「モノ(商品)」や「社風」で志望動機が限界を迎えた時の着眼点とは?



■今日の一言(通巻405号)

『広告代理店、不動産会社、銀行も全部商社だ』


ここのところ、毎週土曜日の午後は『極秘勉強会』という名の「財務諸表勉強会」をやっています。

先々週は「貸借対照表」、先週は「損益計算書」、そして今週は「キャッシュフロー計算書」で、基礎資料の勉強は一通り終了する予定です。

毎週のリピーター学生さんも多数おられ、特に福岡女子大の英文科は、いつから「金融学部」になったのかと思うほど、みんな飲み込みが早く、自分から本を買って学ぶような方もたくさんいらっしゃいます。



それまでは…

「志望動機が表面的で納得できないんです」
「頑張って考えた自己PRがありふれていて落ち込んだ」
「会社説明会や経済ニュースの言葉が理解できなくて焦った」

なんて言っていた多くの学生さんが、

「ニュースで経常利益とか聞くと、ニタニタしてしまいます」
「損害保険会社の商品説明が手に取るように分かりました」
「人事担当者の説明が上手か下手か、自分で判断できました」



というニュースを運んできてくれるんですから、会計的視点がいくらかお役に立ったのかと、今さらながら喜んでいるところです。

Dさん、Yさん、☆さんは特に会計にはまったようで、簿記検定の勉強や金融関係の読書を頑張っており、なんと頼もしい学生さんかと感心しています。

九産大・院1年のSさん(四川省出身)は、貸借対照表の勉強会に3回も出席してくれ、一緒に「有価証券報告書」の分析まで行いましたが、言っていることはほとんど「投資家」のレベルです。

「中国は社会主義じゃなかったのか?」と一緒に笑ってしまいましたよ、ほんと。謝々。




さて、今日のテーマは「商社的ビジネスモデル」です。

学生さんに人気の商社、最初は多くの人が「英語で海外出張」なんて、本業とはほとんど関係がない「てんぷらの衣」に惹かれて志望するものですが、会計的視点で見れば魅力はさらに深い部分にあることが分かります。

商社という業種の仕事は、

①流動負債の引き受け(売掛、手形などの与信業務)
②顧客の流動資産の適正化(棚卸資産の最適化)
③内製化された在庫機能のアウトソーシング

にあるのは、業界ゼミに参加され、会計的視点を学ばれた方は等しく感じたことでしょう。



商社にとっての「資源」とは、「売れる価格に対して、それよりも低い価格で存在しており、転売できるもの全て」です。

クライアントの商品が「過剰在庫(不良資産)」か「過少在庫(機会損失)」の状態にあれば、その最適化のためのコンサルティングを行い、安定供給先として育成するVC機能も、商社の大事な役割です。

商社が「資源開発」や「電源開発」を行うのは、「将来のお客様」という長期的視点で安定供給先を確保したいから。そういうのも、貸借対照表の「資産欄」を見れば、全て一目瞭然ですよね。

その、仕入れたい原材料や部品が外国にあれば、「英語」などの外国語を使うだけのことであって、商社業務で大切なのは、一にも二にも「会計」であって、英語は常に従属的な資質に過ぎません。



