■「内定への一言」バックナンバー編
「スピーチの要諦は、自分の思いを伝えることではなく、
相手に自分自身を思い出させることだ」
もう一年以上前に、FUNのミニ講義「人を動かすスピーチ」の中で、冒頭に紹介した言葉です。FUNに入ってくる学生さんの入部動機で多いものは…。
積極的な仲間がいる環境で自分も頑張りたい
人前で堂々と自分の意見を話せるようになりたい
取材や雑誌作りで、今できる最大限の準備を楽しみたい
といったものですが、ことスピーチに関しては、毎回毎回しつこいほど「近況報告」というものがあって、誰でも三十秒は自分のニュースや考えを発表し、あいさつをして活動が始まります。コツコツやっている近況報告は、いつしか習慣となり、面接や会社説明会でも、堂々と自分の意見を主張できるようになります。
しかし、「人前で話す」というのは「話した経験がない」、あるいは「話したことはあるが、うまくできた覚えがあまりない」という段階での目標で、一度それを達成してしまうと、人前で話すことは快感になり、ついつい相手の意向や感情を無視して、どうでもいいことばかりを話して、「とにかく、思っていることは話せた」と、自己満足に陥ってしまうことは注意せねばなりません。
スピーチで「自分の思いを伝えること」は、必要条件ではありますが、それだけできても何の目的も果たせません。ただ、「言えてよかった」と思うくらいのものでしょう。緊張しなかった、間違えなかった、内容を忘れなかった、などという要素は、単に「うまく話したい」という自己本位の動機に基いた浅い目標を達成した感想に過ぎず、人の前で話し、ある目的に添って所感や展望を述べるからには、スピーチ本来の目的を果たさねばなりません。
では、その「目的」とは何なんでしょうか。それは、「相手に自分自身を思い出させること」です。自分が話す全ての材料や話題は、相手に最も良かったときの自分、最もそうありたい自分、もっとも知的好奇心や成長への意欲に溢れた自分、を思い起こしてもらうための素材に過ぎないのです。
日頃、誰でも友達や知人と話すでしょう。自分の思いを伝えるのがうまい人や、しゃべりに長けている人が、それだけでは嫌われて、次は誰からも「会いたい」という連絡が来ないのはなぜでしょうか。それは、「相手が誰でもいい」から。相手の関心や感情を無視した話ほど、聞いていて時間のムダで、次の予定が気になるものもありません。つまり、「聞く必要なし」ということです。
昔、どこぞの大学の学生が、「自分はこんなことを考えている」ということをわざわざ言いに、図々しい予定の入れ方で会いに来たことがありましたが、ギャーギャーと大時代的なことをまくし立てるだけで、こりゃ、あまりに話が下手で、とうとう誰も止めてくれなくなったから、こんな話し方のまま、ずっと直らないんだろうな、と思ったことがあります。
FUNにも毎週、何らかの用件を持って会いに来る業者・団体があるそうで、僕はそんなのには興味がないのでいちいち知らないんですが、ちょっと聞く限りでは、FUNの大事にしていることも聞かず、ベラベラと勝手なことをしゃべるだけの人が多いとか。わざわざ嫌われるために、日々あちこちを訪れている人も、世の中には多いものです。
相手の意向や感情を尊重しましょう。話す以上に、人を元気にするには、聞くことが効果的です。よく聞くのは難しいことです。何かの本に書いてありましたが、人間には口は一つなのに、耳は二つついているのは、「半分しゃべって、二倍聞け」の意味だとか。確かに真実ですね。
聞き上手だから、相手の関心に沿った良い話ができるというのは、考えてみれば当然のことですが、よく聞くという姿勢は、鍛えなければ身に付きません。「分からない」、「納得できない」、「口をはさみたい」という状態を耐えてみて初めて、たどり着く相手との関係もあるものです。話すより、聞くことによって相手の心を開ける人間になりたいものですね。