■「内定への一言」バックナンバー編
「面白い考えだけでは、アイデアとは呼ばない。
どう実現するかという方法を含んでこそ、初めて良いアイデアと呼ぶ」
学生に「営業」という仕事を提案すると、大半の人が「いや。したくない」と言います。なぜそうなのかを聞いてみると、実際の仕事では「末期症状」とも言える極端なエピソードばかりが「噂」として流れ込んでいるのが分かります。
いわく、「身内にモノを売らないといけない」、「毎日ノルマを果たすまで残業」、「見知らぬ人に会って断られ続ける」、「月末はめちゃくちゃ大変らしい」…。
一体誰が、こんなとんでもない情報を流したんでしょう。僕には分かります。それは「できない社会人」です。だから、営業と聞いて嫌な顔をする学生の周りには、仕事に関しては「できない先輩」が多いということです。
だって、まだ経験したこともないのに、営業という仕事はそんなものだと思っているのです。そういう情報しか入手しなかったから、そうなったんです。そんな偏った情報を真に受けて自ら選択肢を減らすなんて、本当にかわいそうです。
では、営業を嫌がる学生は何をしたがるかというと、これが決まって「企画」とか「マーケティング」、「クリエイティブ」という答えが多いのには驚きです。なぜか聞いてみると、「カッコ良さそう」、「面白そう」だとのこと。
それは確かにそうですが、現場を知らず、自分でお客を作れない人間が作った企画など、現金をドブに捨てるも同然。企業は、営業ができない人に大事な仕事を与えることはありません。
就活の時期になると、企画職を志望する学生さんはよく、「前例にとらわれない柔軟な発想」とか言いますが、これは正しく翻訳すれば、「不勉強で業界事情すらも把握していない頭脳」と言い換えられ、「型にはまらない独創的なアイデア」という言葉は、「儲けの基本すら知らず、収益を度外視した使い物にならないアイデア」とでも言い換えればいいでしょう。
「型にはまろうとしても諦めた意志の弱さ」を「型にはまらない」などとごまかしても、三秒くらいで分かります。このような「営業に対する学生の偏見に驚いた」という京都大学の事例が、「新卒無業」(大久保幸夫 リクルートワークス研究所)という本に載っていますから、興味のある方は読まれるとよいでしょう。
さて、アイデアには二種類あり、二つが揃わないと本当のアイデアとは呼びません。
一つは、「何を売るか」です。面白い商品、今までなかったサービス、他社が扱っていない商品、業界では先駆的な商材、などがこれに当たります。これが「企画」です。
そしてもう一つは、「それをどう売るか」です。お客にどう面白さを伝えるか、どうやって購買意欲を喚起させるか、どうやって差別化を図ってメリットを訴求するか…。これが「営業」です。
だから、「使えるアイデア」とは、企画面と営業面の要素が揃ってこそ、初めて実行可能になるわけです。大半の人は、自分の頭に浮かんだ「面白い」、「新しい」、「売れそう」、「役立ちそう」くらいの物事を「アイデア」と呼びますが、実際の販売の難しさや債権回収の手間を考慮していない、現実離れした空想など、そこらへんの高校生でも考えつきます。
前例を知らない人間ほど、実現の裏付けのない案をよく思いつくもので、それは「柔軟」などではなく無知なだけ。「あればいいな」はお金にならず、「ないと困る」の領域まで高まってこそ、そしてそれをお客が認めてこそ、初めて一人前の企画となるわけです。
既に業界で何万という人が試み、実際に売ろうとし、失敗し、市場から淘汰され、支店を閉鎖させ、退くに退かれぬ悔しさを残したまま撤退した…といった話が、企画の世界にはゴロゴロ転がっています。
だからこそやりがいもあるわけですが、「予算・期限・人数・競合他社」という制約の中で実効性のあるアイデアを思いつくのは、並大抵の頭脳や経験ではできません。
学生さんが「企画」と口にする時、果たしてこの「制約」は思考に含まれているのか、よく疑問に思います。
…と、このような疑問を持ったのが、ちょうど二年半前に初めてFUNの顧問を引き受けた時でした。こんな話を思い出したのは、昨日の夜、ミスドで西南法学部二年のTさんと話したからです。Tさんは謙虚かつ積極的に、「営業に興味がある」と言っていたので、僕はすごく嬉しくなりました。
「営業ができる」とは、「何をどう伝えれば、赤の他人がお客になるか」を知っているということです。営業ができれば、就職や転職で困ることはありません。それどころか、企業の方から「ウチに入社してくれないか」と言ってきます。
なぜなら、営業とは「担当分野のコンサルタント」だからです。企業には必ず事業目標があり、それを目指している「今」という状態は、必ず何かの分野で「不足している」という状態です。
あのトヨタですら、トヨタが描いている事業目標に対しては、不足しているのです。だから、提携企業や他社の知恵、商品、経験を活用し、目標達成に向かって挑戦するわけです。そこに関わるのが、営業の人々です。
営業は企業の花形の仕事で、一番カッコよく、感謝され、人脈や知識の集積が起こり、後々まで生きる貴重なスキルを財産としてプレゼントしてくれる、最高の仕事だったのです。
トップ営業マンは、思いやりがあって、仕事ができて、話が面白くて、お金持ちで、話題が豊富で、遊び上手で、多芸多才で、カッコ良くて、モテて、誰からも好かれます。これは、目指すしかありませんね。
「叩くポイント」を突き止める能力がいかに重宝されるか、それを分かりやすく説明した話が「億万長者入門」(ロバート・アレン フォレスト出版)に載っていますので、ちょっと御紹介しましょう。
ある工場長が、工場の機械が壊れたため修理のプロ(営業)を呼びました。しばらく機械を触ったり見たりした後、プロが数回、ハンマーで機械を叩くと…機械は正常に動き始めました。彼が「五○○ドル」の請求書を残して去ろうとすると、工場長は「あれだけの作業で五○○ドル?明細書を見せろ」と納得いかない様子。が、後日送付された書類には…
叩く作業=一ドル
叩く場所の選定=四九九ドル
と二行の答えが…。
という話です。似たような話は、様々なビジネス書で見受けられるので、この話も別に珍しいものではありませんが、短くて分かりやすいですよね。「相手が分からないことが分かる」というのは、こんなにも貴重なスキルなのです。「機械修理」という企画は、それを実行する相手の存在と、その相手の要望があってこそ仕事になります。
営業がうまくいってこそ、企画の人も喜べます。場所が分かってから叩くのなら、誰でもできる作業のように見えますが、どこを叩けばよいかはなかなか分かりません。この、チャンスを見抜く力こそ、営業の力。営業が開拓したルートに、あとは企画が開発した商材を流し込んでいけばいいわけです。
だから、「企画」という仕事の九割は「営業」です。
大抵の人は企画と営業は別物だと思っていますが、それは表裏一体。営業の現場を無視した企画は最初から成り立たず、企画の苦労や思いを忘れた営業も成り立ちません。
学生の皆さんが「カッコいい企画担当」になりたいと思うなら、迷わず営業を志しましょう。他の学生は先入観で嫌がっていますから、これは絶好のチャンスですよ。
「人が嫌がっているものを歓迎する」のが、アピールの基本。これを生かして、あなたの魅力を効果的に企業に売り込みましょう。あなたの目指している業界、会社は、どこをどう叩けば「来てくれ」と言ってくれるでしょうか?
熱い叩き方、真剣な顔をした叩き方、激しい叩き方、礼儀正しい叩き方を練習するのも結構ですが、叩く場所がすれていたら、全く意味がありません。「何を伝えるか」よりも「どう伝えるか」を考えましょう。