■「内定への一言」バックナンバー編

「月を取りに行け。たとえ取り損ねても、

そこからさらに大きな星を目指すことができる」

(フランクリン・ルーズベルト)


その②





「リース」と聞いたあなたは、「トヨタレンタリ~スのリースですか?レンタカーが商店街と何の関係があるんですか?」と不思議でなりません。先輩はそんなあなたに、「リースは車だけじゃない。例えば、セブンイレブンのコピー機はどこの会社が作っているか知っているか?」と質問します。以前にコンビニで働いたこともあるあなたは、「そりゃ、ゼロックスでしょ」と即答。


先輩は「そうだ。じゃあ、あの機械はいくらするか知ってるか?」とすかさず聞いてきます。あなたは「さぁ○○万くらいですかね」と自信なく答えましたが、先輩は「最新式は一台一五万円だ。で、あのコピー機は、コンビニのおやじさんが現金で買ったのか?」と尋ねてきます。懐かしいおやじさんの笑顔を思い出したあなたは、「いやそんなまとまったお金を出せる余裕は、普通のコンビニにはないと思いますね」と答えました。


先輩は「そうだ。じゃあ、手形か?」と確認しましたが、耐久消費財の購入に手形を使うのもあまり聞かないため、あなたは「違います」と答えました。すると先輩は、「じゃあ、なんでセブンにゼロックスの最新式コピー機があるんだ?」と聞いてきました。しばらく考えても理由が分からないあなたに、先輩はヒントとして、「おまえがレジに立っている間、トナーとかカウンターをチェックする人が来なかったか?」と尋ねます。



思い出しました。あの明るい兄ちゃんの「ゼロックスで~す!」という声を。先輩は「あれがリースだ。一台一五万円もするコピー機を、リースなら月額二~三万で導入することができる。それで収益を上げながら事業もできる上に、残った一四万円弱のお金は、採用や広告、仕入れに回すこともできる。それに、リース物件には固定資産税もかからないし、期間が過ぎれば最新式のものに替えてもいいし、中古品を買い取ってもいい。小さいお店のレジや厨房機器、設備はリースが多いから、今度調べてみたらいいぞ。


学生のおまえには見えない所で、リースは着実に浸透しているから」と笑顔で教えてくれました。あなたは自分の体験を振り返りながら、リースの持つ可能性に惹かれ、「すごいぜ、リース!」とまたもや興奮し、また友達に語りに行きました



と、例え話がまるで、どこかの企業取材サークルのようになってしまいましたが、そんなこんなで、あなたは「マスコミ広告代理店商社リース会社」と、一ヶ月という短い期間で四つも志望業界が変わりました。これからも変わるでしょう。


変わるのは、悪いことでしょうか?あるいは、これは悪い変わり方でしょうか?変わる際、「良い対象より悪い対象を選ぶ」ということがあるでしょうか?変わるのは、いいことです。誰しも、選択肢には十分な吟味と検討を加え、それが良いと判断すれば、それを選びます。良いと判断するためにも、一定量の情報が必要です。



今日の例え話の学生さんであれば、「マスコミ」と言っていた頃に持っていた社会の知識は「十」だとしましょう。その「十の知識」があれば、とりあえず「マスコミを目指しています」と他人に言えるだけの自信は付きます。どの仕事も「本質=貢献の手法と対象」が分かった瞬間に「面白い!」と思えるので、この学生さんは、マスコミを目指すには十分な裏付けを得たわけです。


面白いと思えたということは、「自分は何をするかが分かった」ということなので、あとは実社会の知識を収集すれば、さらに動機は補強できます。そして、マスコミをもっと深く極めようと思って情報交換をしていたら、広告代理店の存在を知りました。


問題はここです。


大抵の学生さんは、一度決めた「マスコミ」で蓄積した「十」の情報が、仮に「広告代理店に志望業界を変更する」という決断を下すと、「ゼロ」になってしまうと思っていないでしょうか?そのゼロが怖くて、取り返せない損で、「十」のために使った時間が惜しくて、それで「絞るか広げるか」などといった不安にさいなまれるのではないでしょうか?


