掬った水が指からこぼれ落ちるように
すべての人は
すべての物を
掬いきれない
両親
兄弟
犬猫
仲間
どうしても
どうしても
これだけはという物から
残していかなくてはならない
どうしても
どうしても
泣く泣く指から溢れるのを
見送らなければいけない
もう何が零れ落ちたかさえ
わからなくならざるを得ない
私の手の中には
何が残っているだろう
私の小さな手には
友人
恋人
これで手一杯だ
文字通り
手一杯だ
私は
あの人の手から
零れ落ちても仕方ない
それでも溢れ落ちた水が
どの雫かさえ
覚えていられないように
私がこのまま黙ってしまえば
程なく私は
大海の一滴のように
あの人の記憶から埋もれてしまうだろう
遡れ
遡れ
私!
必死に手のひらに残るんだ
しがみつけ
しがみつけ
私!
必死に手のひらに残るんだ
あるがままにいると
消え去る
消え去る
忘れ去る
それだけは嫌だ
あなたの手から
私は溢れ落ちていく身であろうと
わたしの手から
あなたは溢さないんだよ
たとえわたしが
いつか
かならず訪れる
手のひらを
翻す時が来ても