5月(卯月)の別名には、木葉採月(このはとりづき)というものがあります。

「蚕(かいこ)の食べる新鮮な桑の葉を採る月」という意味です。

 

かつて絹は、日本の重要な産業のひとつでした。

この頃、農家は蚕の世話と田植え、そして地域によっては麦の収穫も重なって、とても忙しい時期です。

 

「猫の手も借りたい」という言葉はここからきており、猫は大切な蚕をねずみから守ってくれることから、実際に猫を貸し借りすることもあったようです。

猫の手は役に立たないもののたとえになっていますが、かつては役に立っていたこともあったのですね。

 


最近の猫ブームしかり、飼い主の消費を促すネコノミクスと今日も猫の周りは大忙しです。

 


 また、七十二候には「蚕起きて桑を食む」とあり、あらゆるものが生命力に満ちあふれる頃とされます。

 


「蚕=養蚕」といえば、明治時代に全盛期を迎えた一大産業です。

世界遺産となった「富岡製糸場」が有名ですが、皇室で「養蚕」が行われているのはご存知でしょうか。

明治4年に始まった皇室の「養蚕」は、歴代の皇后に受け継がれ、春から初夏の約2ヶ月間、公務の合間を縫って行われます。

 

そこで飼育される品種のひとつ、国産種の「小石丸(こいしまる)」は、正倉院に残る宝物「古代裂(こだいぎれ)」の復元のため、平成6年から16年間、正倉院に贈られました。



この「小石丸」、小繭で糸が細く量も少ないことから飼育中止となるところ、当時の皇后・美智子さまの意向で廃棄を免れた経緯があります。

偶然によって稀少な品種と正倉院の宝物が護られたともいえます。

 

皇室の「養蚕」で作られた絹は、宝物の復元のほか外国元首への贈り物にも。

その交流は、現代のシルクロードといえるかもしれませんね。

 


 七十二候‥二十四節気をさらに5日ずつに分け、気象や動植物の変化を短文で表したもの