(第143回)代走芸
もう一月以上前になるが、大阪で行われた世界陸上を見に行って来た(9月1日土曜日)。
「地球上でこの人達より速く走れる者は現時点では存在しない!」という人々との出会いは、驚きと興奮の連続であり、彼らの鍛えられた肉体を見ることは、スポーツ観賞というより芸術鑑賞に近い感動があった。
生で見ていて感じたのが「陸上界に新しい波が来ているのかな?」である。というのも、短距離走で優勝する選手がみなびっくりするほどスマートで細いのだ。その筆頭がタイソン・ゲイ(100m、200m、4X100m優勝)、ジェレミー・ウォリナー(400m、4x400m優勝)、アリソン・フェリックス(女子200m、4X100m、4X400m優勝)である。いずれの選手も中距離選手のような細身で、素人目にはひ弱そうに見えるのだが、それでも勝ってしまうのである。体格に劣る我々日本人としては、これらの新世代選手の活躍はとても嬉しく思う。
かつて、カール・ルイスがベン・ジョンソンに破れて以来(1988年ソウル五輪)、陸上短距離界はパワー重視の時代となった。もちろんベン・ジョンソンはドーピングでの筋肉増強が発覚するわけだが、その後陸上界のテーマは『いかにバレないようにドーピングするか…』となった。他人の尿とすり替えたり、反応が出にくくなる別の薬を飲んだり、検査員を買収したり…隠ぺい工作は様々である。
元プロ野球選手で現タレント兼スポーツコメンテーターの某氏がTV番組でいっていた。その人は現役引退後、実際に自らが実験台となりドーピングしてみたそうである。すると、自分が限界と感じていた数値の10%上の世界に行けるらしい。
つまり、これまでどんなに血のにじむような努力をしても100 kgのバーベルを持ち上げるのが限界だった選手が、ドーピングにより110kg持ち上げられるようになるのである。100分の1秒を争う短距離界の選手がドーピングに走ってしまう気持ちも分からなくもない。
が、やはり薬物によって造られた肉体は、ロボットであり人間ではない。人間の代わりにロボットが代走している芸など見たくない…。
つい先日、ふとした手紙がきっかけで今頃ドーピングが発覚したM・ジョーンズの例もある。かつての女子スーパースター選手で、美人で爽やか、日本の大手企業のCMにも度々出演していた選手である。
また、ソウル五輪の金メダリスト、F・ジョイナーも、たびたびドーピン疑惑をかけられながらも、1998年に38歳の若さで心臓発作により他界してしまった。彼女の記録が現在も世界記録として遺されているところに、陸上界の矛盾が残されている。
こういったドーピング疑惑、発覚選手に共通していえることは、「筋肉隆々」である。そして今回の大阪陸上の短距離覇者はみな、「細身」の選手であった。
「細くて質の良い筋肉を造る新薬が開発された!」という邪推もあるかもしれないが、僕としては、「薬物を捨てた本来のアスリートの姿が戻った!」と信じたい。野球でいうならば、バリー・ボンズのようにパワーで場外に飛ばすバッティングから、イチローのような細身から技術でヒットを打つ者の時代に戻った、ということである。
2007年10月16日号掲載

タイソン・ゲイ 1982~
米の短距離陸上選手。大阪世界陸上で三冠達成。
| 追記・・・代走芸(だいそうげい)=タイソン・ゲイ。陸上競技ほどシンプルなスポーツもないと思いますが、実際に見ると本当に興奮、感動するんですよね~~! アリソン・フェリックスは本当に可愛かった!スピードNo.1!可愛さNo.1でした!世界陸上鑑賞のブログ日記はコチラ |
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