1巻 め 10

芸術祭当日。

メアリージュンはドレスを着てステージに立っていた。




ヴィオレットの猛特訓の成果があり、観客たちはメアリージュンの腕前を誉め称えた。
クローディアも特等席から聴いていた。

ヴィオレットは演奏が終わったメアリージュンをここぞ!とばかり、クローディアの元へ行かせる。

 


 

クローディア王子はちょうどステージの袖にいた。
メアリージュンはクローディア王子に声をかけるが、その対応は庶民そのもので、身分が上の者に対する言葉遣いではなかった💧 が、クローディアはそれを気にする様子はなく激励に対して礼を言った。

まさかの好感度アップにガッツポーズのヴィオレットだが、直後ハプニングが起こった。

このステージのトリはこの国の王子で、タンザナイト学園の生徒会長でもあるクローディアのヴァイオリン演奏だった。
彼の腕前はもちろん、楽器も衣装も最高級のもの。

彼がステージの袖でスタンバイをしているとき、羽織のマントが大道具の木箱に引っ掛かり破れてしまった。
王子の衣装となれば特注で替えはない。
大道具係りは手をついて謝るが、クローディアの側近の生徒が「下人の分際でなんてことをするんだ!」と叱りつける。

するといきなりメアリージュンがしゃしゃり出た。

「そんな酷い言い方をしなくてもいいじゃないですか!」

ヴィオレットは青ざめ、側近の生徒はなんだ?と取り乱しつつも、

「クローディア王子に対してご不敬なご発言はお慎みください」

と嗜める。

周りにいる者も、

「あの子、クローディア様に非があるとでも言うのかしら!?」

と驚きを隠せない。

メアリージュンは悪びれた様子もなく、尚も言い返そうとするがクローディアがそれを止めた。

「メアリージュンの言うとおりだ。おれも考え事をしていて不注意だった。その大道具係りの者を責めても仕方ないし、来賓を待たせるわけには行かない。時間も着替えもないのならこのまま出る」

クローディアは覚悟を決めていた。

ヴィオレットは観念した。

(・・・こうなっては仕方がない)

「お待ちください、クローディア様」

「ヴィオレット?」

「少しこちらへ。すぐに済みますので」

実はメアリージュンへの嫌がらせ対策のために裁縫道具を持参していた。
でも開演前に衣装をチェックしたら大丈夫だった。
マントが破れた直後、複数の側近の1人が「誰か裁縫道具を持参している者はいないか?」と呼び掛けたとき、秘かにメアリージュンに期待した。
貴族がお針子のようなことをするわけはないので、平民だった彼女ならどうだ?と思ったのだが、彼女は平民といっても裕福な良家出身なので無理だったみたいだ。

ヴィオレットはとりあえず応急処置をする。

「急いで処置したものですが、遠目からはわからないと思います」

器用に縫い付けたマントをお返しする。

「驚いた、おまえに針の心得があるとは。一体どこで身に付けたんだ?」

(そりゃあ〰️、あなたに断罪され投獄されてた牢の中ですわ✨)

とは言えず。

「クローディアさま、そんなことより早くステージへ! 来賓の方々がお待ちかねです❗」

と背中を押して送り出した。

幸いマントが破れたことを知るのはごく一部の人のみ。
客席からは見えないし、クローディアの演奏は無事に滞りなくなく終了した。


メアリージュンは姿を消したヴィオレットを探していると、先ほどの側近生徒の会話が聞こえてきた。

「さっきはどうなるかと思ったよ。王子の寛大さは立派だが、あんな下人を庇って面目を潰すところだった。もしあのまま壇上に上がっていたら、俺たち全員首が飛んでいたからな」

メアリージュンは以前校舎裏でヴィオレットに言われた言葉を思い出す。

貴族としてどのように振る舞うべきかを説われたことを。

自分は正義を信じてクローディア王子の側近の対応を非難した。
自分は正しかったはず。
けれども自分のその言動によって、全く別の人物の首が飛んでしまうことがあるのだ。
自分の感情だけでは済まされない。その先を見据え、責任を持って行動しなければならない。それが貴族の貴族たる所以だ。



ヴィオレットがステージの袖に戻ると以前の取り巻きたちがクローディア王子の衣装がいつの間にか修繕されていた話で持ちきりだった。
ヴィオレットが彼の腕を引っ張って出て行ったので、もしやお直しになったのはヴィオレット様?と聞かれたが、そこはごまかして取り繕っておいた。
話がバレるとややこしくなる😅

ちょうどクローディアが演奏を終えて戻ってきたので、皆お出迎えに行ってしまった。

ヴィオレットは皆と交ざる気はないので、そっと離れた。
そして昔を思い出す。

最近はメアリージュンの指導に付きっきりだったし、芸術祭のことで神経を張り詰めてすっかり忘れていたけど、巻き戻り前の1年前は自分が学年代表でステージに立って演奏していた。
クローディア王子に褒められる演奏をしようと死にもの狂いで練習をした。

けれど迎えた本番のあとに見たものは。


 

本当に今思うと、肩書きや名誉のために王子を慕う令嬢たちの方が遥かに純粋だ。
自分は打算まみれで、愛情のかけらもなく。
理想を押し付けて、彼を理解しようとも分かろうともせず、ただ満たされるために利用しようとしてた。
クローディアが自分に振り向かないのは当然であった。どんなに努力をしても、目的が歪んでいたから。

 


 

少なくとも今は彼を少し理解できた。
愚直なほどまっすぐで正義感が強い人。

この気持ちは恋でも愛情でもなかった。

けれども、ただ。

確かに彼は、私が初めて好きになった人だった。

 



彼を好きになって良かった。
もう平気だ。なにも未練はない。
だからもう彼を追い回すことはしないし、自分は目標に向かって進んでいくのだ。


〈感想〉
ヴィオレットは過去を省みて、自分の気持ちに整理がついた。
あとは彼とメアリージュンがトントン拍子に仲良くなってくれればいいのだが、クローディアの視線の先にはメアリージュンではなく・・・
ヴィオレットの苦労は増えていきます(^∇^)