※これは、事実を元にしたお話です。

全てがフィクションではありませんが、

ある程度の事実に基づいて書いています。

 

その八

 

-冬子の青春-

 

冬子は高校生になった。

病弱で、よく高熱を出して寝込んではいたが、母のサダがいつも誠心誠意介抱したおかげで、大事に至ることもなく、高校に上がるまで成長した。

赤ん坊の頃から可愛らしかったが、年頃になると大輪の薔薇の花束のように、華やかに花開いた。色とりどりの薔薇の花が良い香りを漂わせ、周りの人々はため息をつきながら冬子の姿を眺めた。

 

冬子は、自分があこがれの的である事を十分理解し、皆の目を意識しつつも自由に暮らしていた。無口なのは、子どもの頃から変わらなかったが、小学生の頃から冬子の横には、特別おしゃべりな娘がくっついて来ていた。その娘も、冬子と同じ中学校へ行き、同じ高校へ入った。

 

冬子の成績は、「中の中」だったので、おしゃべりの友達が冬子を追いかけて同じ高校に入るのは、たやすい事だったのだ。

 

「冬子~、今日は、どこさいぐ?」

冬子の横を歩いている美佐子が、冬子に話しかけた。

「どこにも行かね。家さ帰る」

「そげなこと、つまらないべさ。どこかいこな~」

 

冬子は、この人なつっこい美佐子を、時には鬱陶しく思った。冬子の横を歩くと、他の女の子は「冬子ちゃんの引き立て役になるから、横を歩くのはちょっとな、、、」と言うが、美佐子は冬子と並んで歩くことを、喜んでいた。

 

自分に自信がない人間が、高価なアクセサリーや洋服をまとう事で自分を良く見てもらいたい感情と似ているのかもしれない。

美佐子にとっては、冬子と友達になれる自分が自慢なのだ。

 

冬子へのラブレターの橋渡し役も、よく頼まれた。

美佐子は、ラブレターを持ってきた相手に、もったいをつけて威張って言ったものだ。

「冬子にラブレターを渡してやってもいいべ。オラでながったらできない仕事だべさ」

ラブレターを握った相手は、美佐子にペコペコして頼むのだ。

「おねげーだ、渡してけろ。お礼はすっから!」

 

 

しかし、冬子は渡されたラブレターをざっと読むと、ゴミ箱に捨ててしまうのが常だった。それがまた、美佐子にはうれしかった。

 

「冬子ちゃんは、誰のものにもならね。オラだけが友達だ」

 

 

高校の先生たちも、冬子には甘かった。美人だというのは得なものだと、冬子は心から思っていた。美人だと、黙ってじっとしていても幸せになれる。たとえもらわれっ子でも大丈夫だ。

 

サダと血が繋がっていない事を話したことはなかった。しかし、サダもわかっていた。冬子は養女だと知っていると。

あの銭湯で何が話されていたのか、近くでその話を聞いていた人に教えてもらったのだ。人の口には戸は立てられない。

 

サダも冬子も、ずっと本当の親子として暮らしてきた。

 

 

そして、冬子はとうとう高校を卒業する時期になった。

勉強は苦手だし、大学へ行くような余裕が家にはないことをわかっていたので、冬子は就職することにした。

 

さて、どんな仕事ができるのだろう?やはり、父親と同じように、この町の製紙工場に勤めるのが良いかな。と考えていた。

 

高校3年の秋、担任の先生が冬子を職員室に呼び出した。

「小野さん、就職希望だね?実は小野さんを雇いたい会社があるんだ」

 

なんと、この町では有名な会社の秘書として雇いたいという、話が来た。

 

さすがの冬子も驚いた。

「したって先生、私にできる?秘書だら、難しい仕事でねえの?」

 

先生は言った。

「お客さんにお茶だして、にっこりしたらええんだと。だけんどひとつだけ条件があるんだと。今度開く、ミス米町に出場して一番になってほしいんだと。んだらミス米町が会社の秘書だと自慢できっぺ?それでいいんだと」

 

冬子は、少し考えてから言った。

「わがった、出るべ。ミス米町、とったらいいんだな?」

 

10月10日、冬子はミス米町になった。ドレスを着て大きな花束を抱え、大勢の観客の前で微笑んだ。

 

冬子の未来は、明るく開けているように誰もが思った。冬子自身も、両親も、米町の町民の全員、誰もが。

 

 

続く