平成28年刑事訴訟法ガール | 大江ゆかりのブログ

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平成24年度新司法試験再現答案。
私は『とめはねっ!』に出てくる鈴里高校書道部唯一の男子部員、帰国子女です。
第14巻(最終巻)は平成27年5月29日発売!

〔設問1〕
 結論はともかく、何条の問題としてどのように論じているかは大切だと思います。
 個人的には、前段・後段とも適法。
(1)【事例】2
 不審事由がみとめられ、任意同行を求めている(警職法2条1項2項)。
 尿の提出のため警察署への同行を求めるというのは、よくあります。
 尿の提出をもとめるのを職務質問にともなう所持品検査にするのは違和感があります。そこは任意捜査(197条1項本文)にすべきかな。
 そうすると、行政警察活動と司法警察活動の不可分性・連続性などにも一言ふれておきたいです。
(2)【事例】3
 覚せい剤の使用が疑われているとき、自動車の運転は危険なので、自動車の運転を停止するのはOK。
 では、歩いて立ち去ろうとするのを停止するのは?
 警職法上の停止行為としての有形力の行使で説明するのも1つです。
 が、自動車を捜索すべきものとする捜索差押状、採尿令状の請求がなされ、発付されたらすぐに執行したいので、自動車で立ち去られるのは困るし、身1つで立ち去られるのも困る。
 とすると、留め置き行為は、令状執行の実効性を確保するための任意捜査(197条1項本文)と位置付けられます。
 留め置き時間が長いことが問題となります。そこをどう説明するかで、適法にも違法にも説明できると思います。

〔設問2〕 検察官Sによる下線部①及び②の各措置の適法性
(1) ①について
 検察官の弁録中であり、「弁護人等から接見等の申出を受けた時に現に捜査機関において被疑者を取調べ中である場合などのように,接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合」にあたる。
 初回接見の重要性を考慮したとしても、弁護人は「警察署での接見」を希望しており、ただちに弁録を中断して被疑者の身柄を警察署に戻して接見を可能にするのは相当とはいいがたい。また、
Tは,「仕方ないですね。」と同意している。
 したがって、①は適法である。

 弁護人、地検まで接見に行け!
 「警察署で接見させろ」という過剰な要求をするのが信じられない。
 警察に行ったら被疑者は検調だった。だったら、弁護士は検察庁まで追いかけます。
 検察庁に行ったら、被疑者は裁判所に出たあとだった。だったら、弁護士は裁判所で被疑者をつかまえます。
 「熱血弁護」とはそういうもの。
 また、通常は送検後、被疑者の身柄は勾留請求による勾留質問のため裁判所に連れて行かれるから、検察官が接見のため、勾留質問を後回しにして、弁護人の接見のためにすぐに被疑者を警察署にもどすというのはフィクション。

(2) ②について
 自白獲得のため、一方的に接見指定を反故にして再指定するのは信義にもとる。
 初回接見だとかなんだとか、そういうことからもなおさら。 
 検察官アウト! ただちに検事正宛てに内容証明で抗議書を送付する弁護人もいるはず。

 でも、検察官がいったんは約束していたとはいえ、弁護士の「警察署で接見させろ」という要求が過剰であり、おくれた時間もわずかであること、被疑者の訴追を左右する重要な取調べであったことを強調すれば、適法もありうる。
 もちろん、そのぎゃくで防御権(弁護権)の重要性から違法という結論もOK。 

〔設問1・2〕の各問は、結論がどうだという問題ではないです。
 わたしなら全部適法で書きます。たぶん、〔設問1・2〕とも小問2は、そのほうが少数派で目立つ。  

〔設問3〕
【資料】に記載されている下線部③の証言の証拠能力について,非伝聞にあたり,伝聞法則(320条1項)の適用はなく,証拠能力は認められる。
 本証言は,本供述の存在とその内容を要証事実とするものであり、かかる事実が証明されれば,乙に覚せい剤であるとの認識が認められる。
 そうすると、本証言は、上記要証事実との関係で供述の内容となる事実の真実性は問題とはならず、非伝聞である。
 したがって、③証言は、非伝聞ゆえ伝聞法則の適用なく証拠能力が認められる。


〔設問4〕
 被告人乙が戊方にいたことを前提とする弁護人Uの下線部④の質問及びこれに対する 乙の供述を,刑事訴訟法第295条第1項により制限することはできない。
 公判前整理手続の経過及び結果を考慮すれば、主張を予定していたアリバイである「平成27年6月28日は,終日,丙方にいた。」という事実とは異なる。
 しかしながら、第1回公判期日後,戊から届いた手紙によって思い出した,同日,戊方でテレビを見ていた」という事実は、アリバイの具体的内容であることにおいて公判前整理手続で主張を予定していた事実と共通している。
 また、弁護人Uの「戊方で見ていたテレビ番組は何ですか。」という質問は、アリバイの具体性・迫真性・詳細性・真実性を明らかにするものであり、「戊方にいた」というアリバイ事実の信用性にかかわるものである。
 そうすると、「事件に関係のない事項」(295条1項前段)とはいえない。
 したがって、被告人乙が戊方にいたことを前提とする弁護人Uの下線部④の質問及びこれに対する乙の供述を,刑事訴訟法第295条第1項により制限することはできない。

〔放言〕
 実務家にとってはわりと日常的にありそうな事例ですが、受験生にとっては基本から考えさせる良問ながらうまく処理するのがなやましい問題でもあったと思います。
 なにより感じたことは、これはかなりのボリューム! これを書き切れというのは、無理ゲー。
 論文試験のオーラスにこれを手書きで書き切るのは、かなり過酷ですね。
 ほんとうにお疲れさまでした。

 でも、2回試験等の起案でも、10枚しか書かない修習生がいる一方で、100枚書く任官志望者とかがいるんです。
 
 やはり多くの事実に細かい配点が振られているので、「決め手となるこの事実だけ押さえていたら大丈夫だろう」などと考えていると、そんなに点数が伸びません。それは、研修所起案がそうです。

 自己の結論に対し、積極・消極の両事実を多く拾い上げて評価し、説得的な答案を書くことを目指すべきだと思います。理想としては。

 これを読んでも、答案としてどう書くのか見えにくいかも知れません。
 大切なことは、
1 何条の問題として論じるのがノーマルか?(と言いつつ、正解筋は複数ありえます)。
2 何条で論じたら、どういう事実をどういう要件で検討するか?(これは大切!)
3 とくにどういう事実(特殊事情)が問題となるかを摘出できているか?
〔設問1〕 採尿令状執行までの留め置きは、実務のトピックスです。
〔設問2〕 再度の接見指定は、正面から問題にすべきです。
 こういう特殊事情を問題として正面から斬りこんでいないと、高得点になりにくいと思います。
 
 ただ、1と2の基本の部分でしっかり取っていたら、3が不十分でも合格ラインには届きます。
 本試験で、どこに配点が振られているか? (自分は)どこを書けば点が取れるか?を見極めて答案作成すれば、「自分にとっての合格答案」が書けるはずです。



 客観的な合格答案を模索するのではなく、自分の書ける合格答案を書いてくることが大切だと思います。