鬼~トッケビ~
第2話-①「気になる2人」
「おじさんの超能力を見て、決心した!
私、おじさんと結婚する!」
そう言って無邪気に笑うウンタクに当惑しているシン。
勝手に鬼が開いた時空の扉を、ひょいっとくぐりぬけて無邪気に笑う少女。
(一体、この娘は何者なんだ?本当に花嫁か?
いや。それなら見えるはず。この、胸を深く貫く剣が。)
そう。鬼のシンには神の褒美と罰として
不老不死を与えたが
もう一つ。
シンの胸に深々と刺さった剣。
シンの命を奪った剣がずっと胸に刺さったままなのだった。
鬼の花嫁にはそれが見えるという。
何故なら、その剣を抜くことが出来るのは
鬼の花嫁だけ…。
その、肝心の剣がウンタクには見えない…。
カナダは深まる秋の中、あちらこちらで紅葉が
綺麗だった。
『新婚旅行』に子犬の様に走り回り
はしゃぐウンタク。
こっちで写メったと思ったら、気になる店に入っては出てくる。
とにかくじっとしていない。
彼女が自分の後をついて出てこられたのが
不思議で、頭の整理がつかないまま
シンは振り回されてしまう。
「不法滞在者には見えないわよね?
自然でしょ?」
「・・・・・・・・」
「一緒に歩けて、光栄でしょ?」
はしゃぐウンタクとは対照的に、うんざりした様子のキム・シン。
「否定されるより返事がない方がマシね。」
「これ知ってる?落ちてくる葉をつかむと…」
「…え。掴んだの?早く、捨ててよ。早く~。」
「なぜだ?」
「…落ち葉をつかむと…。
一緒に歩いてる人と、結ばれるんだって。」
「正直に言ってみろ。今、考えたんだろ?」
「違うわ。…散る花びらをつかむと初恋が実るのと同じよ。」
「困るのか?」
当惑気味のウンタクにそう訊ねるシン。
「おじさん、鬼なの?」
「違う。」
「じゃ、捨ててよ早く!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
シンは
「行くところがある。」
そう言って自分が所有しているホテルにウンタクを置いて
出て行った。シンの行くところとは…?
正装の理由は『墓参り』だ。
勿論、シンからあとの一族は無い。
神から授かった 褒美と罰のうちの罰である、
「愛する者の死を見届けよ」
900年の間、シンは愛する者たちの死を
孤独にも見届けてきたのだ。
一つの墓の前に立つと、懐かし気に話しかける。
「変わりはないか…?」
「そなたたちも?。」
見ると、周りには墓が密集している。
名前は皆『ユ家』の人々。
ドクファの先祖達。
高麗を後にしてから共に生きてきた者たち。
鬼に仕える運命の執事達。
「私は相変わらずだ。
…まだ、安らかにはなれぬ。」
とそこへ。
そこには暇を持て余し、置いて行かれたホテルから出て
街を探索していたウンタクが。
「見つけた!!」
けれど、ウンタクはシンの後ろ姿を静かに見つめていた。
ふと、綿毛のタンポポを子供の様に
吹いてみた。
光にキラキラと反射する綿毛の種が
ふわふわと空中を浮遊して
シンの元へと届く。
街の明かりが灯り出す…。
やっと、腰を上げたシン。
振り向くと
「…待ってろって言っただろ。」
「…だから静かにここで待ってた。」
「用ってこれだったの?」
「あぁ。もう済んだ。」
何時間も静かに草の上に座り、シンは何を思っていたのか。
過行く人の運命か。
それとも、いつ終わるともしれない自分の罰か…。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ソウルのカフェに黒服の男2人。
死神と死神。
「なんか、変ですよね?もう死んでるのに
普通の人と同じように食べたり、睡眠を取ったり。」
死神は前世に大罪を犯した者がなるのだという。
だが、前世の記憶は無い。
そして、名前もない。
黒の帽子を被れば生きた者には見えない。
代わりに、死者には見える。
死者名簿が送られてくると名簿に明記された場所に
死者を迎えに行く。
召集に応じた死者は死神に連れられ
この世最後のお茶を飲む。
「記憶」を失くすためのお茶。
記憶が無い方が幸せだという、神の御慈悲だという。
この世において、大罪を犯した者は
記憶は消せない。
死しても尚、悔い改めさせるための
神の配慮だという…。
今日もまた、死者へ旅立つ前のお茶を入れていた…。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
カナダから帰ってきたシン。
唐突に死神に
「今、忙しいか?」
「え?あ?忙しい。」
そう言って、TVにかじりついている。
「ついて来い。」と、一言いいドアの外へ。
ドアの外は例のそば畑。
「……」
着いてくる気配がない。
一方、死神は仕方なしにシンに着いて行くと…
シンはいない。
「あれ?」
と、シンが家の中から出てきた。
「何で中から出てきた?」
「おう。不思議だろ?
