■「内定への一言」バックナンバー編


  「短所ほど役立つ長所はない」



「自分には、これといって長所なんてない」と、誰かに言われる前に強烈に決め付けている人がいます。まぁ、そうかもしれません。しかし、短所はどうですか?自信を持って「私の短所はこれです!」と言えることは何ですか?


 

「長所」とは、「人の力を借りず、自分でできること」を指します。つまり、「一人でできる」。もっと言えば、「一人の力しか出せない」ということで、実につまらん能力です。「自分がやった方がうまくいく」、「人の助けを借りるまでもない」と自信に溢れるのは結構なことですが、これは同時に、疑り深さや過信を招き、最初から限界を作る考え方。


英語が得意な人は、自分の知識や文法の間違いを認めたがらず、話すのが得意な人は聞くのを嫌がり、パソコンが得意な人は、できない人をバカにします。こんな長所や特技は、自分の問題を片付けるのには役立っているかもしれませんが、仕事や作業になれば「オレが、オレが」というだけで、人を邪魔するのに貢献するだけです。



では反対に、「短所」はどうでしょうか。短所とは「自分一人では、課題の達成に支障を来たす資質」と考えるとよいでしょうが、つまり、「人の力が必要」、もっと言えば「優れた力を活用できる」ということで、「短所まみれの人=不足人間」ほど、外部の優れた資質・能力を味方にすることができます。


そう。短所は自分を謙虚かつ素直にさせ、周囲の人の優れた特性や能力に目を向けさせ、恥ずかしがらずに教えを受けることができるという点で、最大の長所なのです。短所まみれで不足に溢れる学生の方は、おめでとうございます!


 「日本は資源がないのに経済成長に成功したすごい国」と言われますが、よく事実を考えてみれば、「資源がなかったから成功した」と見るのが適切です。確かに日本には、石油は全く出ません。反してアメリカは、農産物・工業資源ともに恵まれた国で、五大湖の近くに巨大な油田を抱えています。「わが国では原油も採掘可能だ」と自信に溢れていたアメリカは、自国の労働者を石油産業に配置し、世界最強の工業力・輸出力を築き上げました。しかしその結果、「アメリカ人は世界で一番お金持ち」という状態になると…。当然のことですが、石油産業に属する労働者達の賃金も、世界最高になりました。もちろん、その人件費は石油小売価格に転嫁されます。従って、「アメリカの石油は世界一高い」という結果になりました。アメリカは自国の長所「石油資源」を最大限に伸ばし、オイルマンは憧れの職業になりました。



そんな時、アラブ諸国でアメリカより良質で豊富な原油が採掘され、世界のあちこちに輸出されるようになりました。その時、何が起こったか?アメリカの石油産業の労働者は「アラブの石油を輸入するな!」と団結し、ガソリンがぶ飲みの「アメ車」を支持し、世界最低の燃費を誇る車が続々誕生。アメリカの消費者は世界一劣悪で高価な石油を買わされ、アラブや東南アジアの良質な石油資源、つまり「他国の長所」を活用することができず、自国の長所によって相当なダメージを受けました。そんなアメリカを尻目に、「資源では短所まみれ」の日本はどうしていたかというと…。ご存知の通り、「世界一良質で、世界一安く、世界一安定供給できる原油」を輸入し、世界中に高品質で低コストの工業製品を売りまくりました。



つまり、日本は自国の短所によって、他国の最大の長所を味方にすることができたのです。日本は、石油が出なかったからこそよかったのです。このことは、日本で産出された「石炭」の産地がどうなったかを見れば、よく分かることでしょう。だからこそ、「資源がないのに成功した」というのがウソだということが、お分かりでしょう。以上の経緯の要約は、堺屋太一さんの「日本人への警告」(新潮文庫)に紹介されています。



松下幸之助さんは、亡くなった時に数百億円の遺産を残した稀代の創業者ですが、生前「成功の秘訣」を尋ねられた時、「そやなぁ、体が弱かったことと、学問がなかったことや」と答え、当惑する聞き手に「体が弱いから、人に任せるしかなかったんや。学問がなかったから、人に教えを乞わなあかんかったんや」と当たり前のように説明したそうです。自分でできることの限界を知ってこそ、人の能力や素質を尊重して、信じて任せることができる。知識や見識の限界を知っているからこそ、優れた人の頭脳を活用し、より高度な判断の材料を集めることができる…。素直でありさえすれば、短所ほど役立つ人生の武器はありません


 

 ということで、「私、長所なし」と焦っていた人!長所なんて一個あれば十分です。それは「素直さ」。それよりも今日からは、「短所」を探しましょう。短所は人の長所を呼び集める磁石のような宝物。自分の長所に溺れる人より、他人の長所を認めて生かせる人の方が、何倍も魅力的です。ということで、今日からは短所をどんどんPRしましょう。