で刊行が打ち切られた本で、およそ事業をやるほどの人であれば、必ず読んでいる本です。
その中に、藤田さんの出身地である「商都・大阪」がユダヤ商人にこき下ろされる場面が出てきますよね。
「薄利多売はバカの商法」と見出しのついた章には、こういうエピソードが書いてあります。
「たくさん売って利益が少ないとは、どういうことなんだ。フジタの言う大阪商人ってのは、バカじゃないか。うん、きっとバカなんだぜ」。
ユダヤ商人の言葉を前に、毒舌の豪腕経営者・藤田さんも反論できず、「安売りの悪」を認めてしまいます。
また、他の章には「新商品は金持ちから流行させろ」と書いており、新しい表品を扱う場合は、絶対に社会の下流を狙ってはならず、貧乏人は相手にするな、と手厳しく忠告しています。
お金のない若者や、毎日に飽き飽きして刺激が欲しいだけの層に支持されても、すぐにそんな流行は消えてしまうもの。
金持ちから始まった流行は「文化」になり、貧乏人の流行は「ブーム」で終わる、ということです。
これは、若者層のヒット歌手の変遷を見れば、わけなく理解できるでしょう。
ちょっと昔なら「300万枚」とかを売り上げるアーティストには、本当に優れた歌手もいましたが、大半は「一発屋」で終わった人ばかりです。今では「ミリオンセラー」という歌手がこの層。
「ヒット曲を買う」という連中は、流行っていれば何でもよい人々です。つまり、個性や楽曲を見て買っているのではないのです。ただ、「他の人が買っているから自分も」という便乗行為に過ぎません。
それよりも、最初からターゲットを絞り、ジャズならジャズ、ブルースならブルースを好む人たちだけに分かる曲作りをし、言葉を大切にした歌手の方が、長年にわたってコンスタントなヒットを記録しています。
ですから、女子高生のように移ろいやすい層を相手にしたビジネスほど危ないものはなく、息の長い事業をやりたいなら客層をしっかりと見極めよ、というのが藤田さんの30年以上も前のアドバイスです。
『ユダヤの商法』よりさらに見つかりにくい藤田さんの遺作『起業戦争の極意』(KKベストセラーズ)には、『ユダヤの商法』を読んだ医者が流行について語る場面も出てきて、それだけこの部分は読者の共感を呼んだのでしょう。
藤田さんは、銀座三越にマクドナルド第一号店を開業する際、外国人や富裕層を狙った逸話を紹介しています。
まだまだ日本人の所得もそれほど高くない70年代、アメリカ人のやっていることは即、流行となりました。それで、日本で一番外国人が多い銀座を狙い、マックを出店したのです。
すると、アメリカ人たちは「マクドナルドが日本にもできたのか」とゾロゾロと入っていきます。それを見た物好きなお金持ちが入店し、見栄を張りたいOLが入店し、最後に男たちが入っていく…という図式です。
また、開業当初から50年先を見据え、「家族で入れる店にする」との戦略で、アルコールやゲームは一切置かない店作りを心がけているのも、先見性を感じるところです。
藤田さんは、「人は5歳までに覚えた味を一生求める」との統計から、とにかくCMには子供を登場させ、「家族みんなでハンバーガーを食べる」というのがトレンドだと、徹底的に消費者に訴えていきました。
親が別のものを食べたくても、子供が「マクドナルドがいい」と言えば、親は従うほかありません。おもちゃをもらった子供は何度もマックに通うことになり、中学生、高校生と成長しても、永遠にハンバーガーを食べ続けます。
そして、彼らの世代が親になった頃には、さらに子供たちをマックに連れて行き、お客の拡大再生産が何世代にもわたって繰り返される…という戦略です。
藤田さんは戦争で友達を何人も失い、「日本人がアメリカ人に勝つためには、まず食を改善せねばならない。そのためには毎日40グラムの牛肉を食べることが必要だ」と考えました。
そして、「そのために、私は日本人の口にハンバーガーを放り込み続ける」との信念で、全国民の肉体改造を実現しようと誓うのです。「銀座のユダヤ人」と呼ばれた藤田さんは、誰よりも未来の日本を愛する日本人でもありました。
その藤田さんが、「元祖・学生ベンチャー」の先駆けであることは、あまり知られていません。
北野中学までずっと首席で通し、あまりの頭の良さに先生が「こいつは一回、お灸を据えないとダメだ」と落第させたものの、「落第によって、私は人の二倍の友達を持つことができたのだ」と書いています。
のち、松江高校でもあまりの成績の良さに、「我ながら、弘法大師の再来かと思ったほどの冴え方だった」と遠慮なく書いているほど勉強ができた藤田さんは、外交官を夢見るも、最初の挫折を迎えます。
