「モンスター」 百田 尚樹著

 彼の名作「永遠の0」を読んだ後、すぐに購入したのがこの「モンスター」だ。
永遠の0で、魅了された私はこの際、彼の書く作品をすべて読破したくなった。
私にとって、それだけの魅力が彼にはある。
「モンスター」すでに高岡早紀主演で映画化もされていた。題材は誰からも
見向きもされず、親にさえ見捨てられたほどの醜く生まれついてしまった主人公が
整形して、過去に復讐していくという、ありふれたものだったがこの、ありふれた
設定を彼はどう描くのか。そう思い、手に取った作品だった。

 案の定、ありふれた設定をありふれたままで終わらせないのが 百田 尚樹だ。
整形に至るまでの彼女の心情。細やかに、丁寧に描いている。
見ている私まで感情移入し、醜いだけで見向きもされない彼女の境遇に私までが
理不尽を覚え、この復讐をつつがなく終わらせてあげたくなる。
「醜い」の一言で、どれだけの心の傷を負ったことか。
顔が醜い物は心まで醜い。そう言って憚らない奴ら。彼女じゃなくても、許せない。
彼女が風俗に身を落として、整形の費用を稼ごうと意を決して風俗店の面接を
受けた際、「お前みたいなブスが働けると思ってんのか!」と、手ひどく追い返され
てしまう。身を落として働くつもりが、逆に手ひどく断られて諦めるどころか、ますます
美への執着へと駆り立てられる。
 醜かったからそうなったってしまったのか、もともとそういう性格なのか、この主人公
美帆の粘着質性格はひどい。凄いのではなく、ひどいのだ。整形を繰り返しながら
その費用を稼ぐためにあらゆる風俗を渡り歩き、全くの別人になって田舎に帰ってくる。
復讐のためだ。醜かった自分を排除し続けた者たちへの。
そして、初恋の男への情念ともいえる執着は果てしない。

本の中で人間の美に対しての正解率は4歳で約60%、だという。7歳くらいになれば
90%以上という。人間の「美しい」と「美しくない」という美醜に関しての、正解率の事
である。要するに、大人が10人が10人「美しい」と、判断するものを4歳児が10人い
たとして「美しい」と答えるのが、6人。「美しくない」と答えるのが4人。というわけだ。
歳をとるにしたがって、「美しい」という概念をテレビの女優だったり、人の判断基準だ
ったりで学んでいくうち、正解率が上がってくるというわけである。
いわば、美しさとは人によって作られた価値。ともいえる。幼ければ、経験値も低いの
で人の判断基準よりも、実際心の目で見られるものなのかもしれない。
その、4歳児だったころ、同じ幼稚園に通う「英介」という男の子から
「可愛い!!大きくなったら和ちゃんと(美帆の改名前の名)結婚する!」と、言われた
ことが忘れられず、そのことだけを心の支えにして生きてきた美帆にとって、英介は
特別な男である。美醜の判断もおぼつかないような4歳児の言った一言に、生きる
希望を見出さなければならないほど、美帆は絶望して生きてきたのだから、当然なの
かもしれない。ありのままの自分を「好き」と言ってくれた英介。
その英介に、高校時代に再会し男前に成長していた英介に対して、よせばいいのに
思いを募らせ、それが高じるあまりある事件を起こし、町に居られなくなってしまう。

 20年後、故郷に戻ってきた美帆は整形し、美しくなった今でもやはり英介の事が
忘れられない。そして、やっとの思いで初恋を実らせるわけだが美帆が自分で勝手に
美化してしまった英介は美帆が求めていた、英介ではなかった。
と、言ってもただ普通の男として普通に成長しただけなのだが。
整形して手に入る愛よりも、ありのままの自分、美帆ではなく和子を結局は愛して
欲しかった。誰からも見向きをされない和子が、自分自身で不憫でならなかったのだろう。

「モンスター」と呼ばれたかつての美帆。けれど、本当の「モンスター」は整形して
美しく生まれ変わった美帆なのかもしれない。
そして、美しくなっても、お金を手にしても開いた穴を埋めることのできない、
美帆の心なのかもしれない。整形に至るまで、整形手術の方法を細かく、描写していた
だけに、ラストシーンのあっけなさはとても勿体ない気がした。が、これも作者の意図が
あることであろうから、読み手はそこも読みとなければならないが美帆があまりにも
哀れだと思ってしまう。復讐を果たして、やり遂げられたのか。
私は、復讐は終わった。と、思いたい。