…あの子は死神にもできないことをしたんだ…。」
「俺にできないこと?何だって?」
「できないことってなんだよ?誰が?誰だ?
なんだよ、俺にできないことって!!!」
やけに『出来ない』と言う所に喰い付くあたり、
死神のプライドが許さないのかしつこく食い下がる。
だが、シンには相手にされず。
死神のフラストレーションは溜まったが
シンも疑問が解決されなかった。
あの子は本当に、花嫁なのか?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
一方、ウンタクは…
例の図書館のドアの前にいた。
「ドアを開けたら、カナダだ。」
まるで呪文を唱えるように、何度も言う。
そして、祈るようにノブを掴んでドアを開いた…。
開いたその場所は…
女子トイレだった…。
「高3?」
「…はい。なんで…分かったんですか?」
「目は虚ろで、疲れた顔をしてるから。」
「あ、そうですか…。」
「家はどこ?」
「この、近くですけど…」
「ちょうどよかった!男からもらったんだけど。」
「ほうれん草を?」
「家に帰って、家族と食べて。必ず。」
そう言って渡されたほうれん草。
実はこの、謎の女性はウンタクの居る所、シンの居る所
いつでも、どこでも神出鬼没。
彼女の正体も謎なのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ただいま帰りました。」
帰って来たくない所に帰らなければならない辛さ。
ウンタクにとっては家に帰っても安らげる場所ではない。
「こんな時間まで、何してたんだよ?」
「学校にいました。」
「口答えするんじゃないよ!」
「母さん、腹減った。」
「あたしもだよ。」
怠惰な暮らしが透けて見えるこの叔母家族。
この長男はいつもゲームばかりしている。
叔母はTVばかり見ていて
仕事をしているのを見た試しがない。
座ったままで
「ご飯の支度をしろ。」
そう言われたウンタクは冷蔵庫を見るが
何も入っていない。
その時、貰った『ほうれん草』を思い出して
夕食を作り始めるのだが…。
作っている最中に
カナダのケベックのガイド本を発見されたウンタク。
初めての記念にと、取って置いた物だったのに。
「ウンタクが海外に行くみたいだよ!」
娘のその言葉に色めき立つ叔母。
「ほら、ほら。母親の保険金で逃げるつもりだろう?」
「違います。ただの記念品なので。」
「記念品?行ったこともないのに何が記念だよ!
育てて貰った恩も忘れたのか?」
ただのパンフレットに激昂して怒り出す叔母。
「ふざけるんじゃないよ!」
言いながら、ウンタクを叩く叔母。
そこに我、関せずと海苔巻きを頬ばる長男。
途端に喉を詰まらせてしまう。
長女は、海苔巻きを切ろうとして、指を切る。
「オンマ~!血ーーー!!!」
その大騒ぎに叩いていた手が止まる叔母。
その隙に、海苔巻き1本。持って家を出たウンタク。
悲しかった…。
ただただ、自分の運命が。自分の境遇が。
泣きながら、海苔巻きを食べる。
階段の上からみる街の灯の中一つ一つに
ぬくもりがある様な気がして。
とてつもなく寂しかった…。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃…
シンはベットの上。
考えるのは、ウンタクの事…。
「私を呼びだし、扉を通るのに剣が見えない…。
一体、あの子は何者なんだ?」
いくら考えても答えは出ず…。
好奇心に勝てなくなったシンは…
ウンタクの家の前に…いた。
「あ。」
「悪いと思わないのか?こんな夜中に呼び出して。
こっちは忙しいのに。」
自分が好奇心に負けて来たのに
あくまでもウンタクに呼ばれたから来た。という体で
居たいシン。
「呼んでないけど。」
きっぱりと言うウンタクに
苦し紛れに
「私の事を考えただろ?」
「…考えただけでも、おじさんを呼べるの?」
「…すこし違うが…。私は敏感だから気を付けてくれ。」
「…それは…申し訳ありませんね…」
力なく、そして幾分か涙ぐんでいるように見えるウンタクが
可哀想になるシン。話題を逸らそうと
「具体的に、何を考えたんだ?」
と、ウンタクに問うと
「…ただ、カナダは良かったな。って。
そこなら、幸せに暮らせそうだな。って思ったら
自然におじさんの事も頭に浮かんで…。
高そうな服に、豪華な時計、ホテルまで
持ってるのに…
なんだか、寂しそう。
ふと、そう思ったの…。」
なぜか、心を見透かされた気がして不思議だった。

























































