■「内定への一言」バックナンバー編


「ピッチャーは、僕にホームランを打たせるために投げてくれるんだ」

(王貞治)




ソフトバンクホークスを率いる王監督が、現役の選手の頃、記念すべき八六八号の世界記録を樹立したのは有名な話です。



ライブドアの堀江さんが恐れおののくほどの「暴れん坊」で、二○○社以上を買収して日本のビジネスのあり方を問い続けてきた、ソフトバンク創業者の孫正義社長が、「尊敬してやまない王監督のため、この私でよろしければ、チームのお役に立たせて頂けませんか」と下座に控え、両手をつき、深く頭を下げて監督留任をお願いしたというほど、王監督の偉業と人格は日本人の誰からも慕われています。




王選手は、現役引退後、あるスポーツ紙の記者に「王さんは、なんであんなにホームランを量産できたんですか?」と聞かれ、さも、それが当たり前であるかのような表情で、「だって、ピッチャーは僕にホームランを打たせるために、一球一球真剣に投げてくれているんだ。打たずにはいられないじゃないか」と答えたそうです。



FUNでは二年前から、この話を「面接に臨む心掛け」を示す逸話として、よく紹介しているので、部員の方なら「あぁ、聞いたことある」と思うでしょう。ちなみにこの逸話は、「ハーバード流 Noと言わせない交渉術」(三笠書房)のあとがきに紹介されています。




通常のバッターなら、ピッチャーの投げるボールは、「自分を凡打に打ち取る」ためか、「空振りをさせるため」のものだと思っているでしょう。というか、そういうものであると考えて、誰も疑いません。従って、ピッチャーという存在も、自分の「敵」でしょう。



しかし、王選手はピッチャーを「味方」と考え、「ピッチャーが投げてくれないと、自分はボールを打つこともできない。ホームランはピッチャーとバッターの共同作業だ。速球だろうと変化球だろうと、必ずスタンドに運んでみせる!」と考えていたのです。こういう考え方をしていれば、打席に立つ際の気持ちや、ピッチャーと向き合う時の心理は、他の選手とは全く違ったものになるでしょう。



おそらく、敵や味方といった概念ではなく、自分のホームランを待望している全国のファンのため、絶対に打たずにはいられるものか、という強烈な信念が、バットコントロールや振りぬく腕力に転化し、ボールをスタンドに運んだのでしょう。



この「当たり前のレベル」の違い。本当に立派だと思わずにはいられません。超一流の選手というのは、考え方の根本が超一流なんですね。




さて、皆さんは、面接官を「敵」だと思っていませんか?質問を「速球」や「変化球」と思っていませんか?面接は自分を「落とすため」のものだと、勝手に決め付けていませんか?構えすぎて、本当はただの直球なのに、わざわざ打ちにくい姿勢でバッターボックスに立っていませんか?相手の腕の出方や表情を気にし過ぎて、普通のボールをひねくれた見方で捉え、変化球のように勘違いして、わざわざ空振りしていませんか?




王監督だけでなく、イチロー選手も松井選手も、ピッチャーがボールを投げてくれなければ、ただの野球選手です。素振りで記録を作れる人もいなければ、ヒットを打てる人もいません。ボールを投げてくれる人が、自分を鍛えてくれ、ヒーローにしてくれるのです。



同様に、面接官が質問をしてくれなければ、企業が選考の機会を与えてくれなければ、あなたもただの学生に過ぎません。相手がボールを投げてくれるからこそ、反応を示すことができる。そして、その反応の仕方が、あなたが自社で活躍した時、どういう社員になるかを想像するための材料になるわけです。



面接を控えている方は、面接官に感謝しましょう。そういう思いで面接会場に入れば、きっと、緊張や不安はなくなるはずですよ。観客は友達です。