昔、住んでた近くには
桜並木がありました
細い川の両側に
まるで川を抱きしめる様に
白く白く
白い花びら
真ん中だけ少し桜色
風に乗って舞う
それはそれは美しい光景でした
まるでこの世の幻の様でした
私たちはその桜が大好きでした
いつしか
いつの年の頃からか
暦ばかりの春が訪れ
桜の蕾が綻ぶ
少しだけ前から
小さな小さな桜色の少女が姿を現す様になりました
いつもいつも
ただ幸せそうに
微笑んでいました
季節が過ぎ、桜の見頃が終わっても
その少女はただ幸せそうに
毛虫を愛でていました
私たちは
その桜が大好きでした
遠く離れて暮らす様になっても
私たちは桜の事を忘れませんでした
遠くの空からあの夢の様な光景を
季節が巡る度、懐かしんでいました
すると
遠く離れてしまっているのに
桜色の少女は姿を表し
元気だよ
まるでそう言うかの様に
色付いた着物の裾を翻し
ただ幸せそうに微笑んでいました
更に時は流れて
風の便りに
あの桜並木が老木化が進み
花を付けなくなりはじめたと聞きました
私たちは
久しぶりにその川を訪れました
川を優しく包み込んでいた見事な枝振りは
見る影もなく剪定されていました
桜の少女は
それでもただ幸せそうに
でも、どこか力なく
大丈夫だよ
まるでそう言うかの様に
微笑んでいました。
遠く遠くに離れていても
私たちが桜のことを思うたびに
桜の少女は現れて
あの時と同じような
ふぅわりと優しい
それでいて、まるで幸せがほとばしるような
笑顔を見せに来てくれました。
私たちは
その桜が大好きでした
でも。
今年はまだ
姿を見せてくれません。
ただ、ただ
遠くの空から
あの桜並木を思う
私たちなのでした。