それは、「関西弁」でした。標準語が話せない人間は外交官にはなれない、と先生に言われたのです。子供の頃に父親を亡くした藤田さんは、なんとか稼いで親を安心させたいと願っていたのに、それは意外な原因でムリだと言われたのです。
東大法学部に入った藤田さんは、学生時代から米軍相手の取引を開始し、学費や生活費の全額を自分で稼ぎながら、ビジネスを覚えていきます。
そして、卒業と同時に「藤田商店」を開業。宝石や装飾品の取扱を開始し、人間心理を洞察する練習を重ねていきます。
藤田さんが日本に初めて導入したブランドで有名なのは、「クリスチャン・ディオール」ですよね。タイラックのネクタイも、藤田さんが日本中に広めています。
藤田さんは店舗を持って売る仕事ではなく、店舗に卸す個人商社からスタートしたわけですが、販売コンサルティングの練習も兼ねて、百貨店などの期間セールで自ら売り場に立ち、なんと3,000種類もの「売り言葉」を試して、統計を取っています。
「安いですよ」、「お似合いですよ」、「カッコいいですよ」、「買い時ですよ」など、思いつく限りの言葉を並べ、毎回注意深くお客さんの反応を確かめた結果、他の言葉と違って圧倒的に反響を得た一言は…。
「上品ですよ」でした。その理由は藤田さんの本で。
藤田さんの本には、こういう実地観察に基づいた商売のノウハウや経験談がふんだんに紹介され、すごく役立つので、僕は福岡中のブックオフで1年間かけて50冊ほど買い占め、全部FUNの学生さんにあげました。
さて、このFUNを作る時も、藤田さんの戦略にあやかったことがあります。
FUNは発足当初、毎月の部費は1,000円でした。それは、活動の規模が小さく、講義もなかったからです。しかし、たった1,000円の拠出すら、渋る学生がいました。
そして、そういう学生に限って言うことが、「会計を明らかにしてほしい」、「運営会議に入れてほしい」などという屁理屈でした。
ということで、経費の明細を見せ、創設者の安田君がどれだけ見えない負担を抱えているかを知った時、彼らは辞めていきました。恥を知ったためか、それとも「将来は自分もこうなる」と思ったからかは、分かりません。
また、運営に関わらせてほしいと言ってきた学生に毎月、毎週の作業を話すと、「バイトがあるので忙しい」とか言って、また辞めていきました。
そんなこんなで、発足から半年たった2003年9月に、部員はたった2人になってしまいました。
ここから、今に続く系統的な就活対策のアイデアが生まれ、取材活動や雑誌作りが対外的に「主要な活動」として告知されることになったわけです。
僕は10月から、「週1回」の参加になりました。そして、運営にもアドバイスをするようにしました。僕は安田君のように慈悲深い人間でもなく、道理に合わないと思えば年下でも遠慮しません。
ということで、最初の1年は「やる気のない奴は入れるな」という路線を決定しました。それと同時に、「部費を3,000円にする」という決定をしました。
これは、1,000円でも「高い」という学生がいて、支払遅延を理由に辞めた経験があったのにどうして、と思われたようですが、僕は一人が無言で経費を負担するようなサークルは続かない、と思ったのです。
そして、自分の知識や視野を広げるために「1,000円の投資」も惜しむような下流学生を対象にしても、まともな活動はできないだろう、と思っていました。
事実、そういう学生に限って「90分=3,000円」の大学の授業はサボり、連日親を泣かせます。こういう学生はフリーター以下で、当時のFUNが相手にする必要はない層でした。
せめて、①活動経費=1,000円、②雑誌印刷代=1,000円、③講義謝礼=1,000円くらいはないと充実した活動はできない、と思ったので一気に部費を3倍に値上げしたところ…。
最初に見学に来た牛尾さんと大月さんは、「こんなことが学べて3,000円なんて、安すぎます」とすぐに入部しました。彼女たちの姿を見た同級生たちも、何も言わずに部費を払い、すぐに入部しました。
9月までいた意識の低い学生と「行動なき文句」は一掃され、秋からのFUNは見違えるようなサークルになり、その2ヵ月後は、安田君が夢にまで見た「第①回合宿」を開催できるほどの人数、活気が備わりました。
1,000円でも不満タラタラの学生が、20人ほどで頭打ちになったサークルが、3,000円でも30人、40人、50人と学生が訪れるサークルになったのです。
雑誌は創刊1年にしてカラー印刷ができるようになり、「あそこは結果が出るらしいよ」という口コミで続々と2、3年生が訪れ、生徒会長や運動部の部長を経験した人も集まり、今では活動を欠席しても、みんな3,000円払うサークルになりました。
いわば、実社会で言う「金持ち」の要素を備えた①人望がある、②まじめ、③常識をわきまえている、という学生が集まり、良い循環が起きるようになったわけです。
