■「内定への一言」バックナンバー編


「違う。彼は私の新たな強さを引き出してくれる、素晴らしいボクサーだ」

(イベンダー・ホリフィールド)




今日は第16回「就活コース」。西南会館の9号会議室が、早くも手狭になってしまいました。これは、来年のサークル活動は、マリンメッセか国際会議場かもしれませんね。



という夢を持ちながら、西新ドンキ前から始まったFUNの歴史には、幾多の苦難がありました。それを一つ一つ乗り越えながら、今の規模と活動を実現できているわけですが、今日の話題はそんなFUNを支えてきた「達人の勝負観」です。



皆さんは、ボクシングを知っていますか?やったことはありますか?僕は高校で柔道部、大学で少林寺拳法部(1年の秋まで)、記者時代は空手道場に通ったので、けっこう武道は好きですが、どれも激しい動きというよりは、静的な「間」が一瞬の勝負を決めるような格闘技です。



ボクシングジムに通っていた友達に連れられて、長浜のジムにスパーリングをしに行ったのは、もう10年も前になるでしょうか。昔の栄光ですが、僕は小5の時に持久走の校内記録を塗り替え、6年生の時は弟と一緒に兄弟そろって校内のマラソン大会で優勝し、春日市の陸上競技大会の5キロ部門で優勝(1810秒)した経験があります。子供の頃、悪いことばかりしていたので、逃げ足だけはめちゃくちゃ速くなっていました。



中学校の頃は5キロが1637秒で、これはどれくらい速いかと言うと、オリンピック選手のペースより1分強遅いくらいのスピードです。(オリンピック選手は42キロを平均15分前後の速さですから、超人的ですね)だから、体力だけは、誰にも負けない自信がありました。「オレが疲れることなど、絶対にない!」と調子に乗っていました。



しかし。ボクシングは本当にきつかった。マラソンは走るだけでした。走るだけだから、楽だったのです。しかし、ボクシングはマラソンみたいなフットワークをずっと続けながら、パンチを繰り出し、時には打たれ、時にはよけ、時には激しく打ち込み、打撃でも食らおうものなら、呼吸が止まりそうになります。しかも、それが10ラウンド。



「こりゃ、人間のやるスポーツじゃないと、さすがに強気の僕も、1年で1回口にすればいいほうの「疲れた」という言葉を、無意識に、しかし心の底から言いました。読者の皆さんの中で興味がある方がおられたら、ぜひやってみて下さい。3~5ラウンドからは、腕が上がらなくなります。



そして、イベンダー・ホリフィールドと言えば、世界一競争が激しく、世界中の猛者がひしめく「ヘビー級」で、なんと、43の時にチャンピオンになったボクサーです。



スポーツは、35歳が「定年」とされる世界。30代を迎えたら、本人が意識する、しないに関わらず、周囲が「ベテラン」とか「引退間近」と騒ぎ出します。デビュー時に受けたスポットライトは若手に移り、30歳を過ぎた選手は、一般社会の「中高年」のような扱いを受けます。「体力」が基準の世界だから、それも当然ですよね。



そのスポーツの中でも、最も激しいと言われるボクシングで、30代どころか40代で20代のチャンピオンと互角に打ち合って勝ち、全世界の中年に勇気を与えた英雄が、ホリフィールドです。




写真を見ると、アメリカの南部にいそうな「気のいいおじさん」といった風貌です。とてもこの選手が、「世界一強い男」であるようには見えません。顔だけ見れば、マイク・タイソンレノックス・ルイスモハメド・アリの方がよっぽど強そうです。いずれも20代で世界の頂点を極めた彼らは、その偉業を刻み込んだような不敵な顔。見るからにすごみがあり、目だけで「こわ」と思ってしまいます。



そのホリフィールド選手は、知る人ぞ知る「練習の鬼」だったそうです。トレーナーやジムの仲間が、「砂を詰めたバスケットボール」を下腹部や顔面に何百回も投げ付けたりプールの中を全速力で走り、そのタイムを何十回も計ったり頭に鎖を付け、その先に鉄アレイを結んで、首を鍛えるため、徐々にその重さを増やしていったり「拷問」とも見えかねない厳しい訓練を、弱音を吐かずに黙々と続けるのが、彼の練習でした。



