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| 戦国時代末期、わずか500人という小勢で、秀吉の寵臣・石田三成率いる2万の大軍と戦った男たちがいた──。待望の大作『のぼうの城』。 |
豊臣秀吉による天下統一が目前に迫った戦国時代末期、わずか500人という小勢で、秀吉の寵臣・石田三成率いる2万の大軍と戦った男たちがいた──。映画『のぼうの城』は、そんな史実に基づく作品である。
【詳細画像または表】
時は天正十八年(1590年)、本能寺の変(1582年)で織田信長が命を落としてから8年後のこと。いち早く明智光秀を討った秀吉は、信長の後継者と
しての地位を固めると、1585年には四国の長宗我部元親を、1587年には九州の島津義久を降し、残る大物は関八州を支配し東国一の勢力を誇る小田原の
北条氏のみとなっていた。
本作は、その北条氏の本拠地である小田原城の支城の1つ忍城(おしじょう)に、三成率いる2万の大軍が攻めてくるところから幕を開ける。
天下の豊臣軍VS 500人の武士と3000人の領民
主人公は、その風貌などから領民に「でくのぼう」を略した「のぼう様」と呼ばれている忍城城代の成田長親(野村萬斎)。武将に求められる智も仁も勇気も
ないが、領民からの人気だけはあるという不思議な男だが、城主・成田氏長(西村雅彦)が北条氏支援のため小田原城に向かうこととなり、城代として後を託さ
れることになる。
とはいえ、この戦は勝つ見込みがないと考えた氏長は早々に秀吉に内通。三成(上地雄輔)軍が攻めてきたときには戦わずして、速やかに開城する手はずを整えており、長親はその事務作業を粛々と進めればいいはずであった。
だが、ひょんなことからボタンを掛け違えてしまう。開城の条件を伝えるため、三成軍の軍使としてやってきた長束正家(平岳大)の傲慢な態度に腹を立てた
長親が、「戦いまする」とまさかの宣戦布告をしたのだ。かくして、500人の武士と3000人の領民が手に手を取り合い、忍城を舞台に籠城戦を開始する。
芸達者な役者たちが演じる個性豊かな武将が見もの
映画は忍城軍と三成軍の戦いを描きながら進行していく。見どころの1つが、長親をはじめとする武将たちの愛すべきキャラクターにある。
忍城軍からは、互いに腕を競い合う3武将。1人目は長親の幼なじみで「漆黒の魔人」という異名を持つ戦上手の正木丹波守利英(まさきたんばのかみとしひ
で)。2人目はその丹波をライバル視する力自慢の豪傑・柴崎和泉守(しばさきいずみのかみ)。3人目は自称「毘沙門天の化身」で軍略の天才の酒巻靱負(さ
かまきゆきえ)。それぞれ、佐藤浩市、山口智充、成宮寛貴が演じている。
対する三成軍の武将には、石田三成に上地雄輔、三成を補佐する大谷吉継に山田孝之、長束正家に平岳大が扮し、ほかに忍城の領民役として尾野真千子、芦田愛菜、前田吟、中尾明慶といった役者たちが出演している。
野村萬斎演じる「のぼう様」は必見!
中でも圧倒的な存在感を醸し出すのが、主人公の長親を演じた野村萬斎の味わい深い演技。「のぼう様」と呼ばれるでくのぼうでありながら、智将かも知れな
いと匂わせるのは、相当難しいはず。それを野村は、最後まで本音をのぞかせない飄々としたキャラクターとして作り上げている。
実はこの作品、原作からして魅力的な登場人物に対する評価も高い。もともとは、脚本家の登竜門と言われる城戸賞を2003年に受賞した和田竜のオリジナ
ル脚本で、これをベースに自らが書き下ろした小説は直木賞にノミネートされたほか、2009年の本屋大賞で2位に輝いているのだが、アマゾンのレビューを
はじめ、様々な形で、本作の登場人物たちが「魅力的」と評価されているのだ。
話題となった大迫力の水攻めシーンがようやく解禁
もう1つの見どころが、三成軍が忍城攻略に使う“水攻め”をはじめとするスペクタクルシーン。本作は『ジョゼと虎と魚たち』『ゼロの焦点』の犬童一心監
督と、『日本沈没』『隠し砦の三悪人 THE LAST
PRINCESS』の樋口真嗣監督がW監督を務めているのだが、特撮監督として『平成ガメラ』シリーズに関わるなど、日本の視覚効果の第一人者でもある樋
口監督が迫力の水攻めシーンを作り上げた。
最も、この水攻めシーンがあったことが、その後に起こった東日本大震災による津波被害を考慮した公開延期という措置へと繋がっていくのだが。
そんな経緯を受け、9月20日に六本木ヒルズで行われた本作のジャパンプレミアでは、主演の野村が「とにかく嬉しいですね。1年公開も延びましたが、
やっとこの素晴らしい映画をみなさんにお見せすることができるのを素直に喜びたいです。泣いて笑ってビックリして、ちょっとズッコケて、最後に活力をも
らってお帰りいただきたいと思っています」と映画をアピールしていた。
時代劇を超えた、圧倒的勢力に屈しない男たちの人間ドラマ
最後にこの映画について、もう少しだけ補足しておきたい。というのも、これは時代劇であることは確かだが、アクションエンターテインメントという別ジャンルの作品として楽しんでもらいたいということだ。
小説版でもそうだが、この作品は歴史小説や時代劇ファンよりも、普段そうしたジャンルの小説を読み慣れない若者や女性の支持を多く集めているからだ。映
画も同様に、きっちりとした時代考証に基づく時代劇というよりも、時代劇のエッセンスを借りながらもアレンジを加えた、創作料理ならぬ創作時代劇のような
作品に仕上がっている。
この映画にとって大事なのは、時代劇というフォーマットではない。のぼう様というトップのもと、小勢ながらも2万の軍勢を相手に最後まで諦めることなく戦った男たちのドラマの方なのだ。
『のぼうの城』監督:犬童一心、樋口真嗣出演:野村萬斎、榮倉奈々配給:東宝、アスミック・エース公開日:11月2日より全国東宝系にて公開『のぼうの城』:公式サイト