■「内定への一言」バックナンバー編


「これからは、スーパーが価格を決める時代なんや





ダイエーを小さな薬局から日本最大の流通グループに育て上げた中内功さんが、昨日亡くなりました。晩年の不振はメディアにも大きく取り上げられたので今さら説明は不要でしょうが、中内さんの功績は偉大です。



何が偉大かといえば、お店というものを「売り場」ではなく「買い場」と捉え、徹底して消費者本位のビジネスモデルを貫いた事業姿勢でしょう。




ダイエー登場までは、メーカーが価格決定権を握り、売りたい値段で売る、という時代でした。消費者の実態に見合った売り方や値段を考えたりしたら、それこそ「あんたのところには商品卸さんぞ」と言われ、小売店や卸業者は泣き寝入りを決め込むしかなかったそうです。



ダイエーが小さい頃、どれだけ大企業の圧力に苦しめられたかは、中内さんをモデルとした小説『価格破壊』(城山三郎・角川文庫)に詳しく書かれていますから、もし興味を持った人は、今日すぐ買いに行きましょう。自分の志望業界を見るうえでも、日本の流通史を見るうえでも、画期的な気付きがたくさん隠されています。




福岡との縁は、やはりホークスですよね。この一つのチームが定着するだけで、どれだけ博多の町が活気付いたことでしょうか。ホークスは「主婦の店・ダイエー」の傘下企業だったため、女性ファンを取り込む戦略が他球団に比べて長けており、今、外野席がどういう状態かは、ご覧の通りです。野球をお店のようにしたのも、中内さんの手腕ですね。




少し前、ダイエーや西武が経営難に陥った時、「創業者は個人財産で損失を補填すべきだ」という声が俗耳を賑わせたことがありました。経営責任とは重いものですから、それも一理あります。



しかし同時に、この裏には「全ては金持ちが悪い」という、日本特有のネガティブ団結理論も感じられ、なんだかひがみも感じられます。中内さんや堤さんが巨大組織を作ったからこそ、文句を言っているだけのサラリーマンたちは生活の糧を得られたのであって、会社の再建に積極的な姿勢を見せる前に、まず自分の熱意の不足を反省すべきでしょう。




防衛庁の統合幕僚長の家賃が月に五十万円かかるとかで、ニュースでは「我々の税金」とうるさく言ってましたが、たかが年間六○○万の家賃を個人の税金に換算したところで、一人当たり一円にもなりません。それより、緊急時の指揮系統が乱れることの方がよっぽど大きな国家的損失です。



そういう問題を未然に防ぐために税金は使うべきであって、論理的に考えれば幼稚園児にも分かることを、お涙頂戴式の浪花節に変え、薬害エイズや自然災害、政治家の汚職などネガティブな事件でのみ「我々国民」という言葉を使うマスコミは、本当にアホだといつも思います。




日本の流通も、昔は付き合いや「なぁなぁ」の関係で、消費者は無視されていました。メーカーは「売りたい価格で売れ」と一方的に命令していたところが、ダイエーは「それは違うんちゃうか。買いたい価格で変えるように努力をするのが、メーカーやないか」と反旗を翻し、勇敢に日本の商慣習改革に挑戦してきました。



消費者と最前線で接しているのは「売り場」なのであって、消費者の視点から見れば「買い場」です。付加価値も消費者が決めて納得するもので、売り手の自己満足など価値がありません。



「スーパーが販売力を持てば、我々がメーカーに注文を出せる」という信念で良い品を安く揃え、全国の家計に貢献した偉大な創業者の功績を、日本経済という、もっと大きな視点から見てもよいのではないでしょうか。ダイエー以降、メーカーは「下請け」になる機会も出てきたのですから。



中内さんが亡くなられた今、昭和という時代を知るためにも、また、日本の産業構造を知るためにも、「価格破壊」はぜひ読んでほしいと思います。