『ヴァイタル・サイン』
南杏子/小学館文庫


看護師の仕事は過酷だと、しみじみ思いました。

それでも、人は人に癒されるので、必要不可欠な仕事です。
機械やロボットの開発が進み、少しでも、人の肉体的負担が減ると良いなと思いました。


全体的にとても読みやすく、引き込まれました。

仕事が始まればノンストップ。
日勤、夜勤、と繋がり、終わらない日々。
目が回るような忙しさ。
ミスが許されない現場。

一つ一つが現実的で、怖いくらいでした。
終わりが見えない、というのが一番辛いです。


物語中に、片目の魚(金魚の半ちゃんと、裏庭の鯉)が出てきます。素野子は、片目の鯉は神様だ、といわれていることを知ります。
素野子がプライベートで貴士に会ったとき、貴士はメガネをかけておらず、ぼやけた視界でいるのが楽、という話題になりました。
片目の魚と、貴士の共通項→どちらも、素野子にとっての神様、ということになるのかな、と後から思いました。
実際に、半ちゃんにも、貴士にも、救われていました。
本作には、具体的には文章にされていない伏線があるのでしょうけど、私はこれくらいしか気づけませんでした。


感情労働という言葉が出てきました。肉体労働、頭脳労働に次ぐ、第三の労働形態です。
感情を使って仕事をする、感情労働。
看護師のように、心や身体が弱った人を受け止める仕事は、本当に大変です。

自分に余裕がないと、うまく立ち回れない。
でも、激務で、心身ともに慢性的に疲れきったまま、仕事に臨まなくてはならない。

私も、仕事や子育てにおいて、心当たりはあります。
自分に余裕があれば、嫌な言葉もかわせるし、笑って流せる。
余裕がなければ、きつい言葉を言ってしまう。当たるような態度をとってしまう。
自分の感情コントロールがうまくいかないために、相手に当たるようなことがあれば、自己嫌悪に陥ります。


著者は、医師とのこと。
あながち、全てがフィクションとは言えないでしょう。
看護師や医師の日常を垣間見ることができ、興味深い作品でした。