■「内定への一言」バックナンバー編


「多くのろうそくに火を分け与えても、

自分のろうそくの火が小さくなるわけではない」


(ポール・ユリウス・ロイター)

その②




まさに、「中東の情報の一方的な配信を受けたアジア諸国の国民」と同じことが、国内でそっくりそのまま再現されるわけなんですね。



そういう情報の流通システムが、既に世界中のあらゆる場所で構築されていて、私たちは「何かについて考える前に、既に何らかの先入観を持ってしまっている」という状態に置かれているわけです。



私たちが「情報」と称されるものを取る時、目の前に現れるのは、いつも愛想のいいアナウンサーや、知的っぽく見える新聞記者だったりします。



しかし、それらはお飾り。その大元は全て通信社で、普段「マスコミ」と称されるものは、「仕入れ」や「小売」を担当している業者に過ぎません。



というプロセスに非常に興味を持った僕は、22歳で帰国してから記者になり、経済誌で「潜在情報」を扱う仕事をしました。上流で情報に触れ、マスコミより速く社会の動きに触れてみたい、と思ったのです。



その傍らで起業準備を進めつつ、メディアやネットワーク、情報配信の手法について、様々な本を読み、歴史上の事例を調べてきました。そんな中で、活字メディアや電子メディアについて書かれた優れた本を読むと、巻末の「参考文献」によく紹介されていた本がありました。



「マクルーハン理論」(マーシャル・マクルーハン サイマル出版会 1961年)と、欧米の通信史、とりわけマスメディア形成の歴史を描いた「ニュースの商人ロイター」(倉田保雄 新潮選書 1979年)です。しかし、なかなか見つかりませんでした。


それを、年末のブックオフで、こともあろうに2冊同時に、しかも100円で、手に入れてしまいました。



そして今、両方を読み終え、ロイターというドイツ系イギリス人の時代を見通す壮大なビジョンと、40年前にインターネットの登場やテレビメディアの将来を見据えていたマクルーハンの考え方に、非常に大きな感銘を受けました。



「マクルーハン理論」は、カナダのトロント大学文学部教授、マクルーハンが提唱した文明論で、電通は当時、マクルーハンを囲んで幹部研修会を開くため、大金を投じてカナダから招待し、その理論を学んだ、といういわくつきの本です。竹村健一さんが良い評伝を書いていますが、訳書は見たことがありませんでした。



日本のマスメディアは全て、マクルーハン理論によって成長したと言ってよいくらい、現代のマスメディアに決定的な影響を与えた本で、これはぜひ、FUNのマスコミ志望の学生に読ませなければ、と思っています。



「ニュースの商人ロイター」は、プロイセンに生まれたユダヤ系ドイツ人が、翻訳家を経てパリの新聞記者になり、そこでハンガリー系フランス人、シャルル・アバスと出会って通信社を作るところから、物語が始まります。



創業当初は株式市場の相場を、伝書鳩によって伝える仕事を発明し、大儲けしています。世界最初の速報を運んだのは、鳩だったんですね。



続いて、ナポレオン戦争や英仏戦争のスクープを連発し、ナポレオンが新聞発行停止を命じるとイギリスに亡命し、欧米の戦争、政治、金融、産業分野の情報を制覇して、世界のマスメディアをロイターの支配下に収めていくスマートな手法が、これでもかというくらい細かく、鮮やかな筆致で描かれています。



電信技術が生まれる前の腕木通信や、電信を発明したヴェルナー・ジーメンスとの出会い、ネイサン・ロスチャイルドとの取引、「タイムズ」に勝利する過程も描いており、新年早々、「今年読んだ最高の本」になりそうな予感がしています。



誠実で粘り強いロイターは、何度も何度も倒産の危機に瀕し、政府や大新聞の圧力でつぶされそうになります。そのたびにロイターは仲間を作り、自分のビジョンを語り、さらに強くなって甦るわけですが、彼の発想力や行動力のすごさもさることながら、何よりすごいのは、先見性と味方の作り方です。



彼は「マスコミよりも、絶対に通信社の方が強くなる」というビジョンと、「通信社の中でも、自分の通信社が一番強くなる」というビジョンを持ち続け、マスコミに疑問を持つ人々を説得し、自分が死ぬような思いで開発したアイデア、技術を惜しげもなく他社に分け与えていきます。



ナポレオンから追放され、縁もゆかりもないロンドンでどん底を味わった最も苦しい時期、電信を知らないイギリス人に通信社の必要性を語り、そこからまた、地道に仲間を増やしていく努力を支えたのは、ロイターの「多くのろうそくに火を分け与えても、自分のろうそくの火が小さくなるわけではない」という原点でした。



「情報や技術、社員を自分たちだけで独占し、今は我が世の春を謳歌しているマスメディアの繁栄が、絶対に続くはずはない!」と、イギリス最大の新聞に戦いを挑み、鮮やかな勝利を収めます。



自分一人の「火」を信じる友に分け与え、「一次情報を握り、メディアに配信していけば、政治や経済に関して幅広い議論がなされ、戦争は未然に防がれ、多くの国民の生活が豊かになるに違いない」という彼の信念が燃え広がっていき遂に、ロイターはイギリスの全メディアに加え、ヨーロッパ大陸の400の新聞との配信契約を結び、新大陸アメリカで起こった南北戦争でスクープを連発し、世界中を興奮の渦に巻き込む起業家になりました。




これらが全て、明治維新の前に起こったということに、僕は改めて驚きました。昨夜、ついでにアヘン戦争朝鮮戦争の本を読んだ時も、欧米の通信社の威力に驚きましたが、その元祖・ロイターの着想を知ると、戦争や政治がよく見えます。



彼の信念とアイデア、技術の前に全ての新聞は敗退し、それからのマスメディアの役割は、「速報」ではなく、「論評」に移っていきました。今では、彼が契約時に確認したように、世界中のマスメディアが「ロイター通信によりますと」とか、「ロイター(共同)」という文言をまず提示し、それから情報を配信しています。



ロイター以外にも、アバス(フランス)ヴォルフ(ドイツ)などの強力な通信社がありましたが、彼らは「火を分け与えたりするものか」という態度で、ロイターに敗れました。



いつの世も、「最も多く与える人が、最も多く与えられる」というのは真実で、情報や知識は「与えても減らない」というのも真実です。誰もが分かっていてもやらないこのことを、19世紀のヨーロッパで実践した起業家が、ポール・ユリウス・ロイターでした。



FUNもロイターに習い、学生と経営者が直接つながるネットワークforFUNとインターネットを通じて構築し、「仕事と人生」のチャンスを提供し続けるサークルになっていけたら、どんなに素晴らしいことか、と感じました。



あなたの就活の一次情報は、誰が入手したものですか?二次情報は、誰が加工していますか?三次情報は、どこでどうやって手に入れていますか?相談相手次第で、人生は劇的に変わりますよ。



自ら火を分け与え、ともに燃える仲間を増やし、自らの火を大きくしていける人間でありたいものですね