「世の中には、メーカーと商社しかない」というのは、業界ゼミや会計勉強会でいつも言っていることです。

厳密には「小売業」がこの外にありますが、これも「エンドユーザー」への商社ですから、商社の仲間です。

会計的視点から見れば、貸借対照表の上に存在しないのは「接客業」だけ。これは「倉庫番」で、棚卸資産を当座資産に変える際の「チェック係」だからです。



ですから、「客室乗務員って、どこの仕事ですか?」、「番組制作って、会計的にはどの部分を担当しているんですか?」と聞かれても、それは会計的には説明できないのです。

できないことはありませんが、それは大して重要な仕事でもありません。

ですから、こういう「外見は華やかだけど、会計的には価値が低い」という業務は、「契約社員」が増えることになります。



財務的に比重が少ない業務には「固定費」をかける必要はないというのは、「損益計算書」を学んだ方ならお分かりでしょう。

「派遣会社とは、固定費を変動費に変える点で存在意義がある」と説明しましたからね。


業界ゼミでは、「見栄の仕事」は一切扱っていません。「実質重視の仕事」を学ぶことが、将来の成長のビジョンを描く知識につながるからです。



さて、毎回の会計勉強会で、「広告代理店も、不動産会社も、銀行も、全部商社ですよ」と言うと、「え?」という顔をする学生さんがおられます。

「テレビやラジオの広告が商社?」
「土地や建物の取引がどうして商社?」
「銀行は他の会社と違うじゃないか。商社じゃない」

そう言いたげな学生さんに、B/S上でこれらの業界の資金移動を説明すると、それが商社と全く同じ性質の曲線を描くことが分かり、「なるほど!」と笑顔に変わっていきます。



「広告代理店」と「広告会社」は、会計的には全く違う仕事です。

例えば、「西日本新聞」の朝刊の「1面の天気予報」の近くにある「1センチ×3センチ」の広告が、「1日10万円」だったとしましょう。

広告代理店は「その広告枠、当社に一枠8万円で、20日分売ってくれませんか?」と持ちかけます。



新聞社は、「出るか出ないか」のリスクを回避でき、また、この部門の営業経費を削減できるので、「定価の2割引」であれ、「先に20日分まとめてもらえるなら、いいか」と販売したとしましょう。

すると…「8万円×20日=160万円」が先に入金されます。定価なら「10万円×20日=200万円」だったので、差し引き「40万円」得をしたことになります。

そこに、西日本新聞に広告を出したいという「A社」が現れました。



調べてみると、最もふさわしいと思った「天気予報の下」は、「10万円」でした。

「う~ん…10万か。あとちょっとでも安くならないものかなぁ」。

そこに広告代理店が現れ、「A社さん、当社を通していただけると、天気予報の下に9万円で広告が出せますよ!」と持ちかけました。



「1万円も安くなるのか。じゃあ、それでお願いしよう」。

ということで、A社は「9万円×10日=90万円」でスペースを購入し、残りはB社が同じ値段で「90万円」の買い物をしました。

ということで、「9万円×20日=180万円」。広告代理店が新聞社から仕入れた時の値段は「160万円」でしたから、差し引き「20万円」儲けたことになります。



新聞社は…営業リスクを回避でき、先にまとめて「160万円」が入る。

クライアントは…通常価格より1割安い値段で広告出稿が可能になる。

広告代理店は…先に代金を立て替え、差額を載せて利益を確保できる。

ということで、「みんなにプラス」の取引が成立し、このモデルはその後も継続していきました。広告代理店は、外にもこのように継続性を持つ広告媒体とクライアントを求め、少しずつ業容を拡大していきました。



さて、広告代理店が先に仕入れた「広告枠」は、モノとして見れば「新聞の空き地」に過ぎませんが、会計的に見れば「売却目的で仕入れた原材料」、つまり「棚卸資産」だと言えます。

これを「広告枠」として、そこでの告知を望むクライアントに販売できれば、この在庫商品は「現金」に変わり、プラス1万円の利益をもたらします。

これって、「商社」と全く同じビジネスモデルではありませんか。だって、この「広告枠」は、「売れる価格に対して、それよりも低い価格で存在しており、転売できるもの全て」に当てはまっているからです。



それを先にまとめて立て替えるリスクを、広告代理店が先に負担してあげている点では、「商業手形割引」や「ゼネコン」とも極めて似た収益構造を持っていることが分かりますよね。

不動産会社も、広告代理店が仕入れる「時間や空間」が、土地や建物に変わっただけで、実質は「固定資産の商社」です。

不動産会社に「○○商事」という名称の会社があるのは、この会計的構造からです。つまり、「ウチは商社」だと言っているわけです。しゃべっている言語は「博多弁丸出し」ですが、不動産は代表的商社です。



では次に、「銀行」はどうでしょう。

あなたが「三井住友銀行」に、アルバイト代5万円を「預金」しに行きました。

この「預金」なるお金は、銀行の貸借対照表で見れば、どこの勘定に当てはまるでしょうか?



