前回は、水源涵養の観点から森林について見てみました。
要点としては、
1.林冠が覆われている事。
2・土壌が成熟し、団粒構造が発達している事。
の二点が挙げられます。
水の流下速度を充分に遅らせられるスポンジ状の土と、その表土を保護する樹木の梢。
イメージできたでしょうか。
情景として頭に思い描く事が、記憶の手助けになります。
さて、上記の条件を満たす森林はどのようなものでしょうか。
森林を考える上で、構成種の特長付ける性格は、大きなウエイトを占めます。
針葉樹・広葉樹が主たるものですね。
まず広葉樹ですが、日本の大半の天然林と呼ばれる地域は広葉樹林です。
毎年多くの良質のリター(落葉・落枝)が生産され、地表に供給されます。
これらは土壌生物の“ごちそう”であり、多くの生物を育て、増やします。
彼らは森の掃除屋であると同時に耕作者でもあり、多くの間隙を持つ良質な土壌を作り出します。
また広葉樹林は、土壌中だけでなく多くの動物・植物にとっても住みやすい環境です。
生産・消費のサイクルは完結しており、生態系のバランスの中で永続的に存在する事ができます。
どうやら、広葉樹林は水源涵養能の高い森林と言えるようです。
では、針葉樹林はどうでしょうか?
代表的な人工林で考えてみましょう。
林冠は閉塞していますが、林床植物に乏しいようです。
スギやヒノキの葉には他の植物の育成を阻害する成分が含まれると言われますが(多感作用=アレロパシーと言います)、実は針葉樹では抗菌作用のあるフィトンチッドが含まれる程度で、むしろ種として進化している広葉樹の方が阻害作用は強いそうです。
問題なのは、近年の林業離れによる山地の荒廃です。
ただでさえ不安定な表土に加え、過密な植栽による下層植生の減少が拍車をかけています。
木々も混み合い、不十分な成長により風や大雨にも弱く、枯死や倒木による土砂崩壊が全国各地で報道されています。
さらに、これらの落葉は離れやすく、雨滴によってバラバラになってしまい、表土を保護するのが難しいので植物が定着しづらいのです。
きちんと施行された人工林は、間伐によって全体的に見通せるぐらいにまですっきりとした森林で、下層植生も戻り、実は野生動物も結構生育しています。
あくまで「生産」の森ではありますが、その森を作るのは「人」。
場所ごとの環境やニーズを踏まえ、どのような森林が望ましいのか目的を持った整備をしていく事が重要です。
その為にも、多くの森林を訪ねて実際に感じる事、また山村の現状を知る事があわせて求められます。