<SDGs達成のために個人が乗り越えなければならないハードル>

 

 このハードルを乗り越えるのは容易ではないが、個人がクリアしない限り、たとえ国家や企業が高邁な目標を掲げて国民の音頭を取ろうとしても、SDGsの達成は不可能である。なぜなら、自由主義に基づく資本主義社会では、快楽や利便性の追求こそが社会発展の原動力なので、国民が利便性や快楽の向上を生活水準の上昇と考えている限り、国家や企業は国民の利便性や快楽の向上のために奉仕しようと努めるからである。そこで、次に「利便性や快楽を追求する自由への制限を許容すること」を可能にする方法を肉食問題を例に考察していくことにする。

 

 一般的に、現代の畜産業は大規模工業化することによって、食肉の大量生産に成功している。しかし、その一方で様々な問題も孕んでおり、今日、畜産業が地球環境に及ぼす影響が問題視されている。食糧問題や動物保護の問題を論点に掲げることもあるが、ここではとりあえず地球環境への影響という論点で畜産業について考える。

 

 まず、グリーンピース・ジャパンが「牛のゲップだけじゃない。肉の大量消費が引き起こす10の環境問題まとめ」(2021-07-05)という記事の中で報告している工業型畜産業の問題点をまとめると以下のようになる。

 

 動物性食品を生産する工業型畜産が引き起こす問題として、①地球温暖化②水質汚染③森林伐採④穀物の大量使用⑤大気汚染⑥土壌劣化⑦水の過剰利用⑧人獣共通感染症⑨生物多様性の喪失の9種類の問題を提起している。

 

①【地球温暖化】

 家畜から排出される温室効果ガスはすべての乗り物から排出される温室効果ガスの 

   総量に匹敵し、世界の温室 

   効果ガスの約14%を占める。

②【水質汚染】

 米国の工場畜産場の動物は毎年約5億トンもの大量の糞尿を排泄している。また、大 

 量の化学肥料や除草剤や農薬などを使って生産された家畜の飼料や、屋内で過密飼 

 育される動物に使用される大量の抗生物質やホルモン剤のため、化学薬品で汚染さ

 れた大量の糞尿が土壌や川や海を汚染している。

③【森林伐採】

 牛の放牧や家畜の飼料などのプランテーションのために広大な熱帯雨林が消滅して 

 いる。

④【地球の陸地の1/4を土地利用】

 国連報告書『畜産の長い影』によると、食肉生産のための土地利用は地球上の陸地

 の26%にも及び、多くの野生動物の生息地が破壊されている。

⑤【穀物の大量使用】

 1kgのステーキの生産にはその25倍もの大量の穀物が必要なので、そのための広大

 な農地開発が森林破壊や生態系破壊などを引き起こす。

⑥【大気汚染】

 米国科学アカデミー紀要によると、米国の農業など食料生産で排出されるPM2.5に

 よる大気汚染での年間死亡者数約1万6000人のうち、80%が食肉や乳製品や卵など

 の動物性食品生産関連である。

⑦【土壌劣化】

 家畜飼料用に農薬や化学肥料を使用した単一栽培をするため、特定の栄養分が過

 多、または過少の劣化した土壌が増加するだけでなく、海洋生物が生息できない酸

 欠のデッドゾーンも増加し、気候変動を悪化させる亜酸化窒素などの温室効果ガス

 の排出や酸性雨や呼吸器系疾患や作物の収穫量減少の原因にもなる。

⑧【水の過剰利用】

 動物の飼料や生産から動物の屠殺や加工に至るまで、食肉会社は事業やサプライチ

 ェーン全体で大量の水を使用している。例えば、1kgのステーキを作るために必要

 な水は約15,000リットル、ハンバーガー1個を製造するのに必要な水はトイレ1か

 月分にも昇る。

⑨【人獣共通感染症】

 肉の消費が増え、家畜とその飼料栽培のために森林が伐採されると、野生生物が居

 住している森林面積が減り続け、人間と動物の接触が増加することによって、人獣

 共通感染症が発生する可能性が高まる、と世界保健機関(WHO)や国連食糧農業機

 関(FAO)や国際獣疫事務局(OIE)は、動物性たんぱく質の需要増加がパンデミッ

 クの増加につながると警告している

【生物多様性の喪失】

 地球の陸上の哺乳類のうち、野生動物の割合はわずか4%であるのに対し、家畜動物

 の割合は60%も占めているという生物多様性の喪失は、私たちの生活や地球の気候

 を不安定にする。

 

 さらに、ETHICAL CHOICEの「畜産と環境問題|肉の消費を抑えることが、環境保護になる理由とは」(Ayaka Sato, 2020-12-6)では、畜産業がもたらす①地球温暖化、②水の過剰利用、③森林伐採、④穀物の大量使用、⑤水質汚染、⑥生物多様性の喪失の6種類の環境問題を指摘している。

 

①地球上の温室効果ガス排出量の18%

 家畜(特に牛)の排出するオナラやゲップの中に含まれるメタンガスは二酸化炭素 

   の28倍の温室効果がある

②世界の水資源の3分の1を消費(全世界の淡水量の27%を消費)

 牛ステーキ1㎏に必要な水の量は15,500リットル(トマトの77倍)

   トマト1㎏に必要な水の量は約200リットル

③家畜または家畜の飼料を育てるために土地は、凍土を除く地球上の土地の3分の1  

  (地球上の全農地の80%以上)

   アマゾンの森林破壊(毎秒、サッカーグラウンド1個分の熱帯雨林を伐採)

④世界中の穀物の50%以上を消費

⑤畜産排水(家畜の糞尿)による生態系の破壊

⑥熱帯雨林の破壊により、毎日最大137種の動植物が絶滅

 

まとめ

【畜産業の地球環境への主な影響】

 

      原 因                影 響

 

食肉の大量消費(大半が先進国)

           ↓

食肉の大量生産(工業型畜産) →  げっぷや糞尿による温室効果ガス(CO2↑, 

                  CH4↑)・水質汚染・大気汚染

     ↓

    水の大量消費    →     開発途上国の水不足

      穀物の大量消費    →    開発途上国の食糧不足や飢餓・穀物の大量輸送     

                                  (CO2↑)

    大量の森林伐採    →    地球温暖化(CO2↑)・土壌劣化

 

補足1

【全温室効果ガスの内訳(2010)】

 

CO2…65.2%(化石燃料由来)

   10.8%(森林減少や土地利用変化など)

CH4…15.8%(約6割が人為起源)

                                人為起源のCH4排出源の30%が腸内発酵(2005)

 

※人為起源のメタンのみ過去20年間(2008-2017)に約10%増加

 

補足2

【畜産国ニュージーランドの温室効果ガス】

 

農畜産業全体の排出量…全温室効果ガス排出量の48%

家畜由来のみの排出量…全温室効果ガス排出量の36%(この69%が牛由来)

(つづく)