そんなホリフィールドが、若い頃、なかなか勝てない選手がいました。体格、パンチ力、練習量とも、別に劣っているわけでもないのに、その選手と戦う時だけは、どうしても勝てません。



いつも動きを読まれているかのようにパンチを食らっては、屈辱的なダウンを喫し、優劣は戦うたびに敵に傾いていくばかり。ホリフィールドはさらに厳しい練習に打ち込むも、それでもまだ、勝てません。ある日、鉄人のそんな「醜態」を知ったあるスポーツ誌の記者が、見るに見かねてホリフィールドに尋ねました。



「彼はあなたにとって、苦手な選手なんですね」と。



その言葉を聞くや、ホリフィールドは表情を変えず、さもそれが「当たり前」であるかのような平然とした表情で、答えました。



「違う。彼は私の新たな強さを引き出してくれる、素晴らしいボクサーだ」と。



そう答えると、また、黙々と練習に向かったそうです。



王貞治選手、ビキラ・アベベ宇津木麗華監督など、このメルマガでも何度か一流スポーツ選手の言葉を紹介してきました。ホリフィールドもまた、一流の男でした。彼は「勝てない相手がいるからこそ、自分はもっと強くなれるんだ」と相手の存在に感謝し、自分の新たな可能性を信じていたのです。



イチロー選手もまた、なぜかドジャースの石井一久投手(もうすぐヤクルト復帰?)との対戦では、いつも三振に打ち取られました。彼は記者から「彼は苦手投手ですね」と聞かれた時、「彼は僕の可能性を引き出してくれる、素晴らしいピッチャーです。だから僕も、彼の可能性を引き出す打者になりたい」と答えたそうです。



将棋界で「奇才」と呼ばれ、その異様な素行や言動が注目を浴びた升田幸三も、「弱い相手と戦って勝つより、強い相手に叩きのめされたい。そうすれば、私はもっともっと強くなる」と言っています。



どのスポーツでも、優れた選手ほど、「練習では目立たない」と言われます。それは、「名選手ほど苦手な技ばかり練習するから」だそうです。苦手があるから、謙虚になれる。不得手な技があるから、基本に素直になれる。短所があるから、人の助言や協力に心から感謝できる。人は短所によって、さらに大きく成長することができるんですね。



こう考えれば、「自分のことは自分でやる」と言っているも同然の「長所」は、果たして何の役に立つのだろうか、と思えてきます。むしろ、短所を素直に自覚することこそ、人間の最大の長所ではなかろうかとさえ、思えてきませんか?



そして、これはまた、就職活動でも、面接でも同じことです。学生の皆さんは、初めての経験(強敵)の前に、緊張もするでしょう。不安にもなるでしょう。逃げたい思いにもなるでしょう。それは、「挑戦して乗り越え、より強くなった未来の自分」が自分を挑発し、誘い、待っているサインだと思えばいいのです。



「私は口下手だ」と思っている方が、もしかして質問の一つ一つを大事にするかもしれません。「私には目立った長所がない」と思っている方が、もしかして人の長所を素直に認めるリーダーになれるかもしれません。短所は、自分の中に潜む素直さや誠実さといった、深い人間性を発揮させてくれます。就職や面接でのアピールばかり考えていると、長所と短所が逆転してしまうこともあるので、この事実は、心を落ち着けて確認しておきたい、人生の深い味ですね。



だから、これからの就活コースや面接塾では、ぜひ自ら苦手な状況を作り、苦手な質問を受け、友達の小さな成長を発見し、みんなで称え、みんなでその達成に学んで、一緒に成長していきましょう



友達を「すごい」と褒めることができ、先輩に「ありがとうございます」と感謝でき、失敗するたびに謙虚さとチャレンジ精神を確認できるのは、全て短所のおかげ。短所が私たちを強い人間にしてくれます。そう考えれば、目先の表面的な長所・短所にこだわる必要なんて、今日からなくなってしまいますね。短所って、なんて素晴らしいんでしょう。自分の可能性の原石である短所に、今日も「ありがとう」と言ってあげましょう。