高齢者虐待防止法における「身体的虐待」については、介護現場で働くスタッフの方々を含め、**「わざとでなければ当たらない」**という大きな誤解が見られます。この記事では、この誤解がなぜ生じるのか、そして高齢者虐待防止法が身体的虐待をどのように定義し、行政がどのように判断するのかを解説します。

身体的虐待に関する一般的な誤解

多くの方が「身体的虐待=わざと殴打や暴行を加えること」というイメージを持っています。

ニュースなどで取り上げられる虐待事件の多くは、背負い投げをして大腿骨骨折の重傷を負わせる、思いっきり平手で殴打する、高いところから高齢者を投げ落とそうとするなど、ショッキングな事例が中心です。

これらの事例は、刑法における暴行罪、傷害罪、傷害致死罪といった犯罪に該当する行為であり、世間のイメージは、この「わざと」という部分に引っ張られてしまっています。

この結果、刑法に該当する行為だけが身体的虐待に当たると勘違いされる事例が散見されます。

刑法と高齢者虐待防止法の目的の違い

ここで重要なのは、法律の目的の違いです。

1. 刑法(刑法):適切な刑罰(死刑、懲役、罰金など)を科すことが目的であり、処罰に値するものに限定して解釈されます。

2. 高齢者虐待防止法(高齢者虐待防止法)高齢者の権利利益の擁護に資することが目的であり、老人福祉法や介護保険法の提言を適切に行使し、適切な施設運営を確保することを目指しています。

身体的虐待の認定基準は「客観性」

高齢者虐待防止法において、ある行為が身体的虐待に当たるかどうかは、担当していた職員の主観(意図的かどうか)は問われません

判断の基準となるのは、高齢者の方の生命、身体、健康などが不自然な状態に置かれていないかということを客観的に判断していく、という点です。

事例で考える「身体的虐待」の認定

実際に、以下のような相談事例が寄せられています。

【事例】 ある特別養護老人ホームで、入所中の80歳の男性がベッドから転落し、救急搬送されました。検査の結果、慢性硬膜下出血に加え、体中に痣が発見されました。

• 担当医師は、客観的に見て身体的虐待が行われているのではないかという疑いを持ち、行政に通報しました。

• 施設では、人手不足により、本来職員2名体制で介護すべきところを、やむなく1名体制で実施していた不適切な点があったことを認めました。

• 事故から3ヶ月後、行政はこれを身体的虐待に当たると認定しました。

施設側は、担当職員が意図的に殴ったりしたわけではないため、行政の認定は心外だと感じました。しかし、行政は、医師からの通報を受けてから、施設への立ち入り調査、職員への聞き取り、介護記録や医療記録の収集などを経て、客観的な証拠に基づいて身体的虐待かどうかを慎重に判断しています。この事例でも、認定までに実に3ヶ月の期間を要しています。

施設が取るべき対応

施設側が「わざとではない」と抵抗してしまうと、行政側は「権利侵害の意識が非常に薄い施設だ」と逆にマークされかねません。

虐待の認定は非常に苦しいことではありますが、施設は行政の調査に真正面から向き合い、その施設でのケアの向上に繋げる必要があります。この機会を施設運営を見直す重要なきっかけとしなければ、より酷い身体的虐待や心理的虐待などの事案が慢性的に起きる施設になりかねません。

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高齢者虐待防止法が目指すのは、高齢者の権利擁護です。職員の主観ではなく、高齢者の状態を客観的に見て、不適切なケアがないかを確認することが重要となります。