しかし、よく考えてみて下さい。この学生さんが広告代理店の魅力に気付けたのは、「テレビ」を知ったからです。つまり、「マスコミ」で得た「十の知識」があったからこそ気付けたチャンスが「広告」だったわけで、この人は「二十」の知識で広告の本質に触れることができたわけです。


これのどこが、「損」ですか


広告の後に知った商社では、マスコミの時に持っていたような「ミーハー」な動機は全く持たず、「三十の知識」で流通の本質を深く捉えています。動機が成長したのです。テレビや広告の視点がなければ、ここまで素早く正確に商社の魅力を察知することは不可能だったかもしれません。


そして、その後に知った「リース」では、「消費者の視点」という狭い土俵で一人相撲をしがちの学生では気付きにくい、「法人営業」の場面をリアルに想像し、地域活性化や小規模店舗支援といった、今日からでも現場で通じるような動機を持って、リース業務を捉えています。「四十の知識」があればこそ、可能になる理解です。



大事なのは、こうして様々な業界の知識を集め、理解を深め、さらにその視点を持って今まで見てきた業界を概観し、そのサイクルを繰り返すこと。そのたびに情報は整理され、見識は深まり、不安は除去され、自信が深まっていくでしょう。はっきり言って、こういう情報収集と新陳代謝を繰り返していけば、いつどこで就職しても、楽しく働けます。



あなたは「マスコミ」とまず決めることで、「銀行」や「商社」に行くかもしれません。
しかしそれは、必要な比較検討を全て終え、心から満足した心境で選択を繰り返すことになるので、遅れは全く感じずに済みます。それどころか、最初から何も知らずにイメージで「商社」と決めていた人に比べ、多くの業界を見てきたあなたの方が、逆に余裕すら感じています



つまり、これが「月を取りに行ったら、もっと大きな星を手に入れることができた」という状態です。どこから始まっても、どこに行き着いても大丈夫。最初の志望業界が「月」で、既にそこまで到達したなら、次は「地球」から始まるのではなく、「月」から出発できるわけです。自分の将来を考えて収集した情報なら、たとえその会社に行かなくても、調べ損なんて一つもありません。


後で「損した」と思うのが怖くて、そこで決まってしまうのが不安で、いつまでも腰の引けた臆病な業界研究しかしていないから、「絞るか広げるか」などと言っているのではありませんか?何日も考えて、まだ「働いてみたい」と思えないなら、よっぽど質の低い表面的な情報収集をしているだけです。



「火星に行くか、木星に行くか」と悩んでいるふりをしながら、肝心のあなたは、まだ「地球」にいませんか?問題は「火星か木星か」ではなく、「まだ地球にいること」です。地球でブラブラしているだけで「就活をしている」と思い込むのが、毎年の失敗者が通るスタートです。だって、実際は「何もやってない」んですから。


絞っても、広がる時は広がります。絞って広がるのは、良い広がり方です。広がったら、また必要なだけ絞られます。その時の絞り方は、最初の絞り方とは必ず違います。月を通過したあなたは、その先の火星に行っても、月のことはよく知っているでしょう。さらに土星まで行けば、月、水星、金星、火星、木星の行き方にも詳しくなるでしょう



だから、「絞るか広げるか」と聞かれたら、僕は迷わず「絞ろう」と言います。今持っている情報で決断できない学生は、何を知っても決断しません。すぐに引き伸ばし、まだやらなくていい理由を探し始めるからですそうなったら終わり。あとは何を見聞きしても、どの説明会に行っても、「今日の会社、なんかイマイチやったね」と言い始めます。もう、良いところを良く見ることもできず、最後は勤務条件とか勤務地で選ぶようになります。それが、「いつまでも地球にいる人」


学生は情報収集がどうだこうだと言う前に、まず決断力を鍛えるべきだと常々感じています。ということで、賢明な読者の皆様は、「業界を変えてもゼロにはならず、むしろ蓄積した知識や理解が相乗効果をもたらし、より正確かつ魅力的な情報を得る素地ができる」ということが分かったことでしょう。



あなたは今、どこにいますか?どこを目指していますか?まず、今の居場所を去りましょう。いつでも戻ってくることはできますよ。「もっと大きく成長した自分」とともに。