■「内定への一言」バックナンバー編


「頭のいい奴ほど、できない理由をよく探す」(ヘンリー・フォード)




社長には、一般に3種類あります。

創業社長(自分で会社を作り、事業を育てた人)
サラリーマン社長(内部で昇進して社長になったり、外部から招聘されて社長になった人)
跡継ぎ社長(先代の後を継いで社長になった人)

です。



同じ「社長」と言っても、経緯が違えば考え方も違います。色々な方と接してきての印象は、「創業社長はカリスマ型リーダーで、サラリーマン社長は調整型リーダー、跡継ぎ社長は住職型リーダー」といった実感です。



学生さんが「やりたいこと」について悩んでいる時、「じゃ、社長になったら?」と提案すると、「自分には昇進するのは難しい」という答えが返ってくることもあります。だから、「そうじゃなくて、自分で会社を作ったらいい」と言うと、「自分で?そんな方法もあるんですね」と言います。



世の中で「社長」と言うと、のサラリーマン社長を想像する人が一番多いのでしょうが、一番儲かって華やかなのは、苦労も責任も一番大きい、の創業社長です。



もちろん、の跡継ぎ社長も、先代の遺訓を守り、家業を企業に育て、歴代の忠臣たちとうまく折り合っていかねばならないのですから、心労も大きいでしょう。皆さんは、社長になるなら、どのプロセスでなりたいですか?



さて、この春はずっと「マネー塾」をやってきて、約50冊の関連図書を要約したのですが、その中でも「これを起業前に読んでおけば、どれだけ助かっただろうか」と感じた本がありました。「藁(わら)のハンドル~ヘンリー・フォード自伝~」(祥伝社)です。



同社の「NONブック」は、多くのユニークなシリーズ作品を世に送っていますが、本書はその中でも別格の「愛蔵版」とされています。ちょっと中身をご紹介すると

サービス精神こそ企業の基礎
物より人が大事である
余暇の創造こそ、産業の使命
私の「新・国富論」

の4章構成で、約250ページにわたり、フォードの人生・経営哲学が述べられています。本書を学生さんに紹介し、タイトルと主人公を伏せたまま読ませたら、おそらく大半の人が「この本、新しい本ですよね」と言うかもしれません。


「価値がないとされている資源を活用して価値を生め」
「環境対策も企業の重要な使命だ」
「従業員にたくさんの給料を払えない会社は滅びる」
「時間を節約し、社員には十分な休息と勉強の時間を提供せよ」


など、これだけでも、今の日本で言われていることと全く同じです。しかし、本書が執筆されたのは1926年。つまり、80年も前のことです。フォードはこの年に、「1日8時間の週5日労働」を導入しています。



本書の中で、彼は何度も何度も「時間の大切さ」を説いていますが、中でも卓見なのは、「週5日で利益が上がらない事業は撤退せよ」という言葉です。



「創業」とか「起業」と聞くと、それだけで「忙しい」というイメージが付きまといます。寝る間も削って猛烈に働き、休日も返上して夜中まで会社にこもるというのが、「初期の社長」のイメージの一つでしょう。



しかしフォードは、「今取り組んでいる事業」を、常に「次の事業のための準備」と捉えていました。何十年も先を見通した男でした。だからこそ、彼は「時間」という資源を業務の中から創造し、他社をさらに引き離すための「発明」の機会を、事業の中に求めたわけです。



彼は27歳で就職した「エジソン電灯会社」(現:ゼネラルエレクトリック)で、大きな影響を受けています。この会社で彼は、アイデアと未来が結合する瞬間を、何度も見て育ちました。そして、もう一つ発見したことは、「会議が長く、参加人数が多い会社は滅ぶ」という原則でした。



そもそも、打ち合わせや会議というものは、多くは不安から起こるものです。あるいは、仕事を始めた時にうまくビジョンが共有されていなかったから、その補完や調整のために起こる、という性質もあります。



彼も、定期的に行う「人事評価」や「新商品開発」のための、明確な目的を持った短時間の会議は肯定していますが、「問題」を話し合うための会議は極力避けよ、と言っています。



なぜか。それは、「余計な不安が伝染するから」です。さらには、「その問題が存在する組織の問題を正当化するから」。責任者が集まれば集まるほど「それは仕方ないんだ。なぜなら」という弁解に、ダラダラと時間が費やされます。



