ハノイのバス事情

 

 私は市内の公共交通にとてもお世話になっている。ハノイメトロも2本あるが、仕事で利用するのはもっぱら市内の路線バスである。バス路線は154路線もあり、ハノイ市のいたるところを走っているので一見すると便利に思えるが、実は様々な問題がある。

 まず運賃であるが、2024年11月1日から値上げされた。路線距離ごとの改定後運賃は以下の通りである。しかし日本に比べるとまだまだ破格の低運賃であると言える。

◇15km未満:7000→8000VND(約42→48円)
◇15~25km未満:7000→1万VND(約42→60円)
◇25~30km未満:8000→1万2000VND(約48→72円)
◇30~40km未満:9000→1万5000VND(約54→90円)
◇40km以上:9000→2万VND(約54→120円)

 

 また、功労者・60歳以上の高齢者・幼児は引き続き無料なので、たまたま60歳以上の私は無料で乗車させてもらっている。この無料パスは、外国人でもパスポートと顔写真(ない場合はその場で撮影も可)を用意すれば、バスターミナルで無料で作ってくれる。特にキンマ―のバスターミナルは即日発行してくれるので、待たされる時間さえ辛抱すればここで作るのがベターだ。

 バスには運転手と車掌が1名ずつ乗車しており、車掌は乗ってくる乗客のチケット確認やチケット販売を行っている。そして車掌はバスの車内の統制を行なっていて、絶えず乗客に指示を出している。年寄りには親切だ。年寄りが乗車してくると、席に座っている若者に席を代わるように指示する。私も幾度となく座らせてもらった。指示された若者は無言で指示に従う。日頃、大声でおしゃべりすることの少なくないベトナム人であるが、バスの中は静粛だ。うるさくすると車掌に怒られるそうだ。しかし、車掌や運転手の好みの音楽が流れていることがたいていで、歌を歌っている場合もある。彼らは車内の王様なのである。

 彼らのバスは一本のバス路線を端から端まで休みなく運行するため、バスの中で彼らは昼食を摂る。電話で予約しておいた店の弁当やドリンクを、バスの入口まで出前してもらうか、車掌が店まで取りに行く。その後、もちろん車掌は揺れるバスの中で弁当を食べる。そして運転手は?彼もバスを運転しながら上手に弁当を食べる!手慣れたもんだ。そのためか運転はダイナミックな運転になる。急停車、急発進はお手のもの。周りの雑魚(乗用車やバイクや自転車やリヤカーや人)をクラクションを鳴らしまくって蹴散らして行く。もちろん運転手にもよるが、あまりにワイルドな運転のせいで気分が悪くなることもある。そういう事態をわきまえてか、ビニル袋が用意してある。

 それを知ったのは、20代と思われる男性がビニル袋を使用する状況にたまたま一度出くわしたことがあるからだ。私はバスの出入り口を挟んだ彼の後ろの席だったので、彼の行動の一部始終を見ていた。彼はバスの車内を汚さないようにビニル袋の中に吐瀉物を吐いた。そこまではよかった。そうこうしているうちにバスはバス停に停車した。乗り降りする客がいなくても、バス停では一応停車して扉を開閉することになっている(そうしない運転手もたまにいる。)ようだ。扉が開いたその瞬間、彼は立ち上がって扉の所まで行き、自分のビニル袋をバスの車外に捨てたのだった。ビニル袋と一緒に彼は降車しなかった。その後、また2つ目のビニル袋を使用し、再度ビニル袋に車内から別れを告げた。誰があのビニル袋を片付けるのだろうか?バスの扉が開くたびに、ごく自然な振る舞いであるかのように、バスの車掌が車外に痰を吐き捨てていたことからして、このような光景は別に異常なものではないのだろう。しかし、事態はこの程度では済まなかった。

 そのバスは、早朝、ガラガラの状態で私のいるバス停にやってきた。私は早速一番座り心地の良いバスの中央にある先頭座席に座った。その時、車掌が私の足元を指さして何かを言った。自分の足元を見た私は自分の目を疑った。それはなんと大便だったのだ。大急ぎで靴の裏を床で拭って反対側の席に移動し、心の中でつぶやいた。「もっと早く注意してくれよ!」その後、車掌はモップで便を拭き取って、その危険場所にティッシュを一枚敷いた。そして、私の後から乗ってくる乗客には注意を促していた。まさか人間の大便ではなく、動物のものだとは思うが、日本ではありえないレアな経験であった。さすがにハノイでもまだ一度しか経験していないが。

 先述のビニル袋事件や大便事件は別にしても、ワイルドでクレイジーな状況はバスの運行すべてに影響を及ぼしていると言える。バスは乗客を乗せるとすぐ発進する。したがって、早く席につかないと転ぶ危険性が非常に高い。ある時、乗客がまだ降車していないのにもかかわらず、扉を閉めようとして、乗客を扉で挟んだ。乗車しようとする私の右腕も扉に挟まれた。何をそんなに急いでいるのだろうか?

 バス番号にEのつくVinBusは別だが、Hanoi Busの彼らはいったい何にかりたてられているのだろうか?交通信号や横断歩道や階段もそうだが、弱者にやさしくない社会だと思えてくる今日この頃である。