■「内定への一言」バックナンバー編
「不況の時に始めた事業は、絶対に成功する」(小林一三)
20代で小説家の夢に挫折し、30代半ばまでうだつの上がらない銀行員として人に使われていた男が、ある鉄道会社を任されるやいなや…
・「駅ビル」という形式の百貨店を着想
・「沿線住宅街」で乗客を増やすアイデアを発想
・「住宅割賦販売」という家の買い方を発明
・「宝塚歌劇団」という少女演劇を発明
・「電車の中吊り広告」を発明
・球団を作り、沿線に球場を作って集客
・「東宝」を創業し、映画を庶民の娯楽に育てた
・山手の土地の過剰在庫を生かして、都市開発を手がけた
など、今の日本では当たり前となった数多くのビジネス手法を生み出した…という伝説的な「アイデア社長」として有名なのが、最近マスコミでも話題の阪急グループ創業者・小林一三(いちぞう)さんです。
元・プロテニスプレイヤー、松岡修造さんの祖父としても有名な小林一三さんについては、毎年、FUNでも鉄道会社や不動産会社を志望する学生さんに、「本を読んでおくといいよ」と薦めています。
先月、志望するリース会社やベンチャーキャピタルの最終面接を控え、「経営者の発想を学びたい!」と言っていた西南のM君に、「小林一三・独創の経営」(三神良三・PHP)を貸しました。
そして昨日、どちらの会社にも内定をもらったM君が、「いやぁ、この本すごいですね!」と笑顔で本を返してくれました。本を貸したら、催促しなくても自分で持ってきて、返す時に感想を言う…こういう学生さんが、僕は大好きです。正直、「参ったな」と思います。相手の気持ちを考えねば、こういうさわやかな態度は取れないからです。
「貸したものを、どう返すか」を見れば、その学生さんの仕事ぶりも容易に想像できるというものです。M君の姿勢は、素晴らしいものでした。
さて、小林一三さんの話題に戻ると…
「元祖・学生ベンチャー」と呼ばれたリクルート創業者・江副浩正さんが、ダイエー創業者の故・中内功さんを尊敬していたのは、有名な話です。両者の関係は、「かもめが翔んだ日」(朝日新聞社)に詳しく描かれています。
また、その中内さんが生前、「私のやったことは、全て、小林先生が下地を作ってくれたことばかりだ」と言ったことも、よく知られています。ダイエーと言えば、昨年、勢い余って産業再生法のお世話になり、陣容も社風も一新して、再建の途上にある大手流通企業ですが、流通業界で一時は三越をも追い抜いた「価格破壊の旗手」が、なぜ、鉄道会社の社長を慕っていたのでしょうか。
小林一三さんは、冒頭に紹介したように、実に多様な業種の新事業を手がけ、成功させました。後世からその偉業を眺める私たちは、そのあまりに独創的で華やかな事業歴を見て、「元々才能があったのだ」と考えがちです。
しかし、一つ一つの事業は、苦労と失敗の連続でした。なぜなら、協力者が見つからなかったからです。その理由は、「小林さんが嫌われていたから」ではありません。事業が軌道に乗り始め、全貌を表し始めると、彼はいつも、素晴らしい協力者に恵まれています。
実は小林一三さんは、あまりに「先見の明」がありすぎて、同時代の経営者からも、当初はよく理解されなかったのでした。
「百貨店は都心にある」というのが当たり前の時代に、普及して間もない電車の駅に「駅ビルにしよう」と提案した時は、「何を考えてるんですか!」と猛反発を食らいました。
反対した人たちは、いずれも会社を思う気持ちは人一倍だったのですが、小林さんのやろうとしていることが、同じようには想像できなかったのでしょう。
しかし、「乗客を増やし、各駅に降りる理由を作る」という視点から一つ一つの着想が説明され、実施され、成功すると…日本中の鉄道会社、広告代理店、不動産会社が、阪急のマネを始めました。
彼のやったことを一言で言えば、「過剰在庫の有効活用」です。「過剰在庫」とは、マネー塾ではおなじみですが、「今は十分に活用されていない資源、設備、商品」などを指す言葉です。
「学生をバイトに」という発想は、「学生には時間が余っている」という発見と、「うちの店には手伝ってもらうべき仕事が余っている」という発見が合わさってこそ、生まれます。
「コイン駐車場」という発想は、「ここは土地が余っている」という発見と、「街には車が溢れている」という発見が合わさってこそ、生まれます。
つまり、「未来」を見なければ、今そこにある過剰在庫は、決して見えてきません。よって、「過剰在庫を有効に活用する」という発想は、「ムダを生かす」という逆転の発想でもあります。僕の好きな「個人商社」(西山満・KKベストセラーズ)などは、丸ごと一冊、「過剰在庫の扱い方」をテーマにした本です。
ダイエーを創業した中内さんは、流通機構の「ムダ」を省き、徹底して価格を引き下げて流通革命を起こした先駆者でしたが、鉄道も小売も、「モノか人を移動させる」という点では、全く同じです。