これがもし、「貧乏学生」や「口だけ達者な学生」を相手にした方針転換を行っていたら、どうなっていたでしょうか。おそらく、FUNはもう存在しなかったでしょう。
皆さんの大学にも、下流学生が作ったサークルや、サボり学生が多いサークルもあると思います。そこは「○○研究会」などと名前は付いているものの、実態は「飲み会と試験情報交換」くらいしかやっていないもの。
そんなのは、僕が学生だった頃から同じで、藤田さんの言葉を借りれば「貧乏人は酒を食え」ということです。あるいは、「モテない奴ほど恋愛の話が好き」とも言えるでしょう。
まともな学生、将来を真剣に考えている学生は、そんな場所に出会いや充実した時間など、求めません。全力で堕落を競い合うサークルに所属して出会いがあったとしても、一過性の興奮に過ぎないでしょう。
だから、FUNの1年目は徹底的に厳しく運営したのです。酒もなく、遊びもなく、とにかく定めた活動をやり抜き、結果を出すことにのみ集中しました。
FUNは、学生の貴重な時間を預かる「ファンドマネージャー」のようなサークルですから、預かった時間には確実に配当を出さねばなりません。極端に言えば、安田君がよく言っていたように「人生を預かるサークル」です。
ロケットが大気圏を突き破るまでに、燃料の大半を使い切ってブースターを燃焼させ、あとは「慣性飛行」に切り替えるように、FUNもまた、1年目は「大気圏突破」がテーマでした。
後輩たちがマネしたくなる先輩の姿、後輩たちが受け継ぎたくなる伝統、後輩たちが超えたくなる実績、後輩たちが自慢したくなる活動…それを残すことが、安田君の役割だったわけです。
幸い、このビジョンは一つ下の世代に大月さん、牛尾さんという有望な後輩を得たことで確実に引き継がれ、隈本さんや本田さん、袈裟丸さんたちの世代には、全学年、5大学にまで活動が広がりました。
これは、マクドナルドの展開とすごく似ていますよね。今では「入部させて下さい」と見学した学生さんの方が頭を下げて頼み、それを部員が「ぜひ一緒に頑張りましょう」と笑顔で迎える循環が定着しています。
ということで、サークル運営ではあまり参考にならなかったかもしれませんが、新しく事業を始めたいと思ったら、絶対に値下げしないことです。あるいは、おまけや余計なサービスを付けないことです。
最初は集客やフォローがうまくいかなくても、付けた値段には全ての原価や、今後の投資まで含まれているのです。値下げしたら、余計苦しくなるのは目に見えています。
だからこそ、歯を食いしばってでも定価で耐え、少ないお客を徹底的に満足させるべきです。不当な利益も良くありませんが、値下げなどサービスではありません。
FUNにはよく、他のサークルから運営に関する相談が寄せられます。勢いよく始めてもすぐにマンネリ化し、定着が悪くなり、活動が形骸化してしまう…という悩みを抱える学生さんも多いようです。
しかし、新しくサークルを作るような学生さんは、たとえFUNの学生でなくても僕は応援したくなります。とにかく、挑戦する若者には何でも提供したいというのが社会人としての本心です。
ということで、色々話を聞いてみると…。
「やっぱりビラがいいですかね~。ネットでの告知も考えてるんですが。でも、やっぱり最初はプレゼント付きのイベントっすかね」といった言葉が返ってきます。
あらあら…集まらないことに腰が引けて、頭の中が既に「値下げウイルス」に感染しかけているようです。
そんな時、「集める」とか考えている時点で既にアウトだよ、と僕は言うことにしています。インターネットを使おうが、複雑なプログラムが組めようが、熱意がなくては価値もゼロです。
今目の前にいる仲間に、一体どれだけの誠意と努力を尽くしているのか。「人が増えたら○○できるのに」と考えるなら今すぐやれ、リーダーが臆病な表情を見せたらダメだ…
などとアドバイスし、最後に「人は集めるんじゃない。集まるものだ。本気で熱中している人を見ると、人は集まらずにはいられなくなる。もし集まらずに集め方を考えているなら、自分の努力が足りないと思った方がいい」と言います。
積極的な学生が集まるサークルも魅力的ですが、ダラダラしていた学生が生まれ変わるサークルもまた、素晴らしいものです。今のFUNにはその両方があります。「集める」なんて考えなかったからでしょう。
秋以降は「プチビジネス」をお考えの学生の皆さん、キャンペーンは絶対に禁物ですよ。値下げなど幼稚園児でも思いつくアイデアで、そんなのはアイデアではありません。
皆さんのやることは、「付加価値を高めること」で、負担を下げることではありません。
起業の際は、その辺を見誤らず、断固たる決意で自信を持って臨みましょうね。