■「内定への一言」バックナンバー編
「最初に解くべき問題は、常に、何が問題なのかという問題である」
(シャルンホルスト)
今日のFUNゼミの「マネー塾⑥」で、一風変わった「家庭教師事業」のことを話したら、「やってみたい!」、「ワクワクしてきた!」という反響が予想以上に多く、ビックリしました。特に九大のT君、西南のKさんは、既に「ライバルかもね」と言い合う様相。
「金持ちケンカせず」の決まりを守って、仲良く成功しましょう。本気でやりたい方がいたら、ぜひ今週、さらに詳しく計画を練ってみましょう。考えれば考えるほど、成功へのプロセスが見えてきて、寝不足になりますよ。
さて、「財務・会計スペシャル」、「面接塾」、「作文塾」を抜いて、FUN史上最も人気のある講義になった「マネー塾」では、毎回「課題設定の視点」と「問題解決の視点」について、様々な考え方をご紹介しています。
残すところ、あと3回のマネー塾では、以前もお話した通り、財務、会計、経営、経済などの各分野の名著57冊を要約し、僕の体験や知識などを加味して、毎回4枚のレジュメを作成しています。あの4枚に仕上がるまで、毎週、実に「レポート用紙10枚」の雑多なメモが修正・変更・転換を経て、「下書き」として作られます。それを学生さんの理解度、興味、将来性などを勘案した上で、レジュメに落とし込むわけです。
そんな毎回の講義は、僕も改めて発見することが多く、楽しい時間ですが、時々「どんな本が一番役に立ちますか?」という質問を受けます。その質問を受けた際、僕が真っ先に答えとして思い出すのは、「軍事」の本です。
つまり、戦争、戦略、戦闘関係の本ということです。なぜかといえば、戦争には人間の最も本質的な姿が多く表れるから。極限の状態でどういう選択をするか、その事例を知れば、極限ではなくとも同質の「経済戦争」とも言える現代社会の生活で、人間がどう振舞うか、僕のような若造でも、けっこう見えてくるものです。
今年読んだものでも…
「戦争論」(クラウゼウィッツ・徳間書店)
「韓非子」(岡本隆三・ダイヤモンド社)
「朝鮮戦争」(児島襄・文春文庫)
「参謀型人材の研究」(プレジデント社・編)
「孫子の読み方」(山本七平・日経ビジネス人文庫)
「アッティラ王のリーダーシップ」(山本七平・日本経済新聞社)
などは、並みの経営書や金融関係の実務書よりも、より本質的な人間性と戦略、戦術が描かれており、「ここまで深いことが、実際に相手に会う前に分かってしまえば、勝負あった、となって当然だ…」と思える圧巻の内容でした。
そんな戦争・軍事関係の本で、学生さんとブックオフに行った際、あれば必ず薦める本といえば、「ドイツ参謀本部」(渡部昇一・中公新書)です。本書は、ナポレオンとの戦争に負け、屈辱的なティルジット条約を結ばされたプロイセンが、「臥薪嘗胆」を期して団結し、教育制度や軍事組織など、国家の根幹に関わる重大事項を全て変革し、ヨーロッパ最強の陸軍国となるまでの過程を、主にドイツ陸軍の参謀組織の視点から描いた力作です。
この「ドイツ陸軍参謀本部」が、初めて「戦争を科学する」という体系的な戦略計画を立案し、補給、訓練、戦闘、撤退などの一連のプロセスを、まるで「将棋」のように幾通りも想定していくわけです。
地理を何より重視し、相手の兵力や平均年齢、兵士の出身地、司令官の素養、採用している戦略などを徹底的に分析したかと思えば、工兵隊を組織して「軍隊内・建設会社」を作ったり、歩兵の役割を大胆に見直したり…それはもう、「変幻自在」というほかありません。
そして、この、20世紀になって世界各国が争って導入し、後には企業組織も採用した「近代的参謀(戦略立案)組織」の創始者が、シャルンホルストです。
祖国ドイツを愛し、ドイツ人の可能性を信じ、世界最強の陸軍創設を夢見て、その訓練に人生を捧げた彼の哲学は、「最初に解くべき問題は、常に、何が問題なのかという問題である」という言葉に集約されています。彼については、前出の「戦争論」や「参謀型人材の研究」、「座右の銘」(大橋武夫・マネジメント社)にも詳しく書かれていますが、一言で言って、ドイツ人の民族性を凝縮した「合理性」重視の軍人です。
