まつげに接着剤で人工を取り付ける「まつげエクステ」を巡り、客に有料で指導して自分で付けさせる「セルフ方式」が出回り始めている。まつげエクステは、健康被害が後を絶たず、施術には美容師免許が必要な行為。無免許業者の摘発が全国で相次いだため、美容師法の規制が及ばないセルフ方式が抜け道となっている可能性がある。セルフ方式による健康被害の報告はまだないが、国民生活センターは「重大事故につながる恐れがある。免許があり、熟練した技術を持つ専門店で施術を受けるべきだ」と注意を促す。
「コストパフォーマンスが良く両目で数百円」「美容師免許は必要ありません」。セルフ方式の店の宣伝文句だ。エクステはエクステンション(拡張)の略で、長いつけ毛の意味で使われる。毎日取り外すつけまつげと違い、専用の強力接着剤で人工毛を付ける韓国発祥の美容法だ。
まつげエクステを巡っては、刺激の強い接着剤などによる健康被害が相次ぐ。全国の消費生活センターには「施術後に目がはれた」「涙が止まらない」などの相談が寄せられ、厚生労働省は2008年、美容師免許を義務付ける通達を出した。その後も被害相談は絶えず、国民生活センターによると2010~14年度で計599件に上る。国民生活センターのアンケートでは、利用者の4分の1が施術後に目の痛みやかぶれを経験していた。
この間、免許のないエステ店やネイルサロンでの施術が横行。全国の警察は経営者を美容師法違反容疑で逮捕するなど、10~14年に計約40件を検挙した。
このため、無免許営業は減ったが、代わってここ数年で広まったのがセルフ方式。インターネットなどで集めた客に接着剤やピンセットの扱い方を指導し、相場は2~3時間で1万数千円。一度受講すると、以降は人工毛などの消耗品の費用だけで済む。毎回数千~1万円が必要な専門店より安価で人気があるという。
美容師法が適用されるのは客への施術に限られ、セルフ方式は「グレーゾーン」。ある警察幹部は「客の肌に触れない以上、美容師法を適用するのは難しい」と打ち明ける。
セルフ方式の広がりを受け、専門店の業界団体「日本まつげエクステンション協会」(東京)は、消耗品の販売業者に呼びかけて購入時に免許を確認することを検討。北沢雅一理事長は「閉店した無免許の経営者がセルフ方式を隠れみのにしているのでは」とみる。
まつげエクステに関する厚生労働省の検討委員を務めた福下公子・日本眼科医会副会長の話 通常は目を閉じて付けるが、セルフ方式では開けた状態で行うため、接着剤で角膜炎を起こしたりピンセットで目を傷つけたりするリスクが高い。視力低下の恐れもあり、極めて危険だ。重要な施術前のカウンセリングもできない。健康被害が起きても、指導した店は「自己責任」と主張するため、被害者が泣き寝入りしかねない。早急な対策が必要だ。