最近の生活環境では、「お金」を巡る空気が確実に変化している。物価高を日々の買い物で体感する場面が増えた。加えて、「新NISA」という語を広告やニュースで頻繁に目にする。結果として、「預金に置いたままでよいのか」という疑問が広がりやすい状況にある。

こうした感覚を裏づけるデータが公表された。日本銀行の資金循環統計によれば、家計金融資産は2239兆円と過去最高を更新した。マクロの資産増と同時に、家計の資産配分に変化が生じている点が注目される。

本稿では、日銀統計(2025年6月末)と、野村證券「野村個人投資家調査(2025年12月)」の示唆を重ねて整理する。家計の財布の中で何が起きているのか、その構図を読み解く。


家計金融資産2239兆円と、「現金・預金」減少という転換

2025年6月末時点の家計金融資産は2239兆円となった。内訳を見ると、長らく厚みを持ってきた「現金・預金」が減少に転じている。

  • 家計金融資産残高:2239兆円(前年同期比1%増)

  • 現金・預金:1126兆円(前年同期比0.1%減)

  • 株式等:294兆円(前年同期比4.9%増)

  • 投資信託:140兆円(前年同期比9.0%増)

現金・預金が減少に転じたのは2006年12月末以来、18年6カ月ぶりと位置づけられる。背景には、新NISAの非課税メリットの浸透がある。株価上昇による評価額の押し上げも寄与した可能性が高い。

従来の「とりあえず預金」という防衛的な配分から、制度を使って資産を増やす方向へ、家計行動が移りつつある局面といえる。

 

投資家心理は急改善、日経平均5万円を意識する地合い

投資家側の見方を確認すると、野村個人投資家市況指数(野村I-View指数)は前回から20ポイント上昇し、35.8と強気に傾いた。調査時点の日経平均株価(2025年12月1日終値)は49,303.28円である。節目の5万円が視野に入る水準だ。

回答者の67.9%が「さらなる上昇」を見込む。注目点は、上昇期待の“幅”が拡大していることにある。「2,000ポイント程度の足踏み」を想定する層が減った。一方で、「2,000ポイント以上の上昇」を想定する層が増加している。

市場には高揚感がある。加えて、過熱を警戒する緊張感も同居している状況と整理できる。


魅力度上位は金融、次いで電機精密――為替環境が関心を押し上げ

セクター別の魅力度(DI)では、金融が首位となった。電気機器・精密が続き、自動車はマイナス圏にある。

  1. 金融(DI 22.2)

  2. 電気機器・精密(DI 7.8)

  3. 自動車(DI -16.3)

DIがマイナスであることは、「魅力的でない」と回答する比率がなお優勢であることを示す。ただ、自動車DIは前回から7.2ポイント改善している。見方としては、「底打ち後の回復」を織り込み始めた投資家が増えた可能性がある。

為替観も変化を映す。米ドルの魅力度(DI)は41.7へ上昇した。一方で、円の魅力度は0.6へ低下した。円安・ドル高の認識が強まる局面では、輸出比率の高い業種への視線が戻りやすい。自動車への関心改善は、この文脈と整合的だ。

銘柄面では、以下が上位となっている。

  • トヨタ自動車(7203):80票で1位

  • 三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306):51票で2位

調査上の定義は「保有の有無にかかわらず、ポートフォリオに入れたい、あるいは魅力を感じる銘柄」である。トヨタは、個人投資家にとって“基準点”になりやすい銘柄であることを示唆している。


2026年の焦点は「資金の循環」と「ホームバイアス」

2026年に向け、新NISAの活用姿勢は強い。成長投資枠で年間上限240万円をフル活用すると回答した割合は34.8%となった。

見逃せない論点は2つある。

1)資金源は「追加資金」より「乗り換え」が中心へ

新NISAの資金を、既存の株式・投信の売却益で賄う回答が合計57.3%に達した(部分売却36.2%+全部売却21.1%)。貯蓄取り崩し一辺倒ではない。保有資産の入れ替えを通じた「循環」が進みつつある構図だ。

2)日本株偏重が示す「ホームバイアス」の強さ

成長投資枠で個別株を買う層のうち、「日本株のみ」と回答した割合は57.7%となった。国際分散が容易な環境にあるにもかかわらず、自国市場への志向が強い。情報の取りやすさ、馴染みのある企業への安心感が作用している可能性が高い。

加えて、投資家が注視するテーマも整理しておきたい。

  • 国内の政治・政策(36.1%)

  • 為替動向(34.4%)

  • 日銀の金融政策(32.7%)

なかでも「国内金利」への関心度が12.7ポイント上昇している点は重要だ。金利は株式のバリュエーション、金融株の収益、為替観にも連動しやすい。2026年の主要変数として意識されつつあるとみられる。


結論:ブームではなく、配分変化が制度と市場で可視化された段階

2239兆円という家計資産は、単に大きいだけではない。配分の変化が統計上も確認できる段階に入った点が本質である。

  • 18年半ぶりに「現金・預金」が減少へ転じた事実は、家計行動の転換を示唆する。

  • 野村調査は、新NISAを軸に投資意欲が高まり、日本株志向が強いことを映す。

ただし、強気の地合いが続くほど、リスク許容度の点検が重要になる。他者の熱量に合わせる必要はない。資産形成は速度よりも継続性が成果を左右しやすい領域である。

次回調査(2026年3月予定)では、日経平均が5万円の節目を超えた後の心理変化が観測される可能性がある。相場の水準だけでなく、家計資産の「循環」がどこまで定着するかが次の焦点となる見込みだ。

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