美紀はその場の空気すら吸いたくなかった。


美紀は、その場から姿を消した。


人間という生き物は、時に一番大切な者さえも、記憶に除外して


自分の利益になる事を優先して考えてしまう哀れな生き物である。


それは例え、自分の実の子であっても‥。


美紀の母親は、離婚して多くの苦労を背負わされたにも関わらず、


その根源である父親から、多くの金を受け取り、縁を切るどころか、


父親の意見に同乗するくらいまで仲が進展している。


それを証拠に、大事にしていた、クローバーピアスまで、


義理の弟に託してしまっている。


それは美紀という一人の人間よりも、


腹違いで生まれた憎き父親との子の方を選んだという、


紛れもない真実を打ち立てている。



美紀の頭の中で、何かが音を立てて壊れた。



人間は時に自分自身の力では解決出来ない程の


窮地に追い込まれる時がある。それを解決出来るのは、


いや


  少しでも気分を和らげてくれる存在は、自分ではない。


違う心を持ち、自分の頭で考えられる許容範囲を超えたものを


持っている生き物。




義理の弟が病に侵されているという理由で、


母は父親の肩を持つようになってしまったと言っているが、


果たして本当なのだろうか。


義理の弟を産んだ母親が正式な結婚相手になっているという事を


私の母親は知っているのだろうか。


いや、時に目先の事しか頭に入ってこない人だから、駄目だろう。


そもそも、私の血が必要とはどういう事なんだ?


その「義理の弟」という存在が病に侵されているとして、


その病を治すのに私の血が必要という事なのだろうか?


なぜ?


美紀の頭の中には、何も入ってこなかった。


自分がどこに向かっているかもわからなかった。