■「内定への一言」バックナンバー編



「英雄の顔は、見ているだけで物語があるの」(塩野七生)


年に一度、毎年新しい内容で発刊される「ローマ人の物語」を書き続けるローマ在住の作家と言えば、塩野七生(しおの・ななみ)さんです。

女流作家ながら、大国の興亡の歴史を描く筆致は豪快で、彼女の「再び男たちへ」を読んで勇気を得た男性も多くいます。塩野さんは、叔父が大学時代の同級生のため、昔から「マキャベリ語録」(新潮文庫)「チェザーレ・ボルジア」(同)などの作品を読んできましたが、女性作家では曽野綾子さん上坂冬子さんと並んで、僕が好きな作家です。

とにかく、知りたいことに妥協しない知的探究心が立派だし、年を重ねた美しさ、というか気品があります。世の多くの女性が加齢を忌避する中、上品に年を重ねていく女性がいるのが、ちょっと嬉しくなります。


さて、その塩野さんは、ローマに住んでいます。歴史家ギボンの大作「ローマ帝国衰亡史」に魅せられ、英雄たちの世界を探求しようと、もう何十年もイタリア住まいをしている彼女は、数年に一度、帰国しているようです。


もう何年前になるでしょうか。塩野さんが「ニュース23」に出演して、キャスターと対談を行っているのを、偶然テレビで見ました。それで、話題が「男性の魅力」に移った時のこと。

塩野さんは、「最近の日本人男性は、男の顔をしていないから、帰国しても面白くない」といった意味の発言をしました。


面と向かって面目を傷つけられたキャスターは、「男の顔?」とぎこちなさそうな答え。塩野さんは、時間があればよく博物館や史跡を訪れ、飽きもせず、ずーっと古代ローマの英雄の像に見入っては、物思いに耽るのが楽しい、というローマ生活の一端を紹介しました。


そして一言。


「男の顔には、人生や責任、ロマンが表われてなくちゃ。ローマの英雄の顔には、それがある。私にとって、顔は情報なの。英雄の顔は、見ているだけで物語があるの」


まるで、「キャスター(C氏)、あなたにはそういうことは要求しませんけどね」と言わんばかりの、皮肉を利かせた言い方でした。


顔=情報。


この考え方(言葉)で、ピンと来る人物が2人いますよね。一人はリンカーン。彼は部下からある人物を推薦され、その能力や経歴も申し分ないのに、採用を拒否しました。「なぜ採用しないのか」といぶかしがる部下に、リンカーンは答えました。

「私は、あの男の顔が気に入らないのだ。男は40歳を過ぎたら、自分の顔に責任を持たなければならない。あの男の顔は、そういう顔ではない」。

そして数十年後、日本で同じような言葉を残した人物がいます。岡倉天心と並び、史上2人しかいない「東京大学を19歳で卒業した男」の1人である陸軍軍医、森鴎外です。

彼は「男の顔は、40歳までは生まれついてのものだが、40歳を過ぎたらその人の責任だ」と言っています。洋の東西を問わず、文化や政治をリードした人物2人が、そろって40歳を過ぎたら、顔に責任を持て」と言っているのは、面白い一致です。


先人は「20歳で」とは言っていませんが、就活に臨む学生の顔にも、やはり責任や情熱の表われた顔があります。そうでない顔も、もちろんあります。


・日頃頑張っていないのに、困ったときだけ頼みごとをする時の、学生の顔。

・勝手に悩んで、話しかけられただけで面倒くさそうな反応をする、学生の顔。

・取材で得た喜びを誰かに話したくて、興奮が抑えきれない、学生の顔。

・暗かった日々に別れを告げ、夢を信じる気力を取り戻した、学生の顔。


陽明学の大家としても有名な故・安岡正篤さん「易学」「観相学」の達人でもあり、僕も昔、「観相」の本を持っていたことがあります。詳しい知識は全然ありませんが。安岡正篤さんと言えば、「平成」の元号を考案した(「昭和の教祖・安岡正篤」塩田潮/文芸春秋)戦前の大学者で、晩年には若い、駆け出しの女性占い師との、60歳の年齢差の恋が世間の話題になりました。安岡さんが易学や観想学を教えた女性は、細木数子さんです。最近は随分有名になっているようですね。


僕も昔、心理がどう顔に表われるか、そういうことに興味があった時期がありました。企業取材で会う「トップ」が、その人の人生を体現したような凛々しい顔をしていたので、「人相というのは、大事だなぁ」と思ったこともきっかけでした。

心なしか、今では顔を数回見ると、話さなくても性格がある程度読める気がしています。最近、週に3回ほど、学生さんの模擬面接を見ていて、「皆いい顔をしているなぁ」と感じます。


・言葉は控えめなのに、凛とした気品があって、多くの情報を得た気持ちになる学生さん。

・気持ちを説明する言葉がうまく出てこなくても、顔を見れば熱意が伝わってくる学生さん。

・発言はたどたどしくても、表情を見れば全ての言葉が「真実だ」と信じられる学生さん。


僕はグループワークや実践タイムでは、主に教室内をグルグル回って皆さんの成長ぶりにニコニコしているだけですが、「ほんと、顔って情報だ」とよく思います。そういう「いい顔」になるのは、心からそう思って言っている時です。だから、良さそうなことを言うより、心から同意できる言葉に自分を乗せて、相手に伝えましょう。あとは、皆さんの「いい顔」が、千万の言葉を補ってくれますよ。