「使われていない経路」を見つけ、つなげ、新しい手法を開拓するという着想において、小林一三さんほど独創的な活躍を見せた経営者は、日本の経営史上、ほとんどいないと感じます。
その小林一三さんの口ぐせは、「不況の時に始めた事業は、絶対に成功する」だったそうです。
新しい事業を始める時は、不況に決まっています。なぜなら、誰もそれを知っている人がいないからです。パートナーや社員すら、理解できないこともあります。想像と現実はずれ続け、頭の中のイメージに従った修正が、尽きることなく繰り返されます。
そうして、新しい市場や事業が、開拓されていくのです。「見えない未来」を見て、資金、人員、時間、資源…などを継続的に投資していくのですから、それはもう、「ブラックホール」に吸い込まれるように、経営資源は流失していきます。
行動だけをはたから見れば、それは「苦しんでいる」ように見えるかもしれません。何度も何度も、「次はうまくいく」と思っても、到着した現実の中には、「なぜ、こんな単純なことに、事前に気付けなかったのか」と思うような事実が潜んでいます。
まさに、これはうちの近くのお寺に書いてあった言葉ですが、「しくじるたびに目が開いて、世の中少し、広くなる」という発想の調整が、無限に繰り返されていきます。
こうして、自ら先駆者となって、誰よりも「アイデア」という未来の想像の世界を広げた人物が、小林一三さんでした。そういう態度を貫き、若い頃に夢見た「小説家」という夢を、実社会で「事業」という作品を描くことで達成した、見事な人生です。
彼の人生はその言葉通り、手がけた事業は全て大成功を収め、信頼と尊敬を一身に集めたのでした。
確かに、苦しい時に始めたことって、長続きしますよね。反対に、「ヒマだから」と何かを始めても、続かないし、うまくいかないものです。
それは、単に「刺激」が不足しているだけで、時間やお金、人脈、情報、チャンスの「希少性(不足度)」を自覚した行動ではないからです。「時間がいっぱいある」とは、「時間の好景気」と考えればよいでしょう。「いっぱいある」と思っているうちは、人はその資源を大切にはしません。だから、すぐに資源は尽きます。
例えば、「学生は時間がある」と言っている学生が、授業である課題をもらって、「まだ時間があるから」とカラオケに行き、ボーリングに行き、そのうち期限を迎えて、「時間がない!」と必死になって焦っているのは、資源のムダ使いの良い例でしょう。
僕は、「自分にもたらされている資源」に気付かない経営者には、よく、学生のこの「ユニークな生態」を事例に説明してあげることにしています。20歳を過ぎたのに、何度も同じ考えで失敗して、それでも相変わらず「時間がある」と思っている…。実に倒錯した心理です。
「時間がある」と言っているのは、想像力不足や知性の不足を告白しているだけで、全く理解不能な言動です。
「豊か」とは、たくさんあることではなく、うまく活用していることを言うのです。
時間やお金、人脈、体力などをうまく活用したいなら、まずは「限界がある」と思ってみることです。「足りない」と思わなければ大事にできないし、うまく使えないし、結果も出ません。そして、「時間があるのに成功できないなんて、私は馬鹿じゃないのだろうか」と自己嫌悪に陥るのです。
「たくさん所有することで安心する」のは貧乏人の常で、賢者は「より良く活用すること」で安心するものです。マネー塾で学んでも、「たくさん所有したい」という潜在的な願望が消せないなら、いずれ貧乏人になることでしょう。
そう考えれば、「豊か=たくさんあること」と幸せな勘違いをして、毎日「現金投げ捨てキャンペーン」と「時間の廃棄処分」に一生懸命な学生の、なんと多いことか。
この連休は、小林一三さんのように、まずは自分に与えられた時間やお金を「足りないんだ。だから大事にしよう」と考えてみてはいかがでしょう。いわば、意図的に「不景気」を自覚するのです。
そうすれば、彼のように独創的で実利的なアイデアが生まれ、一年を変えるようなきっかけに満ちた5月になるでしょう。
自分を騙した人間だけが、「5月病」とやらに逃げるのです。年間を通じて、FUNの入部者が一番多いのも、連休明けです。「このままじゃ、自分が腐ってしまう!」という健全な危機感に正直だった学生さんは、今、理想の未来への切符を手にしています。そういう自覚の元に着手した行動こそ、絶対に成功するものです。
「電車の中吊り広告」を着想した時は、「見栄えが悪い」と反対されました。「沿線に住宅地を造成すれば、乗客が増えるぞ」と提案した時は、「当社は住宅会社ではありません」と反対されました。
「宝塚に少女の劇団の常設会場を作ろう」と提案した時は、「意味がない」と反対されました。