その執念は徹底して、「損害を最小に抑え、戦費と戦争期間を最少・最短に抑える戦争方法」の確立に向けられています。彼の遺志を継いだグナイゼナウ、モルトケ、クラウゼウィッツが、願い通りの最強の陸軍を育て上げ、フランスは完膚なきまでに叩きのめされてしまうわけですが、その時のエピソードもふるっています。
ある日、自室で寝ていた参謀総長モルトケの元に、「大変です、フランス軍が進攻してきました」と報告しに来た部下に対し、モルトケは「どこから来たのだ?」とのんびりと聞き返します。部下がフランス軍の進撃経路と軍勢を伝えると、モルトケは「そうか、じゃあ、○号の計画でやってくれ」とだけ言って、また眠ってしまったそうです。
実は、その計画は、2~3年前に独仏の国境の地理と気候を徹底的に踏査した参謀本部が、「フランス軍が最も攻め入りたくなる場所」としてマークし、既に十分な迎撃の準備をしていたものでした。そして、フランス軍は、自室で休んでいる老軍師が数年前に作った「予備計画」によって、見事に操られ、崩壊してしまったのです。
ドイツの陸軍が強かったのはもちろんですが、その「お国の軍隊」が本領を発揮する間もなく勝ってしまったのは、参謀本部の作戦があまりに精緻で、相手の本心を洞察していたからでしょう。どの国から、どの方角から攻められても、「戦う前から、勝ち方が分かっている」という状態こそ、シャルンホルストとその弟子たちが祖国の防衛策として行った準備の集大成でした。
「問題」と聞けば、「今すぐ自覚しうる欠点」と錯覚してしまいがちです。しかし、「それは本当の問題ではない」というのがシャルンホルストの考えです。ドイツ軍にとって、問題とは、「現状でストレスや停滞の原因となっている項目」ではなく、「達成すべき目標から見て、障害となりうる要素」でした。
そして、「問題の特定を間違うと、解かなくて良い問題に忙殺され、滅ぼされてしまう」という大局的・長期的戦略眼のもと、ドイツ軍を鍛え上げていったわけです。つまり、「何が問題か」が分かれば、問題の大半は「解決してしまったも同然」というのが、彼らの「問題」に対する見解でした。
これは優れた洞察というべきではないでしょうか。例えば、面接で「自信を持って志望動機が語れない」という悩みを持った人がいるとします。彼に「問題は?」と聞けば、おそらく「自信を持って語れないことだ」と答えるでしょう。
そして当然、その答えに従って「迷いを消す」というインチキなプラス思考や、「業界事情を研究する」という場当たり的な努力が、「解決策」として登場するでしょう。
これは、「問題の特定」を間違い、今感じる不足や不安を「問題」だと勘違いして、対策、結果の全てが誤ってしまう、という結果を招きます。しかし、シャルンホルスト流に考えると、「就活のこの時期で、しかもこれだけ情報を取れる位置にありながら、自信がないという基礎的な分野の悩みを抱えているのは、プラス思考や業界研究で解決できる問題ではない」となります。
つまり、「自分は根本的に、働きたくないと思っているのではないか?」、「未だに面接では建前ばかりを話し、本音で語っていないのではないか?」といった辺りの前提から見直すと、本当に効果のある解決策にたどりつく、ということです。そこにメスを入れなければ、いくら成功哲学の本を読み、業界・企業知識を仕入れたとしても、相変わらず同じ悩みを持つでしょう。
問題の特定を間違うのは、恐ろしいことです。もし、業界研究や志望動機に迷っている方がおられたら、「今思いつく悩み」はひとまず擱き、「そもそも、自分が根本的な自信と希望を持つには、どうすべきか?」と自問してみるとよいでしょう。もしかしたら、「瑣末で表面的な問題ばかりを気にしてしまうこと」が、問題かもしれませんよ。
焦ると視野が狭まり、視点が下がるものです。時には雄大な気分になれる小説や、今の関心事とは違った論点の本なども読んでみれば、思いがけないところから、解決の糸口が見つかるでしょう。