答えは…「負債」ですよね。つまり、「借金」です。

銀行は他の業種と違ってプライドが高く、「社員」ではなく「行員」、「当社」ではなく「当行」と呼んで違いをアピールしており、それはそれで勝手に自己満足に浸ってもらって構わないのですが、「借金」を「預金」と言い換えるあたりは、なかなかのセンスです。

ですが、他人様から預かったお金なら、それは確実に利子を付けて返済せねばならないのですから、預かっただけで、まだ資金使途が決まっていない状態のお金は、「負債」です。

つまり、銀行は「預金」という名称のもと、商売道具である原材料「現金」を仕入れているわけです。



そして、その「預金」という名の「借金」を、「住宅ローン」、「クレジットカード」、「オートローン」、「カードローン」、「ビジネスローン」などという装飾と付加価値を付けた「棚卸資産」に変え、販売するのです。

「買いたいものがあるけど、お金が足りない」という人に対し、このうちのどれかの「金融商品」が売れれば、それは後日「利息収入」という利益を生みます。

つまり、銀行は「お金を仕入れて、お金を売る」という商社です。



銀行が商社であるという反証は、他の業種のように「棚卸資産のだぶ付き」、要するに「不良在庫」が発生したら経営が苦しくなるか、という問いを立ててみればよいでしょう。

銀行は「借金」によって原材料を仕入れ、それを「金融商品」という名の棚卸資産に加工する「お金の加工業」でもありますから、当然、「借り手」たる顧客がいなければ、「借りて下さい!」と猛烈な融資合戦を行います。

これで、銀行が他業界と全く別の用語で表面を装飾していても、実態は商社であることが、よく理解できますよね。



金融会社にも、不動産会社のように「○○商事」という名称の会社がありますが、それは、明治期の人々が「モノ」よりも「コト」を見る教育を受けていたため、そういう名称にしたのです。

マルクス主義的唯物論の洗礼を受けた戦後教育受講者は、社会主義的発想で「モノ」重視の業界認識、業務理解を行うようになりましたが、それがいかに大きな過ちをもたらしているかは、就活でも明らかです。

広告代理店も不動産会社も銀行も、全て「商社」だと言える明確かつ本質的な理由が、会計的構造からお分かりになったことと思います。



その業種の収益構造が「商社的」であるということは、当然ながら、「自社で製造は行わないが、クライアントの資源最適化に貢献できねば存在意義を失う」ということです。

代理店、不動産、銀行が「商社」であるなら、代理店、不動産、商社もまた「金融業者的機能」を持っているということ。

基本的に「モノ」は「カネ」の後を追って動く資源ですから、これらの業種は比重によって「金融会社」とも「商社」とも「不動産会社」とも言えるわけです。



それを「モノ(商品)」から見れば、「土地?興味ない」とか「カネ?怪しそう」と言いますが、怪しいのはそういう共産主義的頭脳の方です。

会計が分からない人は、「社員の熱さに感動しました!」、「社長のビジョンに共感しました!」、「社風と教育制度に可能性を感じました!」くらいしか言えないものです。

僕たち経営者には、その手の意見は、「私はマルクス主義者です!」と言っているようにしか聞こえません。



感動、共感、可能性の発見、どれも素晴らしいことです。

しかしそれらが「一時的なもの」にとどまり、パフォーマンスに幻惑されただけの意見で終われば、内定後は当然迷いが強まるし、入社後も「これでよかったのか」、「やめたい」、「自分に合う会社が他にあるのではないか」と苦悶するようになるでしょう。

感動も共感も、志望動機の更新も強化も、「会計的視点」の上に立って行ってみてはいかがでしょうか。



「内定」なんて、推薦入試で受かった程度の意味しかないのですから。

要するに「未来からの仕事の仕入れ」に過ぎず、それは内定した時点では、「過剰在庫」でしかない、ということです。

社会で提供していきたいことを見据え、それから「仕事の仕入れ」を行う。賢明な就活とは、そのように長期的で本質的な思考に立脚した活動であるべきでしょう。