1. はじめに:AI活用が進むほど「DX疲れ」が顕在化する構図

「ChatGPTに聞いたものの、結局ファクトチェックに時間を取られる」。
「AI導入を掲げても、現場負荷が軽くならない」。
こうした“DX疲れ”の声は増加傾向にある。

AIは導入されている。にもかかわらず、体感として業務が楽にならない企業が少なくない。
背景には、AIを“ツール導入”として扱い、業務プロセスや意思決定の設計まで踏み込めていない実態があるとみられる。

PwCおよびRIETI(経済産業研究所)が2025年に公表した調査・研究は、この違和感を裏づける示唆を与えている。
日本企業のAI活用は、単なる効率化を越えた局面で「成果の二極化」が進む局面に入りつつある。


2. 【導入率は急伸】75%超の一方、期待超えの企業は限定的

SBSニュースが報じた財務省調査(2025年12月~2026年1月実施)では、日本企業のAI活用率は75.3%とされた。
5年前の11.2%から急伸しており、普及局面に入ったことは明らかである。

一方で、導入が即成果に結びついているとは言い難い。
PwC「生成AIに関する実態調査2025 春」では、AI活用の効果が「期待を大きく上回っている」と回答した日本企業の比率が、米国・英国の約4分の1にとどまるという。

導入企業が増えても、期待超えの果実を得る企業は一握りである可能性が高い。
このギャップは「導入」から「成果創出」への移行に壁が存在することを示唆している。


3. AI活用の目的は3類型

目的ごとに必要な“補完的資産”が異なる

RIETIの研究(2025年10月)は、AI活用の目的を大きく3つに整理している。

  • ① 業務効率化:ルーチン削減、コスト圧縮

  • ② イノベーション創出:新商品・新規事業の探索

  • ③ マーケティング高度化:顧客価値向上、新規獲得

注目点はデータの要件である。
①の効率化は内部データ中心でも一定進められる。
一方で、②③のように“新しい価値”を狙う場合、外部データ(公的統計、ウェブ情報等)の活用が不可欠になりやすい。

さらに重要なのが人材である。
効率化レベルでは、現場が汎用ツールとしてAIを使うだけでも一定の効果は見込める。
ただ、非定型領域で社内の“お宝データ”を価値に変換するには、データサイエンティスト等の専門人材が橋渡し役として必要になるとの見方が強い。
専門人材が不足すると、内部データは資産として存在しても、実装・運用に落ちないリスクが高まる。


4. 成功企業の差分は「構え」にある

CAIO配置とトップ直轄が成果を分ける

PwCのデータが示す決定的な違いは、推進体制の強度である。

  • CAIO(最高AI責任者)の配置率

    • 成功企業:60%

    • 期待未満企業:11%

  • 社長直轄(トップダウン)での推進体制

    • 成功企業:61%

    • 期待未満企業:8%

成功企業はAIを「IT部門の便利ツール」として扱っていない。
経営課題として定義し、責任主体と意思決定ラインを明確にしている。
この“上位レイヤーの本気度”が、組織変革のスピード差を生む構図と推定される。


5. 【意外な落とし穴】AI活用を鈍らせる「検証コスト」

生成AIの普及と同時に、「ウラ取り」の負担が顕在化している。
日経BPコンサルティングの調査(2025年11月)では、AI利用者の84.3%が正確性確認の作業を行っているという。

生成AIの出力を、別サイトや公式情報で再検索し、原典まで遡る。
結果として二度手間・三度手間になり、時短目的が相殺されるケースが増える。
この現象は、AI導入のROIを下げる“検証コスト(Verification cost)”の問題として整理できる。

解決の焦点は、AI出力の検証を「個人の頑張り」に押し付けないことにある。
検証手順、参照すべき一次情報、根拠リンクの残し方まで含めたワークフロー設計が必要となる見込みだ。

 

6. ソフトバンク事例が示す「大量実践→学習」の型

検証コストの壁を越えるヒントとして、ソフトバンクグループの取り組みが注目される。
同社は全社員に「1人100個のAIエージェント作成」を促した。
結果として、約2カ月半でグループ全体250万個超のエージェントが生まれたとされる。

焦点は数そのものではない。
「考えてから動く」ではなく、「動いたから考える」という学習順序にある。
実際に大量に作ることで、AIのクセ、限界、信頼できる範囲の“体感知”が形成される。
この体感知は、過剰なウラ取りを減らす方向に働く可能性がある。

現場起点の実践が組織文化を更新し、結果としてDXの本筋に近づく。
そうした見立ても成り立つ。


7. まとめ:AIを「ツール」から「相棒」へ再定義する条件

日本のAI活用は普及局面に到達した。
一方で成果は均一ではなく、二極化が進む局面にあるとみられる。

論点は次の4点に集約される。

  1. 外部データを戦略的に取り込み、新価値創出を狙う

  2. AIを経営課題として定義し、トップ主導の推進体制を敷く

  3. 検証(ウラ取り)まで含めた業務プロセスを先に設計する

  4. 大量実践により“AIの勘”を組織で共有し、運用知を蓄積する

AIを単なる自動化(Automation)に留めるか。
能力拡張(Augmentation)の相棒として定着させるか。
分岐点は導入ではなく、体制・データ・検証設計・実践量にある。