舟を編む   三浦しをん 著

 言葉を紡ぐ。という表現は知っているが、この本を読んで、文章を集めて
一つの書物を作る事を「編む」と表現する事を初めて知った。
確かに、編纂とか編集とかいう言葉にも 「編む」が使われている。
昔の人たちは、言葉という糸で紡ぎ、織りものを織っていくように一つ一つを
丁寧に編んでいたのだろう。昔の言葉には、丁寧で何とも言えない温かさが
ある。と、感じることがある。昔から、言葉は正しく使いたい。と、思っていた方
なので、辞書は私の愛読書だった。辞書には、言葉の本当の意味から用法
たまには成り立ちなどが書いてあり、(本によると、それらを語釈というそうだ)
自分たちが使っている言葉が綿々と使われてきた言葉なのだということが、
解る。そう思うと言葉って、生きた化石だと思う。時代時代で変化はするが、
その本質はあまり変わらない。

 本は1出版社の何十年にもわたる、辞書編集の物語だ。
言葉という題材からか、普段使わないような言葉が飛び交っていて、
ななめ読みは出来ない本だった。丁寧に読み、言葉の意味をかみしめ
ながら丁寧に丁寧に読んだ。
「大渡海」という国内最大の辞書編纂を軸にして、登場人物たちの
人生がうまく絡み合っていく。ここまでの心血を注いで辞書が作られて
いるかと思うと、ただ頭が下がる。一つ一つの言葉の意味を時には、
辞書を使う使い手の気持ちや引くときのシーンまで思い浮かべて、
「それではいけない。」と、考え直したりして。辞書編纂は遅々とも進まない。
慎重に慎重を期して、進めていく。表題にもある言葉の海を航海している舟が
万が一にでも、沈んだりしないように。

私には悪い癖がある。気まぐれに本屋にフラッと立ち寄り、
あまり考えることなく自分の好みの装丁の本や気に入っている作家の本、
○○大賞受賞なんて言葉や書店員の書評がついている本に弱くて次々と
手に取る。まんまと本屋の販売戦略にはまっているのだが、手当たり次第に
取っていくものだから、30分もすると12,3冊の本を抱えてしまっていて
しんどくなる。そのままレジに行けたらいいのだが、予算の都合上、
そうもいかずその中から、ベスト5位を選び出し、会計してもらう。
もちろん、戻す本はちゃんと自分で返しています。当たり前ですが。
そうして買った本を…読まない。すぐに。どころか、下手をすると半年くらい
ほったらかしてしまう。それならば、買わなければいいのに。自分でもそう思う。
まるで、冬籠りに備える、リスのようにあっちこっちの置きっぱなしにして
気づいたときに「そういえば、この本まだ読んでなかったな。ラッキー!」
なんて、喜んでいそいそと読みはじめたりする。
 この本も、そういう経緯で手にした本だった。
装丁がまるで辞書のようなシンプルな装丁。なんか、かっこいい。
舟を編む?って、面白い表現だ。これ、買っちゃお。こんな感じだったと思う。
去年に12月の事だ。それを思い出したのは、映画化されたCMを見たからで
「あ、この本。持ってる。へぇー映画になったんだ。」
と、言うことは面白いのだろう。そう思って読み始めた。
読み始めたら、本当に面白くて時間もたつのも忘れて読みふけった。

辞書がやっと完成し、安堵するエンディングだが、思わず涙してしまう
実にいいシーンがある。私は、その手紙を主人公が一生、大切に持ち続けて
いるに違いない。と、確信する。