■「内定への一言」バックナンバー編


「賢いとは、多くのことではなく、大事なことを知っているということだ」

(アイソキュロス)




高校の頃、世界史を選択した方はいらっしゃいますか。最初のほうに習う古代ギリシャで、三大悲劇作家のアイソキュロス、ソフォクレス、エウリピデスという名前が出てきたのを覚えているでしょうか。その中で「アガメムノンを書いたのがアイソキュロスだ」とは、試験の時に覚えたかもしれません。




しかし、この国の教育の常として、知識の優先順位は「試験に出るか」どうかで決まるので、アガメムノンがどのような悲劇なのか、アイソキュロスはなぜそのような大作を書き上げたのかなどは、一切教わりません。だって、「試験に出ないから」。全く、バカバカしい学校教育です。



そんなにすごい悲劇を書いた作家なら、人生や人間、社会にも精通していたはず。世界を制覇した西洋文明の原点は、なんといってもギリシャの文明や哲学。じゃあ、せめて、そんな文明を支えた人物が残した名言の一つでも、高校時代に学ぶことができていたのならと、思いませんか?



と聞けば、読者の皆さんは「もちろん」と答えてくれると思ったので、今日はそのアイソキュロスの言葉「賢いとは、多くのことではなく、大事なことを知っているということだ」をご紹介しました。




日本語では、「学ぶ」という言葉は「まねぶ」から来ているようで、「優れた人物の真似をする」というのが原義だそうです。



また、「分かる」とは、それまで何が何だか分からなかった物事が、ある知識をきっかけにして「既知と未知の境目が分けられる状態になったこと」を指すそうです。「分かる」、「分からない」とは、つまり、「分別が付く」、「分別が付かない」の差なんですね。私たちの国語は、実に奥が深いです。



ならば、本来新しい知識を手に入れたなら、そうするたびに、私たちは何かと何かが「分けられる」という状態にならなければなりません。そして、「たくさんの知識を保有していること」は、無条件に有利な武器とされるはずです。




しかしこの世の中では、必ずしも多くの知識を持つ人が勝つわけでもありません。たくさん勉強しているのに貧乏で、無数の本を読みながらも不安で、多くの情報に触れるほど焦る人もいます。なぜでしょうか。私たちは何を分かって、何を分かっていないのでしょうか。



学問や認識、行動において、何か大きな間違いを犯しているのかもしれません。そこで役立つのが、アイソキュロスのこの言葉です。彼は言います。「賢いとは、多くのことを知っていることでない」と。そして、「大事なことを知っているということが、賢いということだ」と言い切っています。




では、「大事なこと」とは、一体何のことなんでしょうか。それは「基本」や「本質」と呼ばれるものです。「そこを押さえておけば、その先の学びや行動がスムーズになる要素」や、「それを外しては、その先の努力は実を結ばない要素」のことです。



簿記で言えば「仕訳」であり、外国語で言えば「時制と活用」であり、スポーツであれば「筋トレ」に相当するものでしょうか。ギターで言えばコード、ボーリングで言えばセンターピン、将棋で言えば飛車と角の使い方など、それを知っているかどうかで、作業の生産性は全く違ったものになります。




では、仕事ではどうでしょうか。営業なら「お客様の悩みを知ること」、企画なら「予算と期限と効果を見極めること」が、「大事なこと」に当たるでしょう。なぜなら、これを抜きにしては、どのような知識や技術も意味をなさないからです。



さらに、就職活動ではどうでしょうか。就活なら、「仕事は楽しいと思うこと」、「自分はできると信じること」を抜きにしては、どのような準備をしても、やるほど暗くなるだけ。そう思うことなしにエントリーシートや面接の練習をしても、いつまでたっても「役に立たない周辺知識」の域を出ないでしょう。



本質を知らず、「ただ不安だからとにかく無難にクリアしたい」という焦った表面的な心構えで臨んだところで、たとえクリアしても何も変わらないわけです。




入試も就活も仕事も、若いうちに次々に訪れる「初めての体験」です。そして、それを乗り越えるということは、自分の中に変化をもたらしてくれる経験でなければなりません。入試を乗り越えたのに就活は不安だ、就活を乗り越えたのに仕事は不安だ、というのは、場当たり発想だからではないでしょうか。



本当なら「あの時○○ができたんだから、自分にはきっとできるはずだ」という自信を持って臨んで当然なのに。このように、「大事なこと」を軽視し、その場限りの努力に終始してきた人からは、人生の様々な場面で不安と恐怖が尽きることはありません。



たくさん知っていて、時々友達から情報を求められることもあるのに、なぜか自信なさげ。そういう人は、あなたの近くにもいることでしょう。「賢い人」は大事なことを知っているから動じません。「賢くない人」は、瑣末なことばかりを頭に詰め込むので、どこに行こうが、何をしようが不安を増幅させるだけ。





あなたは就活で「賢い人」になりたいですか。ならば、「仕事は楽しい」と、まず強烈に念じましょう。そして、そういう前提のもとに情報収集をしましょう。「仕事は楽しいよ」と言う人からのみ話を聞き、「就活はイヤだ」と言っている人は無視しましょう。



だいたい、自分が将来長年やっていくことなのに、最初から「楽しくない」と言うのがおかしいのです。楽しくない就活は全て間違いです。「せないかん」、「みんなも始めたし」などというモチベーションでしか動けない人は、もう終わっています。だって、「未来の自分に期待していない」から。




自信とは、未来の自分に期待でき、それを信じられるという心構えです。それができるかできないかを分けるのが、「大事なことを知っているかどうか」です。だから、「メジャーだから役立つ情報」と考えるのではなく、「自信と落ち着きをもたらしてくれるのが、役立つ情報と知識だ」と考えましょう。



それを得る前と得た後では、明らかに心持ちやビジョンに差があり、今まで考えてきたことを整理させてくれ、これからの自分を積極的に描かせてくれるそれが「大事なこと=賢明な知識」です。皆さんも日々動き回っていることでしょう。



動いた成果は、どうですか?心の変化はもたらされていますか?「大事なこと」を踏まえ、就活を楽しみ、納得のいく結果を手に入れましょう。