人間は不思議なもので、自分がものすごく不安でも、同じ不安を持った人に出会うと、不思議と安心してしまうものです。



体型が気になる人が、同じように体型を気にしている人に会うと、「よかった」と安心します。就職活動がうまくいかずに悩んでいる人が、同じように悩んでいる人と会うと、「よかった、自分だけじゃない」と安心します。経営がうまくいっていない社長が、同じように悩んでいる社長と会うと、「よかった、ウチだけじゃない」と安心します。



同種の人間に会って安心したところで、体型も就活の現状も、経営状態も、何も全く変わってないのに、安心すると、さっきまでの緊張感や危機感を忘れてしまうのです。まだ、焦ってリスクを認識している方が、経営者としては健全ではないでしょうか。



「たまには癒されないとね」などと言っていた社長は、とっくの昔に倒産して、路頭に迷っています。



本当のゆとりとは、現実の直視から生まれるものではないでしょうか。こういう人たちは、平素は人前で「人とは違うことがやりたい!」などと勇ましいことを言っているのに、いざ孤立したら不安になります。



そして「同じ種類の人間」を求めてさまよい、そういう人に会えたら「一緒で安心した」と、自己矛盾したことを言います。うまくいかなくて当然です。孤独に耐えなくて、何の独創も行えるはずがありません。


福岡にもたくさんの「○○会」があって、僕も様々な「異業種交流会」に行ったことがあります。そこでは、おっさんたちがダラダラと不景気を嘆き、コンサルタント先生の話に大金を注ぎ込んで、自社の課題を分析しては、「やっぱりウチはダメだねぇ」と言っていました。



そして、若い僕に会うと、「君はいいね、まだ若くて。仮に倒産しても、独身だから再起できるし」などと、遺言めいたことを言います。若さを羨むなんて、自分の可能性を放棄した老人なんでしょうから、「こりゃ、ダメだ」とすぐに帰りました。



そういう地方の中小企業のおじさんや、大企業の支店長の会議に行くと、「日本は高齢化社会だな」と感じずにはいられませんでした。



だからこそ、明治や大正の創業者、あるいは資本主義が生まれた頃のアメリカの実業家の伝記を読むと、「なんという若さなのか」と感嘆せずにはいられません。彼らの出会いや会議は、ただ一つの目的のために行われました。



それは、「できる理由を探して、実行の糸口を見つけること」です。「他人の知恵や経験」とは、そのように活用してこそ、人生や経営に生きてくるものです。そして、役立つ知恵を得られてこそ、その人に感謝できます。



フォードも、独創的なアイデアの数々を、現場との相談や異業種の創業社長から得ています。会議室から生まれたアイデアが失敗すると、役員たちは「責任者探し」を頑張り始め、ますます本業から遠ざかっていく、と嘆いています。



これは、今の日本企業や、あらゆる「組織」の病弊を鋭く指摘した言葉ではないでしょうか。



本書のタイトルは「藁(わら)のハンドル」です。買った時、「不思議なタイトルだな」と感じましたが、読んでみて分かりました。フォードは、90年も前に環境対策や資源節約を考えて、ゴムではなく「わら」の成分を用いて、ハンドルを作っていたのです。この新しい成分は「フォーダイト」と名付けられ、初期のフォード社の製品に使われたそうです。



誰もが「ゴミ」と考えて見向きもしなかった資源に、驚くようなヒントが詰め込まれていたんですね。



フォードにしろビル・ゲイツにしろラリー・ペイジにしろ、経営や他の多くの分野で成功を収めた人は、それこそ何万という人々から「成功の秘訣は?」と聞かれています。その手の質問が来た時、彼らの答えは、時代や国籍、分野、経験が違っていても、全く同じです。



それは「できない理由を探すな」です。「探さなければ、何でもできるよ。なんで君たちは、こんな簡単なことが分からないの?」と、成功者ほど考えます。



今、あなたが見つめているのは、「できる理由」と「できない理由」のどちらでしょうか?いくら勉強しても、「できない理由」ばかりを自分の頭から検索するのなら、それは「頭の使い方」を間違っています。



その人の頭は、プロレスラーの「頭突き」以上に凶暴な凶器となって、人生に襲い掛かるでしょう。就活でも、「うまくいっていない人」とは話さないようにしましょう。何時間もかけて「選考の愚痴」や「会社の文句」を共有しても、人格が卑しくなる以上の効果はありません。


できる理由を探して、やる。

それこそが、賢明な人間の「